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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B01D
審判 全部申し立て 特36 条4項詳細な説明の記載不備  B01D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B01D
管理番号 1055035
異議申立番号 異議1999-74218  
総通号数 28 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1997-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-11-16 
確定日 2001-12-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第2891953号「除湿装置」の請求項1~5に係る発明の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 訂正を認める。 特許第2891953号の請求項1~5に係る発明の特許を維持する。 
理由 I.手続の経緯
本件特許第2891953号の出願は、平成63年11月21日に実用新案登録出願された実願昭63-151375号を、特許出願に変更したものであって、平成11年2月26日に特許の設定登録がなされ、その後、旭硝子株式会社、市橋俊一郎、エムエムシー株式会社、オリオン機械株式会社の四者から、それぞれ、特許異議の申立がなされ、これに基づいて、取消理由通知がなされ、特許権者よりその指定期間内である平成12年5月23日に明細書の訂正請求がなされたものである。

II.訂正の適否
II-1.訂正事項
本件明細書につき、訂正請求書に添付された訂正明細書に記載される次のの(a)~(d)の訂正を求めるものである。
(a)特許請求の範囲の請求項1における、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って高圧領域内の除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成し、・・・」を、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、・・・」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項5における、
「・・・、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した除湿装置。」を、
「・・・、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された除湿装置。」と訂正する。
(c)明細書の段落0006における、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って高圧領域内の除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成し、・・・」を、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、・・・」と訂正する。
(d)明細書の段落0009における、
「・・・、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した構成とした。」を、
「・・・、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された構成とした。」と訂正する。

II-2.訂正の目的の適否
上記(a)の訂正は、ハウジングにパージ通路が組み込まれる態様につき、「該中空糸膜内を通過した直後の」高圧領域内の除湿エアーの一部を「前記低圧領域内へ」送るためのパージ通路「全体」をハウジング「内」に組み込み形成されたもの、と訂正するものであり、これらのものは、いずれも、その下位概念に含まれるものに具体化するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記(b)の訂正は、その前段においては、圧力領域の設定につき、中空糸膜の「内部」を・・・高圧領域とする・・・、中空糸膜の「外部」を・・・低圧領域とした、と訂正するものであり、これらのものは、いずれも、他の選択肢を排除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。また、その後段においては、除湿装置に設けられるパージ通路とハウジングとの関係につき、「前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された」、と訂正するものであり、これは、その下位概念に含まれるものに具体化するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
