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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1411116
総通号数 30 
発行国 JP 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2024-06-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2023-08-15 
確定日 2024-05-23 
事件の表示 特願2018−132478号「ひずみゲージ、センサモジュール、軸受機構」拒絶査定不服審判事件〔令和2年1月16日出願公開、特開2020−8527号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成30年7月12日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 5月30日付け:拒絶理由通知
同年 8月 5日 :意見書、手続補正書の提出
同年11月11日付け:拒絶理由通知書
令和5年 4月28日付け:拒絶査定
(同年 5月16日 :拒絶査定の謄本の送達)
同年 8月15日 :審判請求書の提出


第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年8月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。
「【請求項1】
可撓性を有する基材と、
前記基材の一方の側に直線状に形成された複数の抵抗部と、
各々の前記抵抗部の両端部に形成された一対の電極と、を有し、
各々の前記抵抗部が同一面上で交差して互いに導通しているひずみゲージ。」


第3 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての拒絶の理由の概要は、次のとおりである。

理由4(進歩性の欠如)
本願発明は、下記の引用文献1に記載された発明及び下記引用文献26に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。



引用文献1 :特開2007−315757号公報
引用文献26:実願昭53−125359号(実開昭55−42158号)のマイクロフィルム(周知技術を示す文献)


第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定
1 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した引用文献1(特開2007−315757号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は合議体が付したものである。以下同様である。

ア 【0001】〜【0006】、【図5】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、たとえば車両の車輪に作用する摩擦力、垂直抗力等を検出するための車輪作用力測定装置に用いられる応力検出センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の応力検出センサとしては、車両に装備されるアンチロックブレーキ装置(以下、ABS)を構成する車輪作用力測定装置に用いられるものがある。図5は、そのような応力検出センサの一例を示している。本図に示された応力検出センサXは、基体91と、この基体91の両面に設けられた2対の帯状の抵抗体92a,92b,93a,93bとを具備している。2対の抵抗体92a,92b,93a,93bは、基体91の同じ面に形成されたものどうしが直交しており、互いの中央部が重なる配置とされている。たとえば、1対の抵抗体92a,92bは、SiO2などの絶縁体層(図示略)に覆われた基体91の表面に抵抗体92aを貼付し、この抵抗体92a全体を覆うように追加の絶縁体層(図示略)を形成した後に、抵抗体92bを貼付することにより形成されている。
【0003】
応力を測定する際には、1対の抵抗体92a,92bの交差部が測定点に位置される。1対の抵抗体92a,92bは、上記測定点に発生する応力に応じて、長手方向寸法が伸縮され、これによりそれぞれの両端縁間の電気抵抗が変化する。この電気抵抗の変化を読み取ることにより、上記測定点における2軸応力を測定可能となっている。さらに、基体91の両面に1対ずつの抵抗体92a,92b,93a,93bを備えることにより、基体91の厚さ方向におけるモーメントなども測定可能である。このような応力検出センサXを適宜組み合わせて車輪作用力測定装置を構成すれば、車輪に作用する摩擦力、垂直抗力等を検出し、路面摩擦係数等を得ることができる。これらの諸量に基づいて、たとえばABSの駆動制御がなされる。
【0004】
しかしながら、近年、ABSとしても制動距離の短縮化や、制動姿勢のさらなる安定化などの要求が高まっている。このため、上記車輪作用力測定装置には、摩擦力や垂直抗力をより高い精度で測定することが求められている。応力検出センサXは、上記測定点における応力を正確に測定するため、2対の抵抗体92a,92b,93a,93bが交差部を有しており、それぞれが上記絶縁体層を介して積層された構成となっている。このため、下位に配置された抵抗体92a,93aには、基材91の応力が直接伝達されるが、上位に配置された抵抗体92b,93bには、基材91の応力が上記追加の絶縁体層を介して伝達されることとなる。上記追加の絶縁体層を薄膜状に形成したとしても、その厚さ方向にせん断変形が生じることが避けられない。このため、下位に配置された抵抗体92a,93aに比べて上位に配置された抵抗体92b,93bによる検出精度が上記せん断変形の分だけ低下することとなる。このような検出精度の低下は、上記車輪作用力測定装置の測定精度の低下に直結するため、ABSの制動距離の短縮化や、制動姿勢の安定化といった要望に十分に応えられない場合があった。また、上記車輪作用力測定装置の測定精度向上には、応力検出センサXの小型化が有利であるが、その反面、応力検出センサXの小型化を図るほど、上記追加の絶縁体層のせん断変形の影響が大きくなるなどの問題があった。
【0005】
【特許文献1】特開平4−331336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、小型化を図るとともに、2軸応力の検出精度を向上させることが可能な応力検出センサを提供することをその課題とする。」
「【図5】



