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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 A61K 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 A61K 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
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管理番号 | 1411330 |
総通号数 | 30 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2024-06-28 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2023-07-24 |
確定日 | 2024-03-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第7211666号発明「水中油型乳化化粧料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第7211666号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 特許第7211666号の請求項1~3、6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第7211666号(以下「本件特許」という。)の請求項1~6に係る特許についての出願は、2017年12月22日を国際出願日とする出願であって、令和5年1月16日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その請求項1~3及び6に係る特許について、同年7月24日に、特許異議申立人 竹内 みどり(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審合議体は、同年9月29日付けで取消理由を通知した。これに対し、特許権者は、その指定期間内である同年12月28日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。その後、令和6年1月16日付けで訂正の請求があった旨の通知が申立人にされ、申立人は同年2月19日に意見書を提出した。 第2 訂正の適否についての判断 1 請求の趣旨及び訂正の内容 令和5年12月28日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、「特許第7211666号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」というものであり、その内容は以下の訂正事項1~3のとおりである(下線は訂正による変更箇所を示す。)。 (1) 訂正事項1 本件訂正前の請求項1に、 「(E)電荷中和剤を含有し」 と記載されているのを、 「(E)クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される電荷中和剤を含有し」 と訂正する。 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。 (2) 訂正事項2 本件訂正前の請求項1に、 「前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20質量%以上である」 と記載されているのを、 「前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%であり、 前記液状油剤全体に対する、前記非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率は、70~98質量%である」 と訂正する。 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。 (3) 訂正事項3 本件訂正前の請求項5に、 「ステップを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料」 と記載されているのを、 「ステップを含む、 (A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)電荷中和剤を含有し、 25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20質量%以上である、水中油型乳化化粧料」 と訂正する。 2 一群の請求項について 本件訂正前の請求項1~6において、請求項2~6は、請求項1の記載を直接的又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1及び2によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 なお、訂正請求書には、訂正後の請求項5について、別の訂正単位とする求めの記載はないから、特許権者は、訂正前の「一群の請求項」のまま、一体での訂正の適否の判断を望んでいるものと認める。 したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項〔1~6〕に対して請求されたものである。 3 訂正の目的の適否 (1) 訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1に記載の「電荷中和剤」を、「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものに具体的化合物を特定し限定するものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (2) 訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1に記載の「水中油型乳化化粧料」における「液状油剤」の含有比率の範囲について、「20質量%以上」を「20~60質量%」に限定し、さらに、当該「液状油剤」全体に対して、「非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」が、「70~98質量%」であることを特定し限定するものである。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、請求項5が引用する請求項1~4の記載を請求項1を引用する記載のみに限定し、さらに、その請求項1の記載を引用する請求項5の記載を、請求項1の記載を引用しない記載に改めるものである。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。 4 新規事項の追加の有無 (1) 訂正事項1について 本件特許の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲(以下「本件明細書等」という。)には、「電荷中和剤」についての一般的な説明(摘記(A))、及び、「水中油型乳化化粧料」の実施例の一部(摘記(B))として、以下の記載がある(以下、下線は当審合議体が付与したものであり、「・・・」は記載の省略を表す。)。 摘記(A) 「【0050】 本実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(E)は、電荷中和剤である。電荷中和剤は、クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのような一般的なバッファーから選択できる。」 摘記(B) 「【0058】 <実施例1~9、比較例1~5> 表1に示す、含有するポリマーの種類及び含有量が異なる水中油型乳化化粧料は、以下の方法によりを調製された(実施例1~9及び比較例1~5)。まず、水性媒体(欄「a」)アニオン界面活性剤(欄「b」)及びポリマー(欄「c」)を加熱し、撹拌機を用いて2500rpmで混合し撹拌した。次に、油剤(欄「d」)、電荷中和剤(欄「e」)をこの順で添加して、成分を同条件にて混合し撹拌して、混合物を得た。混合物を室温まで冷却した後、高圧ホモジナイザー(Star Burst:スギノマシン社製)を用いて、200MPaの圧力で処理し、水中油型乳化化粧料を得た。各原料の含有量(質量%)は、表1に示すとおりである。・・・ 【0063】 <実施例10~12、比較例6> 実施例10~12及び比較例6について、表2に示す、電荷中和剤の種類及び含有量が異なる水中油型乳化化粧料を、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により調製した。各原料の含有量(質量%)は、表2に示すとおりである。 【0064】 実施例10~12及び比較例6の水中油型乳化化粧料について、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により、官能評価、外観評価、及び経時安定性の評価を行った。結果を表2に示す。 【0065】 【表2】 」 本件明細書等には、「電荷中和剤」として、「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム」が例示され(摘記(A))、実施例10~12(摘記(B))では、「電荷中和剤」として、「クエン酸」、「リン酸ナトリウム」、「リン酸二ナトリウム」及び/又は「亜硫酸水素ナトリウム」が具体的に使用されている。 そうすると、「電荷中和剤」を、「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものに特定し限定することは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえる。 したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (2) 訂正事項2について 本件明細書等には、「油剤」の各成分及び各種含有比率についての一般的な説明として、以下の記載がある。 摘記(C) 「【0055】 水中油型乳化化粧料において、成分(C)の含有比率は、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは20~60質量%である。好ましくは、成分(B)の含有比率は0.1~10質量%、成分(D)の含有比率は0.01~2質量%、成分(E)の含有比率は、0.001~5質量%である。成分(A)は残分を構成する。