上記(c)及び(d)の訂正は、発明の詳細な説明の記載を、上記(a)及び(b)の発明の構成の訂正に、それぞれ、整合させるものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

II-3.新規事項の有無及び拡張・変更の存否
上記訂正(a)は、明細書の段落0024、同0028、図1、及び図5~7等(願書に最初に添付した明細書にあっては段落0015、図1、図7~9等)の記載に基づくものであり、また、上記訂正(b)の圧力領域の設定に関する事項は、明細書の段落0029、同0055、図2、及び図8等(願書に最初に添付した明細書にあっては段落0016、同0049、図2、及び図10等)の記載に基づくものであり、そして、上記訂正(b)の後段の事項は、明細書の段落0030、同0031、同0055、図2、及び図8等(願書に最初に添付した明細書にあっては段落0017、同0018、同0049、図2、及び図10等)の記載に基づくものであって、いずれの事項も、明細書及び図面に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり、新規事項に該当するとはいえない。
また、上記訂正(a)~(d)は、上記したとおり、特許請求の範囲を減縮する、ないしは、それに関連してなされるものであり、そして、発明の目的の範囲内でなされるものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。

II-4.独立特許要件の適否
この項では、訂正明細書の発明につき、当審で通知した取消理由の適否につき検討するが、その理由及び証拠方法としては、当該取消理由で引用したものに加え、特許異議申立人の提示したその他の証拠方法も引用しつつ検討を進めることとする。
II-4-1.訂正発明
訂正明細書における本件請求項1~5に係る発明(以下、適宜、「訂正発明1~5」という)は、訂正明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものである。
【請求項1】ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を円環状に束ねて収容し、中空糸膜の内部を高圧領域とすると共に、中空糸膜の外面近傍領域を低圧領域とし、ハウジング外から高圧領域へ除湿前の圧縮エアを供給すると共に、ハウジング外へ取り出し、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、前記パージ通路は少なくとも前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側に形成された通孔を備えていることを特徴とする除湿装置。
【請求項2】前記通孔は前記円環状内面の径方向に間隔をおいて複数形成されている請求項1記載の除湿装置。
【請求項3】前記通孔は前記中空糸膜の長手方向中央から一方に偏った位置に形成され、前記低圧領域を通過したエアを排出する排出口は前記ハウジングにおける前記中空糸膜の長手方向中央から他方に偏った位置に形成されている請求項1又は請求項2記載の除湿装置。
【請求項4】前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側を円筒体により支持し、その円筒体に前記通孔を形成した請求項1、2又は3記載の除湿装置。
【請求項5】ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップを単一構造により構成するとともに、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された除湿装置。

II-4-2.証拠方法
1.特開昭53-97246号公報
(旭硝子株式会社、エムエムシー株式会社、及びオリオン機械株式会社提示 のそれぞれの甲第1号証)
2.米国特許第3,735,558号明細書
(旭硝子株式会社、市橋俊一郎、エムエムシー株式会社、及びオリオン機械 株式会社提示のそれぞれの甲第2号証)
3.特開昭63-258620号公報
(市橋俊一郎、及びオリオン機械株式会社提示のそれぞれの甲第3号証)
4.特公昭43-12880号公報
(オリオン機械株式会社提示の甲第4号証)
5.米国特許第3,464,186号明細書
(エムエムシー株式会社提示の甲第3号証)
6.実公昭53-10573号公報
(旭硝子株式会社提示の甲第3号証)
7.実公平6-41629号公報
(旭硝子株式会社、及びエムエムシー株式会社提示のそれぞれの甲第4号証)
8.特開平6-134245号公報
(市橋俊一郎提示の甲第1号証)
9.特開平9-168716号公報
(オリオン機械株式会社提示の甲第5号証)
10.特開平8-299743号公報
(エムエムシー株式会社提示の甲第5号証)
この項では、以下、上記証拠方法1~10を、それぞれ、引用例1~10という。
引用例1には、
(A-1)「除湿処理される空気(A)の入口孔及び除湿処理された空気(B)の出口孔と、該処理によつて分離された該空気(A)中の湿分を系外に放出するための孔であつて該入口孔及び出口孔とは透湿膜を介して連なつている孔とを備えた密閉可能な容器中に、その一端が該入口方向に開口し他端が該出口方向に開口している透湿膜を装填してなる空気除湿装置。」(特許請求の範囲第1項)、