イ 【0016】〜【0024】、【図1】、【図2】
「【0016】
図1および図2は、本発明に係る応力検出センサの第1実施形態を示している。この応力検出センサA1は、基板1、1対の抵抗体2A,2B、配線パターン3、端子4、1対のホイートストンブリッジ回路61A,61B,および電源63を具備して構成されている。なお図1においては、図2に示す保護膜5を省略して示している。
【0017】
図1に示すように、基板1は、全体として略矩形状であり、図2に示すように、SUS板1A上に絶縁体層1Bが積層された構成である。本実施形態においては、基板1のサイズは、たとえば、1mm角〜8mm角程度の比較的小サイズとされる。これは、応力検出センサA1がABSを構成する車輪作用力測定装置に用いられる場合に、車両のサスペンションに埋設されるには、できるだけ小型であることが測定精度の向上に好ましいことによる。なお、絶縁体層1Bの厚さは、たとえば2000〜3000Å程度とされる。
【0018】
基板1の主面1a上には、1対の抵抗体2A,2Bが形成されている。1対の抵抗体2A,2Bは、たとえばCrOxまたはNiからなり、5000Å程度の帯状膜とされている。本実施形態においては、1対の抵抗体2A,2Bは、中央部2aを共有した平面視十字状の一体部材として構成されており、それぞれの側延部2Ab,2Bbが互いに直交する方向に延びた配置とされている。また、1対の抵抗体2A,2Bは、応力が負荷されていない自然状態において、それぞれの両端縁2Ac,2Bc間における電気抵抗が同一となる長さおよび厚さとされている。この応力検出センサA1は、中央部2aが測定点と一致する配置とされる。1対の抵抗体2A,2Bは、この測定点における応力に応じて、これらの長手方向寸法がそれぞれ伸縮する。この伸縮により、1対の抵抗体2A,2Bの両端縁2Ac,2Bc間における電気抵抗が変化する。この変化を読み取ることにより、1対の抵抗体2A,2Bがそれぞれ延びる方向、すなわち互いに直交する2軸方向の応力を検出可能となっている。このような1対の抵抗体2A,2Bは、スパッタリングまたはCVDなどの薄膜形成手法により、CrOxまたはNiの薄膜を生成し、この薄膜に対して、フォトリソグラフィにより形成したレジストマスクをエッチングマスクとしたドライエッチングを施すことにより形成することができる。
【0019】
図1に示すように、基板1の一端縁には、4つの端子4が設けられている。4つの端子4は、配線パターン3により、1対の抵抗体2A,2Bと両端縁2Ac,2Bcにおいて導通している。4つの端子4および配線パターン3は、たとえば金からなる。
【0020】
図2に示すように、1対の抵抗体2A,2Bおよび絶縁体部材3を含む主面1aには、これらを覆う保護膜5が形成されている。保護膜5は、たとえばSiO2からなる。
【0021】
図1に示すように、4つの端子4には、1対のホイートストンブリッジ回路61A,61Bが接続されている。ホイートストンブリッジ回路61Aは、3つの抵抗61Arと抵抗体2Aとによって構成されている。ホイートストンブリッジ回路61Bは、3つの抵抗61Brと抵抗体2Bとによって構成されている。