成分(C)の含有比率の下限は、好ましくは30質量%、より好ましくは40質量%であり、下限は50質量%であってもよい。成分(C)は、好ましくは(C1)非極性油剤及びシリコーン油剤からなる群より選ばれる少なくとも1種と、(C2)これ以外の油剤とを含み、油剤全体に対するC1成分の含有比率は、好ましくは50~98質量%である。より好ましくは60~98質量%であり、更に好ましくは70~95質量%である。これらの比率は、水中油型乳化化粧料の全質量を基準とする。」 摘記(D) 「【0018】 また、油剤としては、本発明の水中油型乳化化粧料は、液状油剤を含有することができる。液状油剤は、好ましくは、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物である。このような油剤を使用することで、乳化化粧料の安定性が向上する。 ・・・ 【0028】 本実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(C)は、油剤である。添加される油剤は、好ましくは液状油剤である。油剤には、極性油剤、非極性油剤、シリコーン油剤が含まれる。」 摘記(C)によると、「水中油型乳化化粧料」におけるより好ましい「成分(C)」の含有比率は「20~60質量%」であって、「成分(C)」である「油剤」全体に対する「C1成分」の含有比率を「好ましくは50~98質量%・・・、更に好ましくは70~95質量%」とし、「(C1)」成分は「非極性油剤及びシリコーン油剤からなる群より選ばれる少なくとも1種」が好ましいとされ、摘記(D)によると、「油剤」は「液状油剤」が好ましいとされ、「C」成分として「液状油剤」が使用されている具体的な実施例(例えば、摘記(B))も記載されている。 そうすると、「油剤の含有比率」は「水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量」であり、「油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」は「70~98質量%」であって、当該「油剤」が「液状油剤」であるとすることは、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえる。 したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 (3) 訂正事項3について 訂正事項3は、上記3(3)で検討したとおり、記載を引用する請求項の一部を削除するとともに、請求項の記載を引用する請求項の記載を、請求項の記載を引用しない記載に改めるものであるから、本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものといえる。 したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 5 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の有無 上記3及び4で検討したとおり、訂正事項1~3は、本件明細書等に記載された事項の範囲内において、特許請求の範囲を減縮及び請求項の記載を引用しない記載に改めるものであり、発明の対象やカテゴリーを変更するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1~3による訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 6 独立特許要件について (1) 請求項1~3及び6について 本件特許異議申立事件においては、訂正前の請求項である請求項1~3及び6に係る特許に対して特許異議の申立てがされているから、請求項1~3及び6についての訂正事項1及び2による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、訂正後の請求項1~3及び6に係る発明については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。 (2) 請求項4及び5について ア 本件特許異議申立事件においては、訂正事項1及び2の訂正対象である請求項4並びに訂正事項1~3の訂正対象である請求項5に対して特許異議の申立てがされておらず、また、請求項4及び5についての訂正事項1~3による訂正は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものを含むから、訂正後の請求項4及び5に係る発明が独立特許要件を満たしているかを検討する。 イ 訂正前の請求項4に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、訂正事項1及び2による訂正後の請求項4は、上記3(1)及び(2)で検討したとおり、記載を引用する請求項1の発明特定事項の限定と連動して限定されたものであるから、このことによって新たな拒絶理由が生じることはなく、また、異議申立書とともに提出された証拠をみても、訂正後の請求項4に係る発明についての記載ないし示唆はないから、請求項4に係る発明については、その特許を取り消すべき理由を発見しない。 ウ 訂正前の請求項5に係る発明は、拒絶理由を発見しないとして特許されたものであり、訂正事項1~3による訂正後の請求項5は、上記3(3)で検討したとおり、記載を引用する請求項の一部を削除するとともに、請求項の記載を引用する請求項の記載を、請求項の記載を引用しない記載に改めたものであるから、このことによって新たな拒絶理由が生じることはなく、また、異議申立書とともに提出された証拠をみても、訂正後の請求項5に係る発明についての記載ないし示唆はないから、請求項5に係る発明については、その特許を取り消すべき理由を発見しない。 (3) まとめ 訂正事項1~3は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすものである。 7 小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項~7項の規定に適合するから、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1~6に係る発明(以下、各請求項に係る発明を請求項の番号順に「本件発明1」等といい、「本件発明1~3及び6」をまとめて「本件発明」ともいう。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6(以下、請求項の番号順に「本件請求項1」等という)に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正による変更箇所を示す。なお、訂正前の請求項4及び5に係る特許は、本件審理の対象外であるため、これらに対応する訂正後の請求項4及び5も、本件審理の対象ではない。)。 「【請求項1】 (A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される電荷中和剤を含有し、 25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%であり、 前記液状油剤全体に対する、前記非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率は、70~98質量%である、水中油型乳化化粧料。 【請求項2】 前記疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリアルキレンオキシド成分を含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有する、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。 【請求項3】 前記疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリエチレンオキシド及び/又はポリプロピレンオキシドを含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有する、請求項1又は2に記載の水中油型乳化化粧料。 【請求項4】 前記疎水基変性親水性多糖類は、疎水基変性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを含有する、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。 【請求項5】 成分(A)から(E)の混合物を、高圧ホモジナイザーにより100MPa以上の圧力で乳化するステップを含む、 (A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)電荷中和剤を含有し、 25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20質量%以上である、水中油型乳化化粧料の調製方法。 【請求項6】 請求項1~4のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料を肌へ施用するステップを含む、肌のナリシング方法。」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立理由の概要及び添付した証拠方法は、以下に示すとおりである。