(A-2)「それ故、これらの方法はその原理上あるいは操作上に由来するところの装置運転エネルギー及び装置(捕捉剤も含めて)のコスト面での、更に操作の容易さでの問題点を有している。」(第2頁右上欄第3~6行)、
(A-3)「本発明の装置における透湿膜は、有機高分子素材を中空繊維状あるいは膜状に成形したものであり、例えば真円状あるいはそれに近い円状の断面を有する中空繊維膜(チユブラータイプでもよい)や平板膜があげられる。」(第2頁右下欄下から第3行~第3頁左上欄第2行)、
(A-4)「本発明の装置の操作は、容器内に入口孔から導入された空気(A)を膜を介した1方側(A側)に膜面に沿つて流し、除湿(減湿)された空気(B)を出口孔に送る操作と、空気(A)及び空気(B)とは膜面を介して反対側(C側)にある面に移動した空気(A)中の湿分を系外に除去する操作である。そのドライビングフオースとしては、膜の両側(A-C間)に水蒸気圧の差(あるいは湿分の濃度勾配)が生じるように、A側を加圧又はC側を減圧にして、あるいはこの両者の組合せで操作される。例えばC側にはA側から透過している湿分を系外(少なくとも容器外)に放出するための掃引空気を流通させたり、」(第3頁左下欄第8~末行)、
(A-5)「実施例1
セルロース系高分子を膜素材とした中空繊維(・・・)の多数本からなる膜束(・・・)を円柱状の容器(不錆鋼製)中に装填した図1に示した如くの装置を用いた。・・・・・・・。
図1は、空気除湿装置の縦断面図であり、数字1は減湿すべき空気(A)の入口孔、2及び3は処理された空気(A)中の湿分を系外に放出するための孔(掃引空気を使用する場合は、2又は3のいずれかが掃引空気の入口孔で、他方が出口孔で、また場合によつては一方の孔径のサイズを調節して減圧にできる)、4は除湿処理された空気(B)の出口孔5は掃引空気を均一に分布できる中空棒にあけられた空気噴出孔(本発明の装置において必須ではない)、6は中空繊維の多数本よりなる膜束、7は容器、8は隔板(各中空繊維膜又は平面膜を、その両端部それぞれの附近で固定保持し孔2、3と孔1、4とを膜を介して連なり、直接には空間的に連ならないようにするための封止体)膜の端口は隔板は孔1及び孔4に向かつて開口し、端口は隔板中埋もれていない。」(第4頁左上欄第9行~左下欄第15行)、
(A-6)「図3は空気除湿装置の縦断面図であり数字1は空気(A)の入口孔、2は空気(B)の出口孔、3及び4は図1における2と3に対応する孔(掃引空気用の孔)、5は隔板、6は膜(繊維状膜又は平面膜)、7は容器、8は掃引空気の通路の好ましい方向(空気(A)の流れとは対向方向)を示す。
図4は空気除湿装置の縦断面図であり数字1~5は図3における1~5とそれぞれ同様であり、6は膜(チユブラータイプの膜)、7は容器を示す。
図5は空気除湿装置の縦断面図であり、数字1~5は図3における1~5と同様であり、6は膜を、7は容器を示す。」(第4頁左下欄第19行~右下欄第12行)ことが記載されており、そして、そこには、上記記載に対応する図1、同3~5が掲載されている。
引用例2には、流体の分離方法及び装置に関し、
(B-1)「本発明に係る連続処理方法は、特に空気乾燥及びこれに関連する分野に適用される。好適には、断面方向より長さ方向へ長く形成され、水蒸気を浸透させ得る単数又は複数の中空の半浸透膜チューブへ供給される湿潤状態の圧縮空気を通過させること、第2の流体又はパージ流体を供給流体より低圧で通過させることからなり、そして、水蒸気を除去するために、供給流体の処理済流体の一部及び/又は分離されたパージ流体を、・・・供給流体に対して逆流させ、又は逆方向の流れとして分離して流し、これにより、チューブ壁面に沿って圧力勾配及び水蒸気湿度勾配が形成され、チューブ壁を通じて湿潤供給空気からの水蒸気の浸透作用を誘導、増強し、」(第5欄第6~23行)、
(B-2)「本発明装置の好ましい態様が第1図、第2図に示される。ここで番号10は多数の中空浸透管の束であり、供給側の端部Aと生成物側の端部Bで外殻部に密着結合されている。中空管の束の両端はヘッダ部14、16のような支持部材で保持されている。この装置は、混合供給流体、生成物流体、還流流体又はパージ流体のための導管18、20、22、24を有している。番号18は混合供給流体の導入口であり、供給側の端部Aの部分で中空管10の中空部に通じている。非浸透物あるいは生成物の排出口20は生成物側の端部Bで中空管に通じている。還流流体又はパージ流体の導入口22は、中空管10と外殻部12の間の空間60に通じており、装置の生成物側の端部Bの近傍に位置する。還流流体又はパージ流体の排出口24は、中空間10と外殻部12の間の空間60に通じており、装置の供給側の端部Aの近傍に位置する。装置の端部は封止部材26、28及び通常の締め付け部材30、32で封止される。第1図に示される装置は、供給側の端部A及び生成物側の端部Bに、それぞれ空間部34、36を備える。空間部34は導入側18からの混合供給流体を分配して中空浸透管10に導く。空間部36は中空浸透管から非浸透物を集める。