【0022】
1対のホイートストンブリッジ回路61A,61Bは、スイッチング機構62A,62Bを介して、電源63に接続されている。電源63は、ホイートストンブリッジ回路61A,61Bの電位差を検出することにより、1対の抵抗体2A,2Bの抵抗値の変化量を計測するための直流電圧を印加するためのものである。スイッチング機構62A,62Bは、それぞれ電源63の正極および負極を選択的にホイートストンブリッジ回路61A,61Bのいずれかに接続するためのものである。スイッチング機構62A,62Bは、たとえば10kHz以上の周波数で、ホイートストンブリッジ回路61A,61Bを交互に電源63へと接続可能に構成されている。このスイッチング機構62A,62Bの切替周波数は、たとえばABSを構成する車輪作用力測定装置において、車輪に作用する2軸方向の力をほぼリアルタイムで計測するのに十分な周波数とすることが望ましい。
【0023】
ホイートストンブリッジ回路61A,61Bからは、それぞれ出力端子64A,64Bが取り出されている。出力端子64A,64Bは、ホイートストンブリッジ回路61A,61Bの構成を利用して、1対の抵抗体2A,2Bの抵抗値の変化量を読み取るために用いられる。1対の抵抗体2A,2Bの抵抗値の変化量は、測定点における応力の大きさに対応している。
【0024】
応力検出センサA1を用いた応力の測定は、以下のように行われる。図1に示された応力検出センサA1は、スイッチング機構62A,62Bによって、ホイートストンブリッジ回路61Aが電源63に接続された状態とされている。このため、ホイートストンブリッジ回路61Aには、直流電圧が印加されているが、ホイートストンブリッジ回路61Bには、直流電圧は印加されていない。この状態で、基板1が貼付された測定点に応力が生じると、1対の抵抗体2A,2Bの中央部2aを中心として、1対の抵抗体2A,2Bに歪が生じる。ただし、直流電圧が印加されているのは、ホイートストンブリッジ回路61Aを構成する抵抗体2Aのみである。このため、上記測定点の2軸応力に対応して1対の抵抗体2A,2Bが伸縮しても、抵抗値の変化量として検出されるのは、抵抗体2Aの伸縮のみである。すなわち、上記測定点に生じた2軸応力のうち、抵抗体2Aの側延部2Abが延びる方向の応力のみが出力端子64Aから選択的に検出される。この応力によって抵抗体2Bが変形したとしても、この変形によっては抵抗体2Aの両端縁2Ac間の抵抗はほとんど変化しないからである。一方、スイッチング機構62A,62Bを図示された状態と反対側の経路を閉じる状態とすると、ホイートストンブリッジ回路61Bに電源63からの直流電圧が印加される。これにより、上記測定点に生じた2軸応力のうち、抵抗体2Bの側延部2Bbが延びる方向の応力が出力端子64Bから選択的に検出される。スイッチング機構62A,62Bの切替を、たとえば10kHzの切替周波数で行うことにより、上記測定点における2軸応力をほぼリアルタイムで検出することができる。」
「【図1】