以下、下記(4)に示す甲号証を、それぞれ番号順に「甲1」等という。) (1) 申立理由1(特許法第29条第1項第3号:新規性) (1-1) 申立理由1-1 訂正前の請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1~3及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-2) 申立理由1-2 訂正前の請求項1及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (1-3) 申立理由1-3 訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2) 申立理由2(特許法第29条第2項:進歩性) (2-1) 申立理由2-1 訂正前の請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に本件特許の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1~3及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-2) 申立理由2-2 訂正前の請求項1及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に本件特許の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1及び6に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2-3) 申立理由2-3 訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に本件特許の発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3) 申立理由3(特許法第36条第6項第1号:サポート要件) 訂正前の請求項1~3に係る発明は、以下に示すア~ウの点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、訂正前の請求項1~3に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 ア アニオン界面活性剤の種類及び含有量について、本件明細書等及び甲4の記載を考慮すると、ステアロイルグルタミン酸ナトリウムを1.5%含有する場合以外の発明については、発明の課題を解決できるとは認識できない。 イ 比較例8は、高圧乳化を行っていない例で経時安定性等に劣るものであるが、請求項1~3の発明特定事項を満たすものであり、請求項1~3の要件のみでは発明の課題を解決できると認識できない。 ウ 本件明細書等の実施例には、水中油型乳化化粧料の粘度の値が記載されていないから、発明の課題と関係しているかどうか不明であり、請求項1~3における粘度の要件は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (4) 甲号証一覧 甲第1号証:特開2017-81868号公報 甲第2号証:特開2015-193546号公報 甲第3号証:特開2008-44901号公報 甲第4号証:化粧品事典、日本化粧品技術者会編、丸善株式会社、平成17年4月25日第3刷、p.335~336 2 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1~3及び6に係る特許に対して、当審合議体が令和5年9月29日に特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 (1) 取消理由1-1(新規性) 請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (2) 取消理由1-2(新規性) 請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1~3及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (3) 取消理由2-1(進歩性) 請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (4) 取消理由2-2(進歩性) 請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献3に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (5) 取消理由2-3(進歩性) 請求項1~3及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献2に記載された発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~3及び6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。 (6) 取消理由3(サポート要件) 請求項1~3及び6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。 本件明細書等に記載の実施例17と比較例8の化粧料の組成は等しく、それらの「25℃における粘度」も同程度であって、「10000mPa・s以上」であるものと認められるところ、比較例8は、実施例17と異なり、「経時安定性」及び「ナリシング効果」が、ともに4段階の最低評価である「D」となっており、本件発明の課題を解決している例とはいえない。 そうすると、比較例8の技術的事項は、本件発明1~3及び6の特定事項を有しているものの、本件発明1~3及び6の課題を解決できないものといわざるを得ず、本件発明1~3及び6は、全体として、当業者がそれらの課題を解決できると認識できる範囲のものではなく、かつ、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らしそれらの課題を解決できると認識できる範囲のものではない。 (7) 引用文献一覧 引用文献1:特開2017-81868号公報(甲1) 引用文献2:特開2015-193546号公報(甲2) 引用文献3:特開2008-44901号公報(甲3) 第5 当審における判断 当審合議体は、上記取消理由で通知した理由及び申立人の申立て理由によっては、本件請求項1~3及び6に係る特許は取り消されるべきものではないと判断する。 その理由は次のとおりである。また、以下の文献も参照した。 乙1:鈴木敏幸,エマルションの科学と実用乳化系の特性コントロール技術,株式会社情報機構,2015年7月15日,第1刷,p.156-159 乙2:小澤舞,陳述書,パルファン・クリスチャン・ディオール・ジャポン株式会社,令和5年11月22日作成,令和5年12月28日提出 (乙1及び乙2は、特許権者が令和5年12月28日付け意見書に添付して提出した乙第1号証及び乙第2号証である。) 1 引用文献、甲号証及び乙号証の記載事項 (1) 引用文献1(甲1)の記載事項 摘記(1a) 「【請求項1】 次の成分(A)~(E) (A)疎水変性ポリエーテルウレタン (B)水溶性高分子 (C)アシルグルタミン酸、ジアシルグルタミン酸リシンまたはそれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上 (D)油剤 (E)水 を含有することを特徴とする水中油乳化型組成物。 【請求項2】 成分(A)が、(ポリエチレングリコール-240/デシルテトラデセス-20/ヘキサメチレンジイソシアネート)コポリマーである請求項1記載の水中油乳化型組成物。」 摘記(1b) 「【発明の効果】 【0008】 本発明の水中油乳化型組成物は、油剤の種類や量に影響されず、べたつきがなく、復元性と高温安定性に優れたものである。 【0009】 また、本発明の水中油乳化型組成物は、特に油剤の量が多い場合であっても、上記効果を担保できるため日焼け止め料や、保湿力の高いクリームに好適である。 【0010】 更に、本発明の水中油乳化型組成物は、例えば、容器から指やサジで取り出し、表面を崩した後、すぐにその表面が滑らかに復元されるため、使用者に肌の復元も想起させる優れたものである。」 摘記(1c) 「【0018】 本発明の水中油乳化型組成物における成分(A)の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~5質量%(以下、単に「%」という)、好ましくは0.5~3%である。・・・ 【0023】 上記成分(D)油剤は、化粧料一般に用いられる油剤であれば特に限定されず、例えばエステル骨格を持つ極性油、流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素油、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー等のシリコーン油等を含む非極性油が挙げられるが、極性油を含むことが好ましい。この極性油としては、例えば、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、t-ブチルメトキシジベンゾイルメタン、ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、エチルヘキシルトリアゾン等の非極性油に難溶性の紫外線吸収剤、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル等の紫外線吸収剤、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、(カプリル酸・カプリン酸・ヤシ油脂肪酸)グリセリル、トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル、トリイソステアリン酸グリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、トリイソパルミチン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリオクタン酸グリセリル、ジイソステアリン酸ポリグリセリル、トリイソステアリン酸ジグリセリル、ジカプリン酸プロピレングリコール、ジオクタン酸ネオペンチルグリコール、コレステロール脂肪酸エステル、イソオクタン酸セチル、ラウリン酸ヘキシル、イソノナン酸イソノニル、コハク酸ジエステル、ステアリン酸硬化ヒマシ油、2-エチルヘキサン酸セチル、バチルアルコール、フィトステロール脂肪酸エステル、リンゴ酸ジイソステアリル、ホホバ油、オリーブ油、ミツロウ、キャンデリラロウ等が挙げられる。これら極性油の中でも特に非極性油に難溶性の紫外線吸収剤を含むことが好ましい。なお、これら油剤は1種または2種以上を用いることができる。 【0024】 本発明の水中油乳化型組成物における成分(D)の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.1~50%、好ましくは1~40%、より好ましくは9~40%である。成分(D)の中には、極性油を50%以上、好ましくは60%以上含むことが好ましい。・・・ 【0028】 更に、本発明の水中油乳化型組成物には、上記成分(A)~(E)に加えて、本発明の効果を損なわない限り、例えば、化粧料に配合されるグリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール等の多価アルコール類、エタノール、プロパノール等の低級アルコール類、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸エステル等のアニオン界面活性剤、4級アルキルアミン塩等のカチオン界面活性剤、アルキルベタイン等の両性界面活性剤、ポリオキシエチレンフィトステロール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール等の非イオン界面活性剤、パラベン、グルコン酸クロルヘキシジン等の防腐剤、タルク、シリカゲル、酸化チタン等の粉体類、トコフェロール、ブチルヒドロキシトルエン等の抗酸化剤、ヒドロキシメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム等の水溶性紫外線吸収剤、ポリエチレングリコール、ヒアルロン酸等の保湿剤、グリチルリチン酸ジカリウム等の抗炎症剤、クエン酸塩、酢酸塩等のpH調整剤、キレート剤、香料、色素等を含有させてもよい。