第1図の装置の生成物側の端部Bの詳細を第3図に示す。第3図に示すとおり、非浸透物の排出管20は生成物回収管38及び還流流体導入管39、22に通じている。弁又はオリフィス40が生成物回収管38に設けられ、装置からの生成物の取出量を制御する。弁又はオリフィス42が還流流体の導管39、22に設けられ、生成物排出管20からの生成物又は非浸透物を計量しながら供給し、かつ膨脹させて中空管10より低い圧力のパージ気体圧に調整する。還流流体の導入管22は、還流流体導入管22への外部パージ流体の流量制御手段及び減圧調整器からなる制御弁46を有するパージ流体管44、45も備える。」(第6欄第41行~第7欄第17行)、
(B-3)「図1、2及び3の装置に係わる発明のプロセスを実行する際、排出流20において製品の一部を取出、予め設定された程度まで減圧するためにコントロールバルブ42を通し、そして、チューブと外壁の間の空間60に還流ライン22を通して供給することができる。その還流流体は、より低い全圧の下で全ての製品成分を含有することになり、そのため還流流体中の各々の成分の分圧が、高圧相又は供給相又は製品相よりも低くなる。このようにして、各成分の圧力勾配と濃度勾配が、浸透管10の壁越しにまた壁に沿って存在する。それらは、選択されるあるいは重要な成分を透過させる推進力となる。浸透管10が、水、二酸化炭素、四塩化炭素あるいはアセチレンのような特定の成分について高透過性を持つ材料であれば、これらの成分は他よりも一層高効率で透過膜を透過する。このように、製品側の高圧相は少しずつ希薄となり、還流流体は、これら易透過性成分により濃厚になっていく。還流流体は、容器の空間60を浸透管の束の供給側に向かって向流するにつれ、より濃厚になっていく。ゆっくりであるが、流れ方向の成分の勾配は、浸透管の束に沿って生じる。半透膜の材質と混合された供給流及びそこから分離される重要な成分に依存し、数日から数週間という期間に及び安定した状態が得られる。その結果、製品流は、膜高透過性成分濃度が低く、還流流体は、膜透過性濃度成分が高くなる。」(第7欄第18~52行)、
(B-4)「本発明に従い空気の除湿を行う場合には、圧縮空気は貯蔵タンク72から導管76、圧力調整器78、導管80、水飽和器82、導管84を通ってノックアウトタンク86に流れ、そのあと導管88を通って本発明の浸透分離カラム90に流れる。生成物の吹き出しは、導管92、93あるいは更に弁94を通って乾燥ガスを利用する機器に流れる。分離器90からの生成物の一部は、外部への生成物の流れを所望の量にするために弁94を調整し、排出管92から導管97、所望のパージ流れになるよう調整した弁96、導管98、100を通って浸透分離器に流すことによって分岐させる。そして、外殻部と内管との間の空間を向流的に通過し、最後に供給側の端部から導管102を通って、番号104で一般的に示される流量及び露点の測定のための還流に流れ出る。還流気体によるパージの代わりに、外部パージタンク106からの外部パージを導管108、流量制御弁110、導管100を順に通って分離器90に流して、混合供給気体中の浸透性成分を排出することもできる。」(第13欄下から第3行~第14欄第20行)ことが記載され、そして、そこでは、上記記載に対応する図1~3(B-2、B-3)及び図7(B-4)が掲載されている。
引用例3には、
(C-1)「本発明は、混合ガスを、前処理した後分離膜により分離する混合ガス分離装置・・・に関するもので、」(第1頁右下欄第10~16行)、
(C-2)「分離装置20について説明すると、21は前処理混合ガス導入部、22は非透過ガス導出部、23は透湿ガス導出部、24は分離膜で、分離膜装置20は図示の実施例の場合、塔状体20’の内部に分離膜24として中空糸を塔状体20’の軸方向に多数密に配設してあり、該中空糸24は、それらの両端部を管板29、30によって固定されており、それらの内部は空隙部31を介して透過ガス導出部23に連通しており、該中空糸24を透過した透過ガスを透過ガス導出部23から導出させるようになしてある。また、前処理混合ガス導入部21は前記混合ガス導出部12に対向して設けてあり、上記各中空糸24の間隙に連通させ、前処理された混合ガスを該間隙に第2図上矢標の如く送出させるようになしてある。
また、分離膜装置20は、上記前処理混合ガス導入部21から中空糸24の上記間隙に送出され中空糸24を透湿しなかった非透過ガスを、筒状体20’の内周壁に沿って形成されている流路32を経て非透過ガス導出部22から導出させるようになしてある。
また、中空糸24内に透過した透過ガスのパージを円滑に行うために、第3図に示す如く、筒状体20’の周壁部28の一部にパージガス通路27を、前処理混合ガス導入部21側の管板29の外側に形成した空隙33と前記流路32とを連通させて設け、非透過ガスの一部をパージガス用弁26で流量を調整して上記空隙33に送り、中空糸24内を通過させるようになしてある。尚、第2図及び第3図に示す実施例においては、周壁部28が筒状体20’と別体に構成してあるが、この周壁部28は筒状体20’の一部であっても良い。」(第3頁右上欄第18行~右下欄第10行)、