「【図2】



ウ 【0025】〜【0028】
「【0025】
次に、応力検出センサA1の作用について、以下に説明する。
【0026】
本実施形態によれば、上述した測定点における応力検出精度を向上させることができる。その理由として、1対の抵抗体2A,2Bが互いに直交するとともに、それぞれが中央部2aを共有した平面視十字状とされていることがある。中央部2aが応力検出すべき測定点に中央部2aが一致するように基板1を貼付すれば、上記測定点に生じた応力が1対の抵抗体2A,2Bのそれぞれに直接伝わることとなる。たとえば、1対の抵抗体2A,2Bが重なる部分に絶縁体層を設けた構成においては、この絶縁体層の厚さ方向に生じるせん断変形分だけ、1対の抵抗体2A,2Bのうち上位に位置するものの歪が不正確となる。本実施形態においては、このような絶縁体層が介在することがなく、しかも1対の抵抗体2A,2Bは、一体的に成形された部材とされている。また、1対の抵抗体2A,2Bが互いに直交する構成とされていることにより、上記測定点に生じた2軸応力を、互いに直交する方向における応力成分として独立して検出することが可能である。したがって、上記測定点における2軸応力を正確に検出することができる。
【0027】
半導体製造プロセスに用いられる手法によって抵抗体2A,2Bを形成すれば、それぞれを所望のサイズおよび形状に正確に仕上げることが可能である。これにより、抵抗体2A,2Bの両端縁2Ac,2Bc間寸法を正確なものとすることができる。したがって、抵抗体2A,2Bの両端縁2Ac,2Bc間の電気抵抗を等しいものとして、応力検出精度を向上させるのに有利である。
【0028】
スイッチング機構62A,62Bを用いて、電源63からの直流電圧をホイートストンブリッジ回路61A,61Bに対して交互に印加することにより、平面視十字状の一体部材とされた1対の抵抗体2A,2Bに伝達された応力を独立して適切に検出することが可能である。これは、抵抗体2A,2Bが互いに直交する配置とされているため、たとえば抵抗体2Aが延びる方向の応力によって抵抗体2Bがその幅方向に伸縮しても、抵抗体2Aの両端縁2Ac間の抵抗値には抵抗体2Bの伸縮はほとんど影響を及ぼさないからである。したがって、本実施形態によれば、1対の抵抗体2A,2B間に絶縁層を設けない構成であるにもかかわらず、それぞれが延びる方向の応力を合理的かつ正確に検出することができる。また、スイッチング機構62A,62Bを用いて同一の電源63を活用することにより、電源の必要数を半分とすることが可能である。これは、応力検出センサA1全体の小型化、および製造コストの低減に有利である。」

エ 【0034】〜【0035】
「【0034】
本発明でいう基板は、SUS板と絶縁体層とを積層させた構成に限定されず、たとえば、絶縁体の単層構造としてもよい。絶縁体の材質としては、SiO2のほかにセラミックなどの絶縁体物質を用いてもよい。抵抗体、絶縁体部材などは、薄膜形成技術やドライエッチングなどの半導体製造プロセスに用いられる手法により形成することが望ましいが、これらに限定されるものではなく、厚さや平面形状を正確に仕上げることが可能な手法であればよい。
【0035】
本発明に係る応力検出センサの用途としては、基体の両面に2つの応力検出センサが設けられた構成、あるいは、立方体の基体の6面に計6つの応力検出センサが設けられた構成とされた車輪作用力測定装置などが適しているが、これに限定されず、微小な応力測定点について直交する2軸応力を検出するあらゆる装置に適用することが可能であることはもちろんである。」

(2) 引用発明の認定
前記(1)において摘記した事項から、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
<引用発明>
「 基板1、1対の抵抗体2A,2B、配線パターン3、端子4、1対のホイートストンブリッジ回路61A,61B,および電源63を具備して構成されている応力検出センサA1であって、(【0016】)
基板1は、全体として略矩形状であり、SUS板1A上に絶縁体層1Bが積層された構成であり、絶縁体層1Bの厚さは、たとえば2000〜3000Å程度とされており、(【0017】)
基板1の主面1a上には、1対の抵抗体2A,2Bが形成されており、
1対の抵抗体2A,2Bは、たとえばCrOxまたはNiからなり、5000Å程度の帯状膜とされており、
1対の抵抗体2A,2Bは、中央部2aを共有した平面視十字状の一体部材として構成されており、それぞれの側延部2Ab,2Bbが互いに直交する方向に延びた配置とされており、
1対の抵抗体2A,2Bは、応力が負荷されていない自然状態において、それぞれの両端縁2Ac,2Bc間における電気抵抗が同一となる長さおよび厚さとされており、
応力検出センサA1は、中央部2aが測定点と一致する配置とされるものであり、1対の抵抗体2A,2Bは、この測定点における応力に応じて、これらの長手方向寸法がそれぞれ伸縮するものであり、この伸縮により、1対の抵抗体2A,2Bの両端縁2Ac,2Bc間における電気抵抗が変化し、この変化を読み取ることにより、1対の抵抗体2A,2Bがそれぞれ延びる方向、すなわち互いに直交する2軸方向の応力を検出可能となっており、(【0018】)
基板1の一端縁には、4つの端子4が設けられており、4つの端子4は、配線パターン3により、1対の抵抗体2A,2Bと両端縁2Ac,2Bcにおいて導通しており、(【0019】)
4つの端子4には、1対のホイートストンブリッジ回路61A,61Bが接続されている、(【0021】)
応力検出センサA1。」