・・・ 【0032】 ここで復元性とは、例えば、水中油乳化型組成物を容器から指等で取り出し、表面を崩した後、すぐにその表面が滑らかに復元されることをいう。具体的には、水中油乳化型組成物をB型粘度計で測定される、30℃の粘度が10,000mPa・s以上、好ましくは10,000~200,000mPa・sであり、かつ直径8cmの円形型樹脂容器に高さ4cmとなるように充填し、水平状態で表面が平坦な状態から、直径1cmの円形型プレートを表面より深さ2cmまで押し込んで孔を開けた後静置して、もとの平坦な状態に戻るまでの復元に要する時間が60秒未満であるものをいう。・・・ 【0034】 そのため、本発明の水中油乳化型組成物は、化粧料や皮膚外用剤等に用いることができ、特に日焼け止め料や、保湿力の高いクリーム等の化粧料に用いることができる。」 摘記(1d) 「【0037】 実施例1~12および比較例1~4 水中油乳化型組成物: 表1に示す組成および下記製造方法にて水中油乳化型組成物(ゲル状)を調製した。これらの水中油乳化型組成物を下記の評価方法および評価基準により評価した結果も表1に示した。 【0038】 【表1】 【0039】 <製造方法> A:成分(1)~(9)を80℃にて均一に混合した。 B:成分(10)~(15)を80℃にて均一に混合した。 C:AにBを加え、ホモミキサーで3,500rpm、10分間攪拌して乳化し、その後、室温まで攪拌冷却し、水中油乳化型組成物(ゲル状)を得た。 【0040】 <べたつき評価方法> パネル20名により皮膚に各試料を塗布時のべたつきを以下の評価基準に基づいて評価した。 (べたつき評価基準) 評価 内容 ◎ : 全くべたつきを感じない ○ : ほとんどべたつきを感じない △ : ややべたつきを感じる × : かなりべたつきを感じる 【0041】 <復元までに要する時間の測定方法> 直径8cmの円形型樹脂容器に高さ4cmになるように試料を充填し、水平状態で表面が平坦な状態から、直径1cmの円形型プレートを表面より深さ2cmまで押し込んで孔を開けた後静置して、もとの平坦な状態に戻るまでの復元に要する時間を測定した。なお、試料の温度は30℃であった。 【0042】 <復元性評価方法> 復元までに要する時間を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。 (復元性評価基準) 評価 内容 ◎ : 30秒以内 ○ : 60秒未満 △ : 60秒以上 × : 水平にならない 【0043】 <高温安定性評価方法> 各試料をジャー容器に入れ、50℃で1ヶ月保存した後、以下の評価基準に基づいて評価した。 (高温安定性評価基準) ◎ : 分離せず △ : 分離はしないが、表面に油浮きが見られる × : 分離 【0044】 <粘度の測定方法> 測定機器として、B型粘度計を用い、30℃における粘度を測定した。 【0045】 <塗布膜の均一性評価方法> パネル20名により皮膚に実施例12の水中油乳化型組成物を塗布し、目視により塗布膜の状態を以下の評価基準に基づいて評価した。なお、実施例12の試料についてだけ塗布膜の均一性について評価したのは、粉体を含有しているためであり、粉体を含有していない実施例1~11の水中油乳化型組成物についてはそもそも塗布膜にムラは確認されないため評価していない。 (塗布膜の均一性評価基準) 評価 内容 ◎ : ムラなし × : ムラあり 【0046】 実施例1~12の水中油乳化型組成物は、いずれも粘度が30,000mPa・s以上であり、比較例1~4の水中油乳化型組成物に比べ、べたつきのなさ、復元性、高温安定性、塗布膜の均一性の全てにおいて優れたものであった。 【0047】 実施例13 マッサージクリーム(水中油乳化型ゲル状): (成分) (%) 1.ラウロイルグルタミン酸ナトリウム 0.2 2.水 残量 ・・・」 (2) 引用文献2(甲2)の記載事項 摘記(2a) 「【請求項1】 次の成分(A)~(E); (A)油性成分 60~84質量% (B)多価アルコール 1~25質量% (C)ステロール骨格を有するノニオン性界面活性剤 (D)カロテノイド類 (E)水 0.01~20質量% を含有することを特徴とする高含油水性化粧料 【請求項2】 さらに成分(F)として、アルカリ可溶性乳化重合体を含有することを特徴とする請求項1記載の高含油水性化粧料 ・・・ 【請求項5】 成分(F)がアクリレート/セテス-20メタクリレート共重合体、アクリレート/ステアレス-50アクリレート共重合体、アクリレート/ステアレス-20メタクリレート共重合体、アクリレート/ベヘネス-25メタクリレート共重合体から選ばれる1種又は2種以上をポリマー分とするポリマーエマルションであることを特徴とする、請求項1~4の何れかの項記載の高含油水性化粧料」 摘記(2b) 「【発明の効果】 【0010】 本発明の高含油水性化粧料は、ウォータープルーフタイプのようなハードなメイク汚れも容易に落とすことができるメイク除去能に優れ、使用時に指すべりが良く、適度な粘度を維持できるため、クレンジング行為と同時にマッサージができ、使用後の保湿感に優れた高含油水性化粧料を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0011】 次に本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において高含油水性化粧料とは、60質量%以上の油性成分を内相とし、多価アルコールと水の混合物を外相(連続相)としており、外相の多価アルコールが水に対して相対的に多いため、油性成分との界面張力差が小さくなり、内相中に多量の油性成分を微細分散することができ、油性成分の体積効果により構造を保つ化粧料を指す。また、「~」はその前後の数値を含む範囲を示すものとする。」 摘記(2c) 「【0014】 本発明に用いられる成分(A)の油性成分は、化粧料中60~84質量%(以下単に%と略す)を含有することが必要であり、65~80%がさらに好ましい。この範囲であれば、高いメイク除去能が得られ、また構造も良好である。60% 未満では、メイクアップ量の溶解が不十分のためメイク除去能が不良となり、また良好な構造が得られないために、経時安定性が悪くなる場合がある。一方、84% を超えて含有するとぬるつき感が強くなり、また外相が内油相を保持しきれないため、経時安定性が悪くなる場合がある。・・・ 【0031】 本発明において、マッサージに適する粘度とは、おおむね5,000~100万mPa・sである。粘度の測定方法としては、例えば、ブルックフィールド型粘度計を用いて、試料の粘度に応じて、1号~4号ローターを適宜選択し、20℃の粘度を測定する。ブルックフィールド型粘度計の一例としては、「単一円筒型回転粘度計ビスメトロン」(芝浦システム社製)が挙げられる。 【0032】 本発明の高含油水性化粧料には、上記成分の他、本発明の効果を損なわない範囲で、化粧品に一般的に使用される界面活性剤、水溶性高分子、粉体、酸化防止剤、香料、防腐剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、保湿剤、清涼剤、美容成分等を含有することができる。・・・ 【0040】 防腐剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、サリチル酸、石炭酸、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化クロルヘキシジン、トリクロロカルバニリド、感光素、ビス(2-ピリジルチオ-1-オキシド)亜鉛、イソプロピルメチルフェノール、パラオキシ安息香酸エステル、フェノキシエタノール等が例示される。 pH調整剤としては、乳酸、クエン酸、グリコール酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン等、清涼剤としては、L-メントール、カンフル等が挙げられる。」 摘記(2d) 「【0053】 実施例21 高含油水性化粧料 (成分) (%) 1.トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル 50 2.ジメチコン(注1) 10 3.ミネラルオイル 7 4.メドウフォーム油 0.01 5.カロチン(注7) 0.01 6.トコフェロール 0.001 7.精製水 残量 8.エタノール 0.05 9.グリセリン 8 10.ジグリセリン 2 11.ポリオキシエチレン(30)フィトステリルエーテル(注4) 0.1 12.オレイン酸ポリグリセリル‐10 0.001 13.PEG-10水添ヒマシ油 0.5 14.ステアロイルメチルタウリンNa 0.05 15.EDTA-2Na 0.01 16.(アクリル酸アルキル/メタクリル酸ステアレス-20)コポリマー (注9) 0.1 17.水酸化ナトリウム 0.01 18.1,3-ブチレングリコール 5 19.酸化チタン 0.36 20.トリラウレス‐4リン酸 0.02 (注1)KF-96-10CS(信越化学工業社製) (注4)NIKKOL BPS-30(日本サーファクタント工業社製) (注7)ベータ カロテン(和光純薬工業社製) (注9)アキュリン22(ローム&ハース社製) 【0054】 (製造方法) (1)No.18~20を均一に三本ローラーで処理する。 (2)No.1~6を70℃にて均一に溶解する。 (3)No.7~17を70℃にて均一に溶解する。 (4)(3)に(2)を加え、乳化する。 (5)(4)を50℃まで冷却する。 (6)(5)に(1)を加え、混合する。 【0055】 実施例21の高含油水性化粧料はメイク除去能に優れ、適度な粘度を維持するため使用時に指すべりが良く、マッサージのしやすさに優れ、後肌の保湿感にも優れていた。」 (3) 引用文献3(甲3)の記載事項 摘記(3a) 「【請求項1】 水中油型メイクアップ化粧料において、内油相中に成分(A)部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物、成分(B)粉体を含有し、外水相中に成分(C)粉体を含有し、且つ全水中油型メイクアップ化粧料中の成分(A)~(C)の配合量が、成分(A)1~10質量%、成分(B)5~30質量%、成分(C)1~15質量%であることを特徴とする水中油型メイクアップ化粧料。