(C-3)「本発明の装置は、上記の如く構成してあるため、本発明の装置によれば、例えば湿度の高い空気を次のように除湿することができる。・・・。この場合の供給混合ガスの圧力は、・・・、透過ガスの排出時の圧を大気圧附近にする場合には、約2kg/cm2以上、特に、5~10kg/cm2程度であることが、水蒸気の除去率を高くする上で好ましい。」(第4頁左上欄第8~18行)、
(C-4)「本発明混合ガス分離装置は、分離膜を備えた装置と、熱交換器を具備した混合ガス前処理装置とをフランジ部を介して筒状に一体的に結合したコンパクトなものであるため、混合ガスを効率良く分離でき、また設置個所に制限されず且つ使い易い。また、本発明の混合ガス分離装置は、コンパクトな筒状形であるため、配管の一部に容易に組み込むことも可能である。」(第4頁右上欄第2~9行)ことが記載されており、また、そこには、上記記載に対応する第2及び3図が掲載されている。
引用例4には、空気及びその他の気体を含む圧縮流体から水分を抽出するための圧縮流体乾燥装置に関し、
(D-1)「第3図を参照すれば、容器即ち乾燥塔15は円筒壁16、頭部部材17及び底部材18を有し、之等は組立てられて内部に室9を有している。・・・。室9の中には目的に適った乾燥剤か、網目か又は任意の水分除去材料で構成され得る水分除去濾過器が配置されている。この濾過器に非常に良く適することが判明している材料の組合せは、入口13に隣接してひどい水分即ち水滴を非常に良く除去するステンレス鋼金網及びそれに続いて蒸気状体の水分を抽出するシリカゲルの如き乾燥剤21である。」(第3頁左欄第41行~右欄第9行)、
(D-2)「第3図を参照すれば、放下弁33が室9の入口側から大気の如き低圧帯域への通路を制御するのは明らかである。此の通路は図示の如く、底部材18の内部に放下弁33に依つて遮断される通路44及び42を有し、該弁は通路44と42との間の連通を常時閉じるようにばね圧で荷重されている」(第4頁左欄第28~34行)、
(D-3)「室9の圧搾空気出口側にあるパージ装置の入口端に、本発明では通路25が頭部部材17に、又管路27を介して貯蔵タンク28を室9の圧搾空気出口側へ連通し且出口23を側路する弁24が設けられている。空気調整部材26は此の通路25の中に配置されて、此の通路25を通つて流さしめられるパージ空気の量を制御し、此の量は部材26にある制限開口26aの大きさに依つて制限される。」(第4頁右欄第31~39行)、
(D-4)「操作中、室9のパージは次の通りにして起こるのである。貯蔵タンク28が調整器30を作動せしめるように所定程度まで圧搾空気で充填されれば何時でも調整器30は圧縮機10を附加圧搾空気を供給しないように停止する機構を作動せしめ且同時に室9を大気へ通気する弁33を開く。此の事が起きる時には室9の中の高圧空気は非常に迅速に即ち爆発的に大気へ脱出して自らと共に該室内の重い水分蓄積を搬出する。同時に或る程度の乾燥圧搾空気はタンク28から逆転して管路27、通路25を通つて室9へ逆流し始めて勿論制流開口26aに依つて調整される。此の乾燥圧縮空気は制流開口26aを通つて調整されるに従つて急速に膨脹し、又無熱再生の原理に拠つてその相対湿度さえも低下するから室9の中の乾燥剤及び次いで放下弁33を通つて大気へ流れる際にそれより以前に室9の中の乾燥剤に依つて吸着された水分を容易に拾上げ即ち吸着して自らと共に搬出する。」(第4頁右欄第44行~第5頁左欄第16行)ことが記載され、また、そこには、上記記載に対応する第1及び3図が掲載されている。
引用例5には、空気及びその他の気体を含む圧縮流体から湿分を抽出するための圧縮流体乾燥装置に関し、
(E-1)「図3を参照すると、容器又は乾燥タワー15は円筒状の壁16とヘッド部材17とベース部材18とを有し、それらで室9を作るように組み立てられている。」(第7欄第27~30行)、
(E-2)「室9の圧縮空気の出口側にあるパージシステムの取入口は、ヘッド部材17に設けた通路25が用いられ、バルブ24は室9の出口側の圧縮空気ライン27を介して貯蔵タンクに接続し、前記取入口は出口ポート23をバイパスしている。空気計量部材26が通路25に挿入され、通路25を流れるパージエアの量を制御し、この量は部材26の開口26aの限定された大きさによって制限される。開口26aの大きさは、違ったサイズの限定された開口を有する他の部材26を通路25に挿入することにより、あるいは、開口26aの大きさを制御もしくは変化させるニードルバルブを有する部材26を用いることによって、変えることができる。室9のパージは次のようになる。貯蔵タンク28がガバナ30で前もって選定された程度に圧縮空気で満杯の時、ガバナ30は圧縮機10が圧縮空気を供給することをストップさせる機構を作動させ、同時にバルブ33を開いて、室9を大気へ通気させる。そうすると、室9内の高圧の空気が急速にもしくは爆発的に大気に脱出し、その際、室内に集められた重い湿分を運び去る。同時に或る程度の乾燥圧搾空気はタンク28から逆転してライン27、通路25を通つて室9へ逆流し始めて勿論制流開口26aに依つて調整される。この乾燥圧縮空気は制流開口26aを通つて調整されるに従つて急速に膨脹し、その相対湿度さえも低下するから、室9の中の乾燥剤及び次いで放出バルブ33を通つて大気へ流れる際に、それは、以前に室9の中の乾燥剤によって吸着された水分を容易に拾上げ即ち吸着して自らと共に搬出する。」(第9欄第22~54行)ことが記載され、また、そこには、上記記載に対応する第1及び3図が掲載されている。