2 引用文献26に記載された事項及び周知技術1の認定
(1) 引用文献26に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用した引用文献26(実願昭53−125359号(実開昭55−42158号)のマイクロフィルム)には、次の事項が記載されている。
ア 明細書1頁下から9行〜2頁12行、第1〜3図
「 この考案は、ロードセル秤などに用いられるストレンゲージに関するものである。
従来、ロードセル秤においては、起歪部にストレンゲージを貼着して荷重により歪む起歪部の変形量を電気的信号に変換しているものであるが、その一例を第1図について説明する。すなわち、ビーム(1)の一端はペース等に固定される固定部(2)とされ、他端は自由端とされて荷重受部(3)となっているものであるが、中間部に二個の楕円孔を連設した孔部(4)が形成されて薄肉状に形成された四個の起歪部(5)が形成されている。このような起歪部(5)の外面には一個づつのストレンゲージ(6)が貼着されているものであり、これらのストレンゲージ(6)は第2図に示すように形成されている。すなわち、厚さ2〜30μ程度でエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等よりなる絶縁フィルム(7)の上面に金属薄膜抵抗(8)が形成されているもので、絶縁フィルム(7)が起歪部(5)に貼着されているものである。あるいは、第3図に示すように絶縁フィルム(7)と金属薄膜抵抗(8)とよりなるものの上に同様な絶縁フィルム(9)を貼着しているものである。」
「第1〜3図



イ 明細書3頁下から6行〜4頁4行、第4〜5図
「この考案の一実施例を第4図ないし第9図に基いて説明する。第1図について説明した部分と同一部分は同一符号を用い説明も省略する。まず、第4図に示すものは、エポキシ樹脂やポリイミド樹脂等よりなる厚さ2〜30μ程度のフィルム層(10)が、設けられ、このフィルム層(10)は起歪部(5)に貼着されるものであるが、その上面には金属箔(11)が貼着されている。そして、第5図に示すように前記金属箔(11)はエツチングされて端子部(12)を有する金属薄膜抵抗(13)が形成される。」
「第4〜5図



ウ 明細書4頁4行〜同頁最終行、第6〜9図
「ついで、この金属薄膜抵抗(13)の上部には半キユア状態(半硬化状状態)のカバーとなるフィルム層(15)が第6図に示すように設けられている。このフィルム層(15)はガラスペーペーにエポキシ樹脂を含浸させたものである。このフィルム層(15)は切欠部(16)を有して前記端子部(12)を露出させているとともに、その上には前記端子部(12)側を残して第7図に示すように周辺に延出部(17)を有する防湿膜、すなわち、アルミニュウム箔等による金属箔膜(18)が設けられている。この金属箔膜(18)は前記フィルム層(15)が半キュア状態であるため、その接着がきわめて容易である。このように形成されたものは第8図に示すように起歪部(5)に載置され、そのフィルム層(10)の下面を含めてエポキシ樹脂を基剤とした接着剤(19)により接着されている。ついで、露出している端子部(12)にはリード線(14)が半田付けされる。」
「第6〜9図



(2) 周知技術1の認定
前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって周知技術であったと認められる(以下「周知技術1」という。)。
<周知技術1>
「ストレンゲージにおいて、金属薄膜抵抗の両端部にリード線を半田付けするための一対の端子部を設けること。」