・・・ 【請求項5】 メイクアップ化粧料がファンデーション又はコンシーラーであることを特徴とする請求項1~4の何れかの項記載の水中油型メイクアップ化粧料。」 摘記(3b) 「【発明の効果】 【0008】 本発明の水中油型メイクアップ化粧料は、みずみずしく、なめらかな使用感を有し、自然な止まり感で隠蔽性のある均一な化粧膜を得られる化粧料である。」 摘記(3c) 「【0010】 本発明に用いられる成分(A)の部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物は、全水中油型メイクアップ化粧料中1~10質量%(以下質量%は「%」と略す)であれば良く、1%未満であるとなめらかな感触を得られず、10%を超えると伸びが良すぎて、均一な化粧膜を得られない。・・・ 【0020】 また、本発明の水中油型メイクアップ化粧料には、みずみずしさを得る目的と、油性成分及び粉体の分散媒として水を用いる。 本発明に用いられる水の量は、全水中油型メイクアップ化粧料中20~50%が好ましく、20%未満であるとみずみずしい感触を得られない場合があり、50%を超えると自然なとまり感を得られない場合がある。 【0021】 本発明の化粧料には、上記成分の他に通常化粧品や医薬部外品、医薬品等に用いられる各種成分を必要に応じて適宜配合することができる。このような成分としては、例えば、アルコール類、保湿剤、増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、香料、薬効成分等を挙げることができる。・・・ 【0023】 本発明の化粧料は、その性状は特に限定されず、用途に応じて選択することができる。なかでも、肌への塗布が容易であり、均一な化粧膜を得られやすいという理由から、液状~クリーム状のものが好ましく、概ね25℃における粘度(B型粘度計により測定)が、10000~100000mPa・sの範囲のものである。また、具体的な剤型は、ファンデーション、コンシーラー、コントロールカラー、下地料、アイシャドウ等が挙げられる。なかでも、ファンデーション、コンシーラーのような、高い隠蔽性が必要な剤型において、本発明の効果を得られやすく、好ましい。」 摘記(3d) 「【実施例2】 【0032】 水中油型コンシーラー (成分) (%) 1.セトステアリルアルコール 3 2.ステアリン酸 2 3.ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油 1 4.ミリスチン酸オクチル 7 5.PEG-15/ラウリルジメチコン・クロスポリマー 流動パラフィン分散物(固型分30%) *3 5 6.メチルハイドロジェンポリシロキサン処理(2%) 二酸化チタン(粒径0.27μm) 20 7.デカメチルシクロペンタシロキサン 10 8.ステアロイルメチルタウリンナトリウム 2 9.水酸化ナトリウム 0.5 10.精製水 残量 11.アクリル酸ナトリウム/アクリロイルジメチル タウリンナトリウム・コポリマー分散物 *4 2 12.グリセリン 4 13.ブチレングリコール 8 14.ポリエチレングリコール 5 15.水添レシチン処理(0.02%)二酸化チタン 8 (粒径0.7μm) 16.ベンガラ 0.3 17.黄酸化鉄 2 18.香料 適量 *3:KSG-310(信越化学工業社製) *4:SIMULGEL EG(SEPPIC社製) 【0033】 (製造方法) A:成分1~4を70℃に加熱し、成分5~8を加えてディスパーにて均一に分散し、70℃に保温する。 B:成分9~17をディスパーにて均一に混合し、70℃に加熱する。 C:BにAを添加し乳化する。 D:Cを40℃まで冷却し、18を添加し、クリーム状の水中油型コンシーラーを得る。 【0034】 実施例2の水中油型コンシーラーは、みずみずしくなめらかなのびを有し、自然な止まり感で隠蔽性のある均一な化粧膜を得られるものであった。」 (4) 乙1の記載事項 摘記(4a) 「6.2 脂質エマルションからのナノエマルションゲル ・・・エマルションは予備乳化の段階では低粘度白濁液体の状態であるが、それを280MPaの高圧で乳化処理を繰り返すと、処理回数とともにエマルションの粒子径は小さくなり、粒子径の分布幅も狭くなる(図7-36)。特筆すべきは、処理回数が3~4回で系の粘度が急激に増加し、6回処理後のエマルションの状態は白色の低粘度エマルションから透明ゲルヘと変化することである。・・・ 」(156,157頁) (5) 乙2の記載事項 摘記(5a) 「 」 2 取消理由についての判断 (1) 取消理由1-1及び取消理由2-1について ア 引用文献1に記載された発明 引用文献1には、(A)疎水変性ポリエーテルウレタン、(B)水溶性高分子、(C)アシルグルタミン酸、ジアシルグルタミン酸リシンまたはそれらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上、(D)油剤、及び(E)水を含有する水中油乳化型組成物について(摘記(1a))、化粧料である日焼け止め料や、保湿力の高いクリームに好適であり、肌への適用や、30℃の粘度が10000mPa・s以上であることが記載され(摘記(1b)及び(1c))、実施例8として、具体的に水中油乳化型組成物を調製し、皮膚塗布時のべたつきの評価結果と、粘度がいずれも30000mPa・s以上であったこと(摘記(1d))が記載されている。そして、「%」は「質量%」を表し(摘記(1c))、表1の組成の単位は、実施例13同様、「%」といえる。 そうすると、引用文献1には以下に示す実施例8に係る引用発明1Aが記載されているといえる。 <引用発明1A> (C)ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(ペリセアL-30:旭化成ケミカルズ社製)0.2質量%、(E)水残量、(A)(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマ-(アデカノールGT-700:ADEKA社製)1質量%、(B)カルボキシビニルポリマー0.05質量%、水酸化カリウム0.042質量%、及び(D)流動パラフィン20質量%を含有し、30℃における粘度が30000mPa・s以上である皮膚用の化粧料である水中油乳化型組成物。 イ 本件発明と引用文献1に記載された発明との対比・判断 (ア) 本件発明1について a 本件発明1と引用発明1Aとの対比 引用発明1Aの「(C)ジラウロイルグルタミン酸リシンナトリウム(ペリセアL-30:旭化成ケミカルズ社製)」及び「(E)水」は、それぞれ、本件発明1の「(B)アニオン界面活性剤」及び「(A)水性媒体」に相当し、本件明細書等の【0039】の記載によれば、引用発明1Aの「(A)(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマ-(アデカノールGT-700:ADEKA社製)」は、本件発明1の「(D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、・・・からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー」に相当するといえる。そして、本件明細書【0050】の記載によれば、「(E)電荷中和剤」は、「pH調整剤・・・等であって水中で電離するものも、電荷中和剤として用いることができる。」とされているから、引用発明1Aの「水酸化カリウム」は、水中で電離し、一種の電荷中和剤として働くといえるので、本件発明1の「(E)電荷中和剤」に相当する。 また、引用発明1Aの「水中油乳化型組成物」は皮膚用の化粧料であるから、本件発明1の「水中油型乳化化粧料」といえる。そして、引用発明1Aの「流動パラフィン」は、本件発明1の「非極性油剤」である「液状油剤」に該当するから、「(D)流動パラフィン20質量%を含有」するとは、本件発明1の「(C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤」を含有し、「前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%である」ことといえる。 さらに、通常、粘度は温度が低下すると上昇するから、30℃における粘度が30000mPa・s以上である場合、25℃における粘度が30000mPa・sを下回ることはなく、引用発明1Aの25℃における粘度が10000mPa・s以上であることは自明といえる。 そうすると、本件発明1と引用発明1Aとは、 「 (A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)電荷中和剤を含有し、 25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%である、水中油型乳化化粧料。」 である点で一致し、以下の相違点1及び2で相違する。 相違点1:「電荷中和剤」について、本件発明1は、「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものであるのに対して、引用発明1Aは、「水酸化カリウム」である点。 相違点2:「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」について、本件発明1は、70~98質量%であるのに対して、引用発明1Aは、100質量%である点。 b 相違点についての検討 (a) 相違点1及び2の関連性について 本件明細書等には、【0005】及び【0006】に本件発明の課題が記載されるとともに、 「【0010】 上述の特許文献に開示された微細なエマルションを得る方法を実施することにより、ゲル状の外観を呈する水中油型乳化物を得ることができるが、これは、均一なサイズと、それらの間に電荷反発を有する粒子が、表面上近距離に位置し、そしてそれらの互いの電荷反発により、規則的な結晶様構造が形成されるためと考えられる。この乳化物においては、重さやべたつきを生じさせる因子を含有せずに、ナリシング効果を有する油剤を多量に添加できるが、電荷中和剤のような、一般的に使用される様々な添加剤が化粧料に添加された場合、微細なエマルションを含有するそのようなゲルは時間とともに不安定になる傾向にあり、徐々に粘度が減少していき、合一が引き起こされる可能性がある。」 