引用例6には、多連型流体マニホールドに関し、
(F-1)「単位ブロックAは、その上面の中央に方向切換弁の供給ポートに連通させるポート1が、また該ポート1の両側に方向切換弁の出力ポートに連通させるポート2,3が、さらにその両側に排出ポートに連通させるポート4,5が配列して設けられ、・・・。上記ポート1は、各ポート1~5の配列方向と直行する方向に単位ブロックを貫通する通路を経て、単位ブロックAの対向する両側面中央の接続ポート7に連通し、ポート4,5も同様に単位ブロックを貫通する通路を経て、単位ブロックの対向する両側面における上記接続ポート7の両側に開口する接続ポート8,9に連通している。」(第2欄第15~28行)ことが記載されており、また、そこには、上記記載に対応する第1図が掲載されている。
引用例7には、
「【請求項1】ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を高圧領域とすると共に、中空糸膜の外面近傍領域を低圧領域とし、ハウジング外から高圧領域へ除湿前の圧縮エアを供給すると共に、ハウジング外へ取り出し、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って高圧領域内の除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成したことを特徴とする除湿装置。」(実用新案登録請求の範囲第1項)に関する発明が記載されており、また、そこには、上記記載を説明する第1~10図が掲載されている。
引用例8には、
「【請求項1】水蒸気透過膜を介して水蒸気混合気体と除湿パージ気体とを流し、水蒸気混合気体中の水蒸気を選択的に除湿パージ気体側に分離して得られた除湿気体を、除湿気体通路から吐出する膜式気体ドライヤにおいて、該除湿気体通路の除湿気体と接触するように、湿度に応じて変色する湿度表示
片が配設され、且つ前記湿度表示片を外部から目視可能とする透明窓が設けられていることを特徴とする膜式気体ドライヤ。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されており、また、そこには、上記記載を説明する第1図が掲載されている。
引用例9には、
「【請求項1】 ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を高圧領域とすると共に、中空糸膜の外面近傍領域を低圧領域とし、ハウジング外から高圧領域へ除湿前の圧縮エアを供給すると共に、ハウジング外へ取り出し、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って高圧領域内の除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成したことを特徴とする除湿装置。」(特許請求の範囲第1項)に関する発明が記載されており、また、そこには、上記記載を説明する第1~10図が掲載されている。
引用例10には、膜式気体ドライヤに関し、
「本実施例の膜式気体ドライヤ1は、束状にまとめた中空糸膜2をU字状に曲げて配置する事によって、除湿前の高圧気体の導入部Eと除湿後の気体の排気部Fとを同じ平面上に配置し、プラスチック等で成形された接続部材3の供給口4と排出口5とを一直線状に接続するようにしたものである。U字状に曲げた中空糸膜2を収納するブーツ6は蛇腹状の半硬質性プラスチックからなり、該ブーツ6の上端はハウジング7に気密に取り付けられて、密封容器を形成する。」(段落0014)ことが記載されており、また、そこには、上記記載に対応する第1及び2図が掲載されている。

II-4-3.判断
《その-1》
訂正発明1と引用例1に記載の発明とを対比する。
引用例1に記載のものは、前記(A-1)により、「除湿処理される空気(A)の入口孔及び除湿処理された空気(B)の出口孔と、該処理によつて分離された該空気(A)中の湿分を系外に放出するための孔であつて該入口孔及び出口孔とは透湿膜を介して連なつている孔とを備えた密閉可能な容器中に、その一端が該入口方向に開口し他端が該出口方向に開口している透湿膜を装填してなる空気除湿装置」に関し、該除湿装置内の圧力分布が、前記(A-4)により、透湿膜につきその空気(A)が導入されているA側を加圧し、空気(A)及び(B)とは反対側のC側を減圧とする組合せで操作し得るものであり、また、前記(A-5)により、該透湿膜として、高分子を膜素材とした中空繊維の多数本からなる膜束が用いられ、前記(A-5)及び図1により、掃引空気を使用する場合は、掃引空気の入口孔2を有し掃引空気を均一に分布できる空気噴出孔を有する中空棒を、中空繊維膜束中に設け得るものである。