3 引用文献3に記載された事項及び技術常識1の認定
(1) 引用文献3に記載された事項
この審決において新たに引用する特開平6−300649号(以下「引用文献3」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、引用文献3は、令和4年5月30日付け拒絶理由通知書において引用された文献であり、令和4年8月5日に提出された意見書において請求人も「基材がステンレス鋼ダイヤフラムであること」を示すために引用している。
「【請求項6】 ステンレス鋼ダイヤフラム上にSiO2絶縁膜を形成した基板と、基板の上に形成したbccクロムと六方晶Cr2Nの結晶構造を有する歪抵抗膜と、この上に形成した電極からなることを特徴とする薄膜歪みセンサ。」
「【0037】
【実施例】
[実施例NO.1〜10]厚み0.2mm、直径30mmのSUS631ダイヤフラム基板上に、プラズマCVD法により厚さ3μmのSiO2絶縁膜を形成した。次に絶縁膜上に真空蒸着法またはスパッタリング法で、CrとCr2Nを含有する厚さ0.2μmの歪抵抗膜を全面に形成した。組成、結晶構造分析用のSiウエハも同時に同じ条件で歪抵抗膜を成膜した。」
「【図1】



(2) 技術常識1の認定
前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識1」という。)。
<技術常識1>
「歪みセンサの基板について、SUS上に絶縁膜を形成した基板の厚みを0.2mm程度にしてダイヤフラム基板とすること。」

4 引用文献29に記載された事項及び技術常識2の認定
(1) 引用文献29に記載された事項
この審決において新たに引用する大倉征「ひずみゲージとその応用」日本舶用機関学会誌第16巻第6号465〜473頁(昭和56年6月)(以下「引用文献29」という。)には、以下の事項が記載されている。
ア 465頁右欄11行〜466頁左欄9行、図2
「2.2 ひずみゲージの原理と構造
ひずみゲージ(以下ゲージと記す)とは,一言でいうと抵抗素子を伸び縮みさせると,その抵抗値が増減するという原理を利用したものである.ゲージを測定すべき材料に接着したとき,被測定物のひずみに対するゲージの抵抗変化率は,ひずみに比例し(3)式で表わすことができる.
ΔR1/R1=Ks・ε (3)
R1:ゲージの初期抵抗
ΔR1:ひずみを加えたときのゲージ抵抗変化分
ε:ひずみ
(3)式のKsをゲージ率あるいはゲージファクターと言っており,ほぼ2.0の値をとる.このようにゲージはひずみの発生する場所に適当な接着剤で取り付ければ,そこに生じたひずみによってごくわずかな抵抗変化を生じ,この抵抗変化を検出することによって,ひずみ量が定量的に測定することができる.
ゲージの構造は図2に示したように,ベースと称する電気絶縁物に金属抵抗箔を接着剤で固定し,エッチングにより格子状に成形する.抵抗箔とゲージリードは半田付けされ,このような構造のゲージを箔ひずみゲージと言う.初め,ゲージは金属抵抗細線を用いて作られ,線ゲージとして市販されていたが,最近の製品は箔ゲージが主流となり,ゲージの全需要の80%近くを占めている.
しかし,ゲージ長の長いものや,塑性域,高温用などの一部のゲージは,当分線ゲージタイプであろう.ベース材としては,紙,エポキシ樹脂,フェノール樹脂などが使用され,抵抗素材としては,Cu-Ni合金,Ni-Cr系合金などを使用する.また,半導体を用いた半導体ゲージもある.ゲージ抵抗値は120Ωが一般的であるが,変換器などには350Ωが主に使用されている.」