と記載されており、本件発明の水中油型乳化化粧料における粒子である「油滴」は液状油剤が主成分であって、油滴表面の電荷の程度は、電荷の偏りが高い(極性・親水性が高い)成分が油水界面に接する油滴表面に局在化するため、「極性油剤」に比べて電荷が低い「非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物」の含有比率に大きく左右されるものであり、かつ、「電荷中和剤」は界面である油滴表面に作用し、その種類により電荷密度や親和性といった作用因子が大きく異なるから、「油滴」といえる「液状油剤全体」に対する「非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物」の含有比率、及び「電荷中和剤」の種類は、相互に高い影響を及ぼし合う関係であると考えられる。 そうすると、本件発明の課題及び作用の観点から、上記相違点1及び2は併せて検討すべき相違点といえる。 (b) 新規性について 相違点1及び2は、材料及び組成の点で、実質的に相違しているから、本件発明1は引用文献1に記載された発明ではない。 (c) 進歩性について 引用文献1には、「クエン酸」、「リン酸ナトリウム」、「リン酸二ナトリウム」及び「亜硫酸水素ナトリウム」の記載はなく、「油剤」である「成分(D)の中には、極性油を50%以上、好ましくは60%以上含むことが好ましい。」(摘記(1c))とする記載があるにとどまるから、引用文献1には、「電荷中和剤」として「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものを使用するとともに、「極性油剤」などを2~30重量%併用して、「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」を70~98質量%とすることの記載や示唆はないものといえる。 そうすると、引用発明1Aにおいて、相違点1及び2に係る本件発明1の構成をあえて採用する動機付けはなく、本件発明1は、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 c 申立人の主張について 申立人は、令和6年2月19日に提出した意見書において、上記aの相違点1及び2に関し、「組成物の発明において、構成成分ごとに発明特定事項として認定したうえで、容易想到性を個々に判断できる」ものとし、「一体不可分の構成として認定すべき理由などない」と主張するが、上記b(a)で検討したとおり、相違点1及び2は相互に有機的関係を有する相違点であって、独立した要件として判断することはできないから、申立人の主張は採用できない。 (イ) 本件発明2及び3について 本件発明2及び3は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、本件発明1を更に限定するものであるから、本件発明2及び3は、上記(ア)bと同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではないし、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 (ウ) 本件発明6について 本件発明6は、本件発明1の発明特定事項を全て備えた水中油型乳化化粧料を肌へ施用するステップを含む、肌のナリシング方法であるから、本件発明6は、上記(ア)bと同様の理由により、引用文献1に記載された発明ではないし、引用文献1に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 (2) 取消理由1-2及び取消理由2-2について ア 引用文献3に記載された発明 摘記(3a)及び(3b)によれば、引用文献3には、みずみずしく、なめらかな使用感を有し、自然な止まり感で隠蔽性のある均一な化粧膜を得られる水中油型メイクアップ化粧料が記載され、実施例2として、具体的に水中油型コンシーラーを調製し、それらの特性が得られたことが記載されている(摘記(3d))。そして、「%」は「質量%」を表すものである(摘記(3c))。 そうすると、引用文献3には以下に示す実施例2に係る引用発明3Aが記載されているといえる。 <引用発明3A> セトステアリルアルコール3質量%、ステアリン酸2質量%、ポリオキシエチレン(60)硬化ヒマシ油1質量%、ミリスチン酸オクチル7質量%、PEG-15/ラウリルジメチコン・クロスポリマー流動パラフィン分散物(固型分30質量%)(KSG-310:信越化学工業社製)5質量%、メチルハイドロジェンポリシロキサン処理(2%)二酸化チタン(粒径0.27μm)20質量%、デカメチルシクロペンタシロキサン10質量%、ステアロイルメチルタウリンナトリウム2質量%、水酸化ナトリウム0.5質量%、精製水残量、アクリル酸ナトリウム/アクリロイルジメチルタウリンナトリウム・コポリマー分散物(SIMULGEL EG:SEPPIC社製)2質量%、グリセリン4質量%、ブチレングリコール8質量%、ポリエチレングリコール5質量%、水添レシチン処理(0.02%)二酸化チタン粒径(粒径0.7μm)8質量%、ベンガラ0.3質量%、黄酸化鉄2質量%、及び香料適量を含有する水中油型コンシーラーである水中油型メイクアップ化粧料。 イ 本件発明と引用文献3に記載された発明との対比・判断 (ア) 本件発明1について a 本件発明1と引用発明3Aとの対比 引用発明3Aの「ステアロイルメチルタウリンナトリウム」、「精製水」及び「水中油型コンシーラーである水中油型メイクアップ化粧料」は、それぞれ、本件発明1の「(B)アニオン界面活性剤」、「(A)水性媒体」及び「水中油型乳化化粧料」に相当し、引用発明3Aの「アクリル酸ナトリウム/アクリロイルジメチルタウリンナトリウム・コポリマー分散物(SIMULGEL EG:SEPPIC社製)」は、「両親媒性側鎖」である「アルキル置換タウリン基等のアルキル置換アミノアルキルスルホン酸基」を有する「アクリルポリマー」であるから、本件明細書等の【0046】の記載によれば、本件発明1の「(D)・・・親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、・・・からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー」に相当するといえる。そして、本件明細書【0050】の記載によれば、「(E)電荷中和剤」は、「pH調整剤・・・等であって水中で電離するものも、電荷中和剤として用いることができる。」とされているから、引用発明3Aの「水酸化ナトリウム」は、本件発明1の「(E)電荷中和剤」に相当する。 また、引用発明3Aの「PEG-15/ラウリルジメチコン・クロスポリマー流動パラフィン分散物(固型分30質量%)(KSG-310:信越化学工業社製)」に含まれる「流動パラフィン」は、その固形分以外の70質量%の含有量であるから、引用発明3Aの化粧料に対して、「流動パラフィン」は3.5質量%(=5質量%×0.7)含まれているといえる。そして、引用発明3Aの「流動パラフィン」及び「デカメチルシクロペンタシロキサン」は、ともに本件発明1の「非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物」といえ、引用発明3Aの「ミリスチン酸オクチル」、「流動パラフィン」及び「デカメチルシクロペンタシロキサン」は、いずれも本件発明1の「液状油剤」に相当し、その総含有量は20.5質量%(=7質量%+3.5質量%+10質量%)であって、本件発明1の「水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%」であることの範囲内である。そして、引用発明3Aにおける「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」は、65.9質量%(=(流動パラフィン3.5質量%+デカメチルシクロペンタシロキサン10質量%)/(ミリスチン酸オクチル7質量%+流動パラフィン3.5質量%+デカメチルシクロペンタシロキサン10質量%))である。 そうすると、本件発明1と引用発明3Aとは、 「(A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)電荷中和剤を含有し、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%である、水中油型乳化化粧料。」 の点で一致し、以下の相違点3~5の点で相違する。 相違点3:「電荷中和剤」について、本件発明1は、「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものであるのに対して、引用発明3Aは、「水酸化ナトリウム」である点。 相違点4:「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」について、本件発明1は、70~98質量%であるのに対して、引用発明3Aは、65.9質量%である点。 相違点5:「水中油型乳化化粧料の25℃における粘度」について、本件発明1は、10000mPa・s以上であるのに対して、引用発明3Aは不明である点。 b 相違点についての検討 相違点3及び4は、相違点1及び2と同様の相違点であるところ、引用文献3には、「クエン酸」、「リン酸ナトリウム」、「リン酸二ナトリウム」及び「亜硫酸水素ナトリウム」の記載はなく、「油性成分」について、「流動パラフィン」ではなく「ミリスチン酸オクチル」に対応する成分のみの含有量に関する示唆はないから、引用文献3には、「電荷中和剤」として「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものを使用するとともに、「ミリスチン酸オクチル」の含有量を減らし、結果として「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」を65.9質量%から70~98質量%に増加させることの記載や示唆はないものといえる。 そうすると、上記(1)イ(ア)bと同様の理由により、相違点5について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献3に記載された発明ではないし、引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 (イ) 本件発明2、3及び6について 本件発明2、3及び6は、上記(1)イ(イ)及び(ウ)に述べたとおりの発明特定事項を有するものであり、本件発明2、3及び6は、上記(ア)bと同様の理由により、引用文献3に記載された発明ではないし、引用文献3に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 (3) 取消理由2-3について ア 引用文献2に記載された発明 摘記(2a)及び(2b)によれば、引用文献2には、使用後の保湿感に優れた、油性成分を内相とし、多価アルコールと水の混合物を外相(連続相)とする高含油水性化粧料が記載され、実施例21として、具体的に高含油水性化粧料を調製し、当該化粧料が、適度な粘度を維持するため使用時に指すべりが良く、マッサージのしやすさに優れ、後肌の保湿感にも優れていたこと(摘記(2d))が記載されている。