そして、引用例1に記載される「密閉可能な容器」、「高分子を膜素材とする透湿膜」は、訂正発明1の「ハウジング」、「高分子浸透膜」に、それぞれ、相当し、引用例1に記載の透湿膜は、中空繊維からなり、その空気(A)が導入されているところの内側は加圧され、その反対側が減圧とされるのであるから、訂正発明1と同様に、中空糸の内部を高圧領域とすると共に、中空糸の外面近傍領域を低圧領域とするものであるといえる。
よって、両者は、
「ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を円環状に束ねて収容し、中空糸膜の内部を高圧領域とすると共に、中空糸膜の外面近傍領域を低圧領域とし、ハウジング外から高圧領域へ除湿前の圧縮エアを供給すると共に、ハウジング外へ取り出し、パージ通路は少なくとも前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側に形成された通孔を備えている除湿装置」である点で、軌を一にするものである。
しかし、訂正発明1は、更に、「高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ものであるのに対し、引用例1では、高圧領域と低圧領域の間には中空繊維(中空糸膜)の外面に沿って掃引空気(パージエアー)を低圧領域内へ送るものであるが、その掃引空気は、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域に送るものではなく、したがって、「中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ものでなく、この点で、両者は相異する。
以下、この相違点に関する訂正発明1の構成が容易に想到できるか否かにつき検討する。
本件明細書の記載(特に、段落0057)及びその構成からみて明らかなとおり、その相違点に関する構成を採択することにより、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路用の配管を除湿装置外部に設ける必要がなくなり、これにより、機構の簡素化及びコンパクト化を進めることができ、配管を除湿装置外部に設ける場合の設置スペースの問題も改善することができるものである。
一方、引用例1のものは、上記したとおり、その掃引空気は、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域に送るものではなく、また、訂正発明1のように、機構の簡素化及びコンパクト化等に配慮するものではなく、したがって、この引用例1に記載の発明からは、「中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが容易に想到できるものではない。
次に、上記相違点に関し、引用例2~6の記載を順次みる。
引用例2には、前記(B-2)~(B-4)に記載されるように、製品の一部分を生成物排出管20から取出し、還流ライン22を通して、チューブと外壁の空間60に供給することが示され、このことから、掃引空気として、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を用いることが教示されるとしても、ここでは、該生成物排出管20及び還流ライン22若しくはそれに相当するものを装置の外部に設けるものであって、通路全体(生成物排出管及び還流ライン)を、ハウジング内に組み込むことが示されるものではない。そして、引用例2に記載のものにおいては、訂正発明1のように、機構の簡素化及びコンパクト化等に配慮するものではなく、したがって、この引用例2に記載の発明からは、「中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことを導き出すことができない。
引用例3には、前記(C-2)に記載されるように、混合ガス分離装置につき、「中空糸24内に透過した透過ガスのパージを円滑に行うために、第3図に示す如く、筒状体20の周壁部28の一部にパージガス通路27を、前処理混合ガス導入部21側の管板29の外側に形成した空隙33と前記流路32とを連通させて設け、非透過ガスの一部をパージガス用弁26で流量を調整して上記空隙33に送り、中空糸24内を通過させるようになしてある」ということが示され、確かに、そこでは、ハウジング内に通路が形成されてはいる。しかし、この混合ガス分離装置のパージガス通路27を流れるガスは、その第2及3図で示されるとおりガス導入部21に近接する区域から取出されることから、実質上、除湿前のものを用いていることになり、訂正発明1のように、除湿したものを利用するものではない。してみれば、引用例3に記載の発明では、前記(C-4)により、混合ガス分離装置全体をコンパクト化することを意図するものであるとしても、掃引空気として除湿エアを用いる場合において、パージ通路の配置機構の簡素化及びコンパクト化等を図るための手段についてまでも教示するものではない。したがって、引用例3に記載のものからは、「中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが導き出せるものではない。