イ 469頁右欄下から6行〜470頁左欄3行、図13
「○7 ゲージ結線(当審注:「○7」は丸の中に算用数字7を含む記号を表す。)
結線は,図13に示したようにゲージ端子を用いる方法と,直接リード線に接続する方法がある.ゲージ端子は,ゲージを保護するために使用し,リード線が多少引っ張られても直接ゲージに力が伝わらないようになっている.取り付けは,ゲージ用接着剤を併用する.自己接着タイプもある.ゲージリードは,若干余裕をもたせて半田付けする.リード線が長い場合や,振動など加わる場合には,途中を接着剤(CC-15A)で固定したり,バインドして処理する.」




(2) 技術常識2の認定
前記(1)において摘記した事項に例示されるように、次の技術事項は当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識2」という。)。
<技術常識2>
「ひずみゲージの結線方法として、抵抗部に直接リード線を接続する方法があること。」

第5 対比
1 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「応力検出センサA1」は、本願発明の「ひずみゲージ」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、「ひずみゲージ」の発明である点において一致する。

(2) 引用発明の「基板1」は、本願発明の「可撓性を有する基材」と「基材」である点で共通する。
したがって、本願発明と引用発明は、「基材」を有する点において共通する。

(3) 引用発明の「基板1の主面1a上」に「形成」された「1対の抵抗体2A,2B」は、「それぞれの側延部2Ab,2Bbが互いに直交する方向に延びた配置とされており」、それぞれが直線状に形成されたものであるといえるから、本願発明の「前記基材の一方の側に直線状に形成された複数の抵抗部」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、「前記基材の一方の側に直線状に形成された複数の抵抗部」を有するという点において一致する。

(4) 引用発明の「1対の抵抗体2A,2B」は、「中央部2aを共有した平面視十字状の一体部材として構成されて」いるから、抵抗体2Aと抵抗体2Bは、同一面上で交差して互いに導通していることは明らかである。
したがって、本願発明と引用発明は、「各々の前記抵抗部が同一面上で交差して互いに導通している」点において一致する。

2 一致点及び相違点の認定
前記1の対比分析の検討結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次の(1)の一致点において一致し、後記(2)の相違点において相違する。
(1) 一致点
「基材と、
前記基材の一方の側に直線状に形成された複数の抵抗部と、を有し、
各々の前記抵抗部が同一面上で交差して互いに導通しているひずみゲージ」である点。

(2) 相違点
ア 相違点1
「基材」について、本願発明においては、「可撓性を有する」ものであるのに対して、引用発明においては、「SUS板1A上に絶縁体層1Bが積層された構成」であり、「可撓性を有する」ものであるか明らかではない点。

イ 相違点2
本願発明においては、「各々の前記抵抗部の両端部に形成された一対の電極」を有するのに対して、
引用発明においては、「基板1の一端縁には、4つの端子4が設けられており、4つの端子4は、配線パターン3により、1対の抵抗体2A,2Bと両端縁2Ac,2Bcにおいて導通しており」、1対の抵抗体2A,2Bの両端部に一対の電極が形成されているとはいえない点。

第6 判断
相違点の判断
前記相違点について検討する。
(1) 相違点1について
ア 「歪みセンサの基板について、SUS上に絶縁膜を形成した基板の厚みを0.2mm程度にしてダイヤフラム基板とすること」は、当業者にとって技術常識である(前記技術常識1を参照)。
イ 引用発明の基材は、「SUS板1A上に絶縁体層1Bが積層された構成」であるところ、前記技術常識1に倣って、引用発明の基材の厚みを0.2mm程度にしてダイヤフラム基板とすることは、当業者にとって自明な設計変更にすぎない。
ウ ここで、本願発明の「可撓性を有する基材」の厚みについては、本願明細書の段落【0013】の記載によれば「5μm〜500μm」を想定しているから、0.2mm程度(=200μm程度)のダイヤフラム基板は、「可撓性を有する」ものであるといえる。
エ してみれば、引用発明において、前記相違点1に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