そして、「%」は「質量%」を表すものである(摘記(2c))。 そうすると、引用文献2には以下に示す実施例21に係る引用発明2Aが記載されているといえる。 <引用発明2A> トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル50質量%、ジメチコン(KF-96-10CS:信越化学工業社製)10質量%、ミネラルオイル7質量%、メドウフォーム油0.01質量%、カロチン(ベータ カロテン:和光純薬工業社製)0.01質量%、トコフェロール0.001質量%、精製水残量、エタノール0.05質量%、グリセリン8質量%、ジグリセリン2質量%、ポリオキシエチレン(30)フィトステリルエーテル(NIKKOL BPS-30:日本サーファクタント工業社製)0.1質量%、オレイン酸ポリグリセリル‐10 0.001質量%、PEG-10水添ヒマシ油0.5質量%、ステアロイルメチルタウリンNa0.05質量%、EDTA-2Na0.01質量%、(アクリル酸アルキル/メタクリル酸ステアレス-20)コポリマー(アキュリン22:ローム&ハース社製)0.1質量%、水酸化ナトリウム0.01質量%、1,3-ブチレングリコール5質量%、酸化チタン0.36質量%、及びトリラウレス‐4リン酸0.02質量%を含有し、油性成分を内相とし、多価アルコールと水の混合物を外相(連続相)とする高含油水性化粧料。 イ 本件発明と引用文献2に記載された発明との対比・判断 (ア) 本件発明1について a 本件発明1と引用発明2Aとの対比 引用発明2Aの「ステアロイルメチルタウリンNa」、「精製水」及び「油性成分を内相とし、多価アルコールと水の混合物を外相(連続相)とする高含油水性化粧料」は、それぞれ、本件発明1の「(B)アニオン界面活性剤」、「(A)水性媒体」及び「水中油型乳化化粧料」に相当し、本件明細書等の【0045】の記載によれば、引用発明2Aの「(アクリル酸アルキル/メタクリル酸ステアレス-20)コポリマー(アキュリン22:ローム&ハース社製)」は、本件発明1の「(D)・・・親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、・・・からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー」に相当するといえる。そして、本件明細書【0050】の記載によれば、「(E)電荷中和剤」は、「pH調整剤・・・等であって水中で電離するものも、電荷中和剤として用いることができる。」とされているから、引用発明2Aの「水酸化ナトリウム」は、本件発明1の「(E)電荷中和剤」に相当する。 また、引用発明2Aの「ジメチコン(KF-96-10CS:信越化学工業社製)」及び「ミネラルオイル」は、ともに本件発明1の「非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物」といえ、引用発明2Aの「トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル」、「ジメチコン(KF-96-10CS:信越化学工業社製)」及び「ミネラルオイル」は、いずれも本件発明1の「液状油剤」に相当し、その総含有量は67質量%(=50質量%+10質量%+7質量%)である。そして、引用発明2Aにおける「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」は、25.4質量%(=(ジメチコン(KF-96-10CS:信越化学工業社製)10質量%+ミネラルオイル7質量%)/(トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル50質量%+ミリスチン酸オクチル7質量%+ジメチコン(KF-96-10CS:信越化学工業社製)10質量%+ミネラルオイル7質量%))である。 そうすると、本件発明1と引用発明2Aとは、 「(A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)電荷中和剤を含有する、水中油型乳化化粧料。」 の点で一致し、以下の相違点6~9の点で相違する。 相違点6:「電荷中和剤」について、本件発明1は、「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものであるのに対して、引用発明2Aは、「水酸化ナトリウム」である点。 相違点7:「水中油型乳化化粧料の全質量基準」の「液状油剤の含有比率」について、本件発明1は、20~60質量%であるのに対して、引用発明2Aは、67質量%である点。 相違点8:「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」について、本件発明1は、70~98質量%であるのに対して、引用発明2Aは、25.4質量%である点。 相違点9:「水中油型乳化化粧料の25℃における粘度」について、本件発明1は、10000mPa・s以上であるのに対して、引用発明2Aは不明である点。 b 相違点についての検討 相違点6及び8は、相違点1及び2と同様の相違点であるところ、引用文献2には、「pH調整剤」として「クエン酸」の示唆はあるものの、「リン酸ナトリウム」、「リン酸二ナトリウム」及び「亜硫酸水素ナトリウム」の記載はなく、「油性成分」について、「ジメチコン」及び「ミネラルオイル」ではなく「トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル」に対応する成分のみの含有量に関する示唆はないから、引用文献2には、「電荷中和剤」として「クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される」ものを使用するとともに、「トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル」の含有量を減らし、結果として「液状油剤全体に対する、非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」を25.4質量%から70~98質量%に増加させることの記載や示唆はないものといえる。 そうすると、上記(1)イ(ア)bと同様の理由により、相違点7及び9について検討するまでもなく、本件発明1は、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 (イ) 本件発明2、3及び6について 本件発明2、3及び6は、上記(1)イ(イ)及び(ウ)に述べたとおりの発明特定事項を有するものであり、本件発明2、3及び6は、上記(ア)bと同様の理由により、引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではない。 (4) 取消理由3について ア サポート要件の判断の前提 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲で特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 本件発明の課題 本件明細書【0006】、【0008】及び【0013】を含む本件明細書等全体の記載によると、本件発明1~3の課題は、「べたつきがなく優れた安定性を示しながら、多量の油剤を含むことができる水中油型乳化化粧料」を提供することであり、本件発明6の課題は、「経時安定性に優れた化粧料」であって、「べたつきのない軽い感触を有し、高浸透性によって高いナリシング効果を与え」る方法の提供であるものと認める。 ウ 判断 (ア) 本件明細書等に記載の比較例8に関する事項について 本件明細書等には、本件発明の発明特定事項である、「(A)水性媒体」、「(B)アニオン界面活性剤」、「(C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤」、「(D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー」及び「(E)クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される電荷中和剤」という成分や、「25℃における粘度」の範囲や、「液状油剤の含有比率」及び「液状油剤全体に対する、前記非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率」に関する一般的説明が記載され、該当する実施例が存在し、上記本件発明の課題を解決した結果が得られているのであるから、本件発明の水中油型乳化化粧料及び肌のナリシング方法の発明が記載されているといえる。 そして、 「【0059】 <官能評価> 実施例1~9及び比較例1~5の水中油型乳化化粧料は、ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、べたつきのなさ、肌への浸透感を、本発明者らが所属する組織の化粧品専門評価パネルによる肌への単回使用試験において評価され、評価は以下の基準で行われた。結果を表1に示す。 (1)ナリシング効果、みずみずしく軽い感触、肌への浸透感 A:強い B:中程度 C:ほとんど感じない D:感じない (2)べたつきのなさ A:べたつきを全く感じない B:べたつきをほとんど感じない C:べたつきをわずかに感じる D:べたつきを感じる ・・・ 【0061】 <安定性の評価> 実施例1~9及び比較例1~5の水中油型乳化化粧料について、経時安定性を評価した。各化粧料を透明容器に収容し、蓋で密閉して、50℃で1か月保管した。保管後、油相と水相の分離を観察した。調製翌日および50℃で1か月保管後に、回転粘度計(Anton Paar GmbH製のRheolab QC)(回転数10rpm)を用いて、各化粧料のせん断粘度を25℃で測定した。油相と水相の分離の程度と、調製翌日から50℃での1か月保管までの粘度変化を観察し、初めの状態から変化の小さい順にA~Dの4段階のスケールで評価した。・・・ 【0069】 <実施例17、比較例8> 実施例17について、表4に示す組成を有する水中油型乳化化粧料を、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により調製した。比較例8の水中油型乳化化粧料は、高圧ホモジナイザーによる高圧乳化を行わずに、攪拌機を用いて2500rpmで10分間撹拌しるのみにより得られた。各原料の含有量(質量%)は、表4に示すとおりである。 