(2) 相違点2について
ア 「ひずみゲージの結線方法として、抵抗部に直接リード線を接続する方法があること」は、当業者にとって技術常識であるから(前記技術常識2を参照)、引用発明において、「配線パターン3」を介して「基板1の一端縁」に「4つの端子4」を設ける代わりに、「1対の抵抗体2A,2B」の「両端縁2Ac,2Bc」に直接リード線を接続する結線方法を採用することは、当業者にとって自明な設計変更にすぎない。
イ そして、「ストレンゲージにおいて、金属薄膜抵抗の両端部にリード線を半田付けするための一対の端子部を設けること」は、当業者にとって周知技術であるから(前記周知技術1を参照)、引用発明の「1対の抵抗体2A,2B」の「両端縁2Ac,2Bc」に、リード線を半田付けするための一対の端子部を設けて、「一対の電極」として構成することは、当業者にとっては、適宜選択できる設計変更にすぎない。

(3) 総合評価
前記(1)及び(2)において検討したとおり、前記相違点1及び2に係る本願発明の構成は、格別のものではなく、当業者が容易に想到し得たものである。
そして相違点1及び2を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
よって、本願発明は、引用発明、周知技術1及び技術常識1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 請求人の主張について
(1) 請求人の主張の概要
請求人は、審判請求書の「(3)理由3(新規性)、理由4(進歩性)」「(3−1)請求項1」「(3−1−1)引用文献1を主たる引用例とした場合」において、概略次の主張をしている。
引用発明では、各々の抵抗部の両端部に電極が形成されておらず、各抵抗部の両端部は配線であり、配線の両端部が電極であるのに対して(図1等)、本願発明では、各々の抵抗部の両端部に電極が形成されている点で相違する。
また、引用発明では、4つの端子4は、配線パターン3により、1対の抵抗体2A,2Bと両端縁2Ac,2Bcにおいて導通しており(段落[0019]、図1等)、配線パターン3は抵抗体よりも細いため(図1)、抵抗値が高い可能性があり、基板1に生じたひずみを検出してしまい、配線パターン3によるひずみの検出は、ノイズ成分になる。
これに対して、本願発明では、各々の抵抗部の両端部に電極が形成されているため、引用文献1の配線パターン3のようなノイズ成分を生じる部分がなく、精度の良いひずみ検出ができる。
また、引用文献26に記載の発明は、抵抗部の両端部に電極が形成された一般的なひずみゲージであり、引用発明を一般的なひずみゲージと組み合わせて、配線パターンを削除する動機付けはない。引用文献1に配線パターン3を除去することを示唆するような記載はない。

(2) 請求人の主張に対する当審の判断
請求人の主張は、要するに前記相違点2に対する主張であると認められるところ、前記相違点2については、前記1(2)において検討したとおりであって、引用文献1に配線パターン3を除去することを示唆する記載がなくとも、技術常識2を備えた当業者ならば、「配線パターン3」を介さずに、「1対の抵抗体2A,2B」の「両端縁2Ac,2Bc」に直接リード線を接続する結線方法を採用することは、自明な設計変更にすぎない。
そして、周知技術1を踏まえて、引用発明の「1対の抵抗体2A,2B」の「両端縁2Ac,2Bc」に、リード線を半田付けするための一対の端子部を設けて、「一対の電極」として構成することは、当業者が適宜選択できる設計変更にすぎない。
また、引用発明において、「1対の抵抗体2A,2B」の「両端縁2Ac,2Bc」に直接リード線を接続する結線方法を採用することにより、配線パターン3からのノイズ成分がなく、精度の良いひずみ検出ができることは、当業者にとって容易に予測し得た効果にすぎない。
したがって、請求人の主張は、前記1(3)の結論を左右するものではない。

第7 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この審決に対する訴えは、この審決の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
審理終結日 2024-03-22 
結審通知日 2024-03-26 
審決日 2024-04-10 
出願番号 P2018-132478
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 02   不成立
特許庁審判長 岡田 吉美
特許庁審判官 田辺 正樹
濱野 隆
発明の名称 ひずみゲージ、センサモジュール、軸受機構  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 伊東 忠重  

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