【0070】 実施例17及び比較例8の水中油型乳化化粧料について、実施例1~9、比較例1~5と同様の方法により、官能評価、外観評価、及び経時安定性の評価を行った。結果を表4に示す。 【0071】 【表4】 」 と記載され、実施例17と比較例8の化粧料の組成は等しく、両者の「25℃における粘度」の記載はなかったところ、摘記(4a)によれば、組成が等しくとも高圧乳化処理により粘度が著しく増加するという技術常識が理解されるから、両者の粘度が同程度であるとはいえないし、摘記(5a)によれば、実際に、比較例8の化粧料の粘度が83mPa・sであるという結果と整合していることが確認できる。 そうすると、比較例8の例は本件発明の要件を満たすとはいえず、本件発明の発明特定事項を満たすものの、本件発明の課題を解決できない事例は確認できないから、粘度及び乳化条件について、本件発明が、本件発明の課題を解決できることを当業者が理解できないことにはならない。 したがって、本件発明1~3及び6は、発明の詳細な説明に記載された発明で、かつ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 (イ) 申立人の主張について 申立人は、令和6年2月19日に提出した意見書において、「高圧乳化を行わなくても、例えば、比較例8において、成分(D)に相当する(PEG-240/デシルテトラデセス-20/HDI)コポリマーの量を増加させるなどして、粘度を10000mPa・s以上に調整しさえすれば、本件訂正発明の「べたつきがなく優れた安定性を示しながら、多量の油剤を含むことができる水中油型乳化化粧料の提供」という課題を解決できることになる」が、「高圧乳化ではなく、通常の攪拌等の方法では、このような微細な結晶様構造のナノエマルションゲルが形成されない以上、たとえ、さらなる増粘剤の配合等の別の手段によって粘度を10000mPa・s以上に調整したとしても、高圧乳化処理した場合と同等のみずみずしい感触等が得られるとは到底認識できない。」と主張している。 しかしながら、成分(D)の添加量の増加によって粘度が一定程度高まったとしても、本件発明の粘度にまで調整できるかどうかは不明であるし、また、成分(D)の好ましい含有比率が【0055】に示されており(摘記(C))、成分(D)については、本件明細書等の【0013】~【0015】の記載を離れて、添加量を増加させた場合を想定して検討する妥当性はなく、さらに、例えば100MPa以上の高圧乳化以外の製法によって本件発明の構成を満たすものが存在すること自体が、本件発明がサポート要件を欠如することになる理由にはならないから、申立人の主張は採用できない。 (5) 小括 したがって、取消理由通知に記載した取消理由1-1、1-2、2-1、2-2、2-3及び3によっては、請求項1~3及び6に係る特許を取り消すことはできない。 3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(申立理由1-2並びに3のア及びウ)について (1) 申立理由1-2について ア 本件発明1について 上記2(3)で示したとおり、甲2(引用文献2)には引用発明2Aが記載され、本件発明1と引用発明2Aは相違点6~9で相違し、かつ、本件発明1は、甲2に記載された発明に基いて、当業者が容易になし得たものではないから、当然に、本件発明1は甲2に記載された発明でもない。 イ 本件発明6について 本件発明6は、上記2(1)イ(ウ)に述べたとおりの発明特定事項を有するものであり、本件発明6は、上記アと同様の理由により、甲2に記載された発明ではない。 (2) 申立理由3のア及びウについて ア 申立理由3のア(アニオン界面活性剤の種類及び含有量)について 本件明細書等には、 「【0026】 実施形態に係る水中油型乳化化粧料における成分(B)は、アニオン界面活性剤である。 【0027】 アニオン界面活性剤には、ラウリン酸塩、パルミチン酸塩等の脂肪酸セッケン;セチルリン酸塩等のリン酸エステル塩;N-ラウロイルグルタミン酸塩、N-ミリストイル-L-グルタミン酸塩等のN-アシルグルタミン酸塩;N-ラウロイルグルタミン酸塩、N-ミリストイルグルタミン酸塩、N-ステアロイルグルタミン酸塩等のN-アシルグルタミン酸塩;N-ラウロイルグリシン塩、N-ミリストイルグリシン塩、N-ステアロイルグリシン塩等のN-アシルグリシン塩;N-ラウロイルアラニン塩、N-ミリストイルアラニン塩、N-ステアロイルアラニン塩等のN-アシルアラニン塩;N-ラウロイルアスパラギン酸塩、N-ミリストイルアスパラギン酸塩、N-ステアロイルアスパラギン酸塩等のN-アシルアスパラギン酸塩;N-ココイル-N-メチルタウリン塩、N-ラウロイル-N-メチルタウリン塩、N-ミリストイル-N-メチルタウリン塩、N-ステアロイル-N-メチルタウリン塩、N-ココイルタウリン塩等の長鎖アシル低級アルキル型タウリン塩;ジラウロイルグルタミン酸リシンNa、サーファクチンナトリウム等が挙げられる。なかでも、N-ステアロイルグルタミン酸ナトリウム等のN-アシルグルタミン酸塩が含まれる。」 と記載され、「アニオン界面活性剤」自体の添加目的及び共通する化学構造、並びに両親媒性の(D)成分の存在を考慮すると、「ステアロイルグルタミン酸ナトリウム」以外のアニオン界面活性剤やその含有量が「1.5%」以外である場合の本件発明であっても、本件発明の課題を一定程度解決できることは、当業者が十分理解できる事項である。 イ 申立理由3のウ(本件発明の粘度の要件と実施例との関係)について 本件明細書等の 「【0051】 25℃における水中油型乳化化粧料の粘度は、好ましくは10,000mPa・s以上である。25℃における粘度は、より好ましくは50,000~300,000mPa・sであり、好ましくはゲル状の外観を呈する。 【0052】 水中油型乳化化粧料は、100MPa以上の圧力で乳化して得ることができ、圧力は好ましくは150MPa以上であり、より好ましくは200MPa以上であり、好ましくは500MPa以下である。」 において、本件発明の粘度範囲やその製法の説明が記載され、各実施例の組成及び製法(例えば、摘記(B))は、これらの説明に沿ったものであり、技術常識(摘記(4a))も考慮すると、各実施例の粘度が本件発明の範囲外であるとは認められず、本件発明は発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。 ウ まとめ 以上のとおり、本件発明1~3は、申立理由3のア及びウの点についても、発明の詳細な説明に記載したものであり、かつ、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであることに変わりはなく、申立理由3のア及びウは採用できない。 (3) 小括 したがって、申立理由1-2並びに3のア及びウによっては、請求項1~3及び6に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由並びに申立人の申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件請求項1~3及び6に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件請求項1~3及び6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)クエン酸、リン酸ナトリウム、リン酸二ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムから選択される電荷中和剤を含有し、 25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20~60質量%であり、 前記液状油剤全体に対する、前記非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物の含有比率は、70~98質量%である、水中油型乳化化粧料。 【請求項2】 前記疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリアルキレンオキシド成分を含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有する、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。 【請求項3】 前記疎水基変性親水性ウレタンポリマーは、ポリエチレンオキシド及び/又はポリプロピレンオキシドを含む疎水基変性ポリエーテルウレタンを含有する、請求項1又は2に記載の水中油型乳化化粧料。 【請求項4】 前記疎水基変性親水性多糖類は、疎水基変性ヒドロキシアルキルアルキルセルロースを含有する、請求項1に記載の水中油型乳化化粧料。 【請求項5】 成分(A)から(E)の混合物を、高圧ホモジナイザーにより100MPa以上の圧力で乳化するステップを含む、 (A)水性媒体と、 (B)アニオン界面活性剤、 (C)非極性油剤、シリコーン油剤、又はそれらの混合物を含有する、液状油剤、 (D)疎水基変性親水性ウレタンポリマー、親水性基と疎水性基を含む側鎖を有する(メタ)アクリルポリマー、及び疎水基変性親水性多糖類からなる群より選ばれる両親媒性ポリマー、及び (E)電荷中和剤を含有し、 25℃における粘度が10,000mPa・s以上である、水中油型乳化化粧料であって、 前記液状油剤の含有比率は、前記水中油型乳化化粧料の全質量基準で20質量%以上である、水中油型乳化化粧料の調製方法。 【請求項6】 請求項1~4のいずれか一項に記載の水中油型乳化化粧料を肌へ施用するステップを含む、肌のナリシング方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2024-03-19 |
出願番号 | P2019-563858 |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YAA
(A61K)
P 1 652・ 121- YAA (A61K) P 1 652・ 537- YAA (A61K) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
瀬良 聡機 |
特許庁審判官 |
野田 定文 関 美祝 |
登録日 | 2023-01-16 |
登録番号 | 7211666 |
権利者 | エルブイエムエイチ レシェルシェ |
発明の名称 | 水中油型乳化化粧料 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 江守 英太 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 江守 英太 |