また、引用例2に記載の発明は、装置中に供給流体とパージ流体(還流流体)が向流方向に流され、しかも、そのパージ流体が除湿されたものであるのに対し、引用例3に記載の発明は、前処理混合ガスとパージガスが略同一方向に流され、そのパージガスは実質上除湿されておらず、このように、引用例2の発明と引用例3の発明とは、ガス流路又は通路の設計環境が基本的に異なるものであり、また、その両発明を組み合わせる動機付けもなく、したがって、引用例2に記載の発明と引用例3に記載のものとを組合せて上記構成を導き出すことは容易になし得ることではない。
引用例4及び5には、シリカゲルの如き乾燥剤を用いた乾燥装置につき、前記(D-3)、(D-4)、(E-1)及び(E-2)に記載されるように、頭部部材ないしはヘッド部材17、底部材ないしはベース部材18を備え、そして、該頭部部材17には、出口ないしは出口ポート23及び弁ないしはバルブ24の外に、通路25、空気調整部材ないしは空気計量部材26、及び制流開口ないしは開口26aからなる通路系を組み込んだ構造が示される。しかし、引用例4及び5のものでは、パージ空気(掃引空気)が、乾燥装置の本体から離れた位置で、貯蔵タンク28から管路ないしは圧縮空気ライン27を経て供給され、したがって、そこでの頭部部材17に設けられる通路系には、乾燥直後であるところの除湿エアーを送られるものではないし、また、貯蔵タンク28、管路27を含むパージ装置全体が、乾燥装置の本体内に組み込まれるものでもない。してみれば、引用例4及び5に記載のものからは、「中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが導き出せるものではない。
また、引用例4及び5に記載の発明は、乾燥剤を用いるものであって、断続的に該乾燥剤に含まれる水分のパージを行うものであり、一方、引用例2及び3に記載の発明は、中空糸を用いるものであって、連続的に該中空糸に含まれる水分をパージするものであり、このように、引用例4及び5のものと引用例2及び3のものとは、その除湿原理及びパージ方法において基本的に異なるものであり、また、それらの発明を組み合わせる動機付けもなく、したがって、引用例2及び3に記載の発明と、同4及び5に記載のものとを相互に組み合わせて、上記構成を導き出すことは容易になし得ることではない。
引用例6には、単一構造ブロック中に複数の配管を形成した流体マニホールド一般の技術が示されているが、このものから、除湿装置のパージ通路全体の配置につき、具体的に示唆されるものでもなく、したがって、上記相違点に関する構成が導き出せるものでもない。
以上のとおり、引用例2~6の記載からは、除湿装置において、上記相違点に関する、「高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが教示されるものでなく、また、引用例1の記載に引用例2~6のものを併せてみても、当該構成を、容易に導き出すことができない。
してみれば、訂正発明1は、引用例1~6に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということができない。
また、訂正発明2~4は、請求項1を引用し、訂正発明1の構成の全てを具備するものであり、したがって、訂正発明1につき説示した上記理由と同じ理由により、引用例2~6に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるということができない。

《その-2》
訂正発明5と引用例2に記載の発明とを対比する。
引用例2に記載のものは、前記(B-1)により、空気乾燥に適用され、湿潤状態の圧縮空気を水蒸気を浸透させ得る複数の中空の半浸透膜チューブへ供給し通過させ、かつ、パージ流体を供給流体より低圧で通過させることからなる流体分離装置に関するものであり、具体的には、該流体分離装置は、前記(B-2)、図1、及び図3により、中空浸透管10の束の両端を保持するヘッダ部14、16のような支持部材を有し、供給側の端部Aの部分で中空管10の中空部に通じる混合供給流体の導入口18を有し、生成物側の端部Bで中空管に通じる生成物の排出口20を有し、そして、この両方の端部AとBが密着結合する外殻部12を有しており、また、装置の両外端部は更に封止部材26、28及び締め付け部材30、32で封止されているものである。更に、該パージ流体の導入口22は、装置の生成物側の端部Bの近傍に位置し、該導入口22の一端が、中空浸透管10と外殻部12の間の空間60に通じており、かつ、該導入口22の他端が、弁又はオリフィス42が設けられ、端部Bからみて外方に伸びるパージ流体(還流流体)の導入管39を介して、同じく端部Bからみて外方に伸びる該排出管20に通じているものである。この場合、該排出管20は、生成物回収管38とパージ流体導入管39に分岐するものである。そして、この分離装置においては、前記(B-3)及び(B-4)に示されることからみても明らかなとおり、混合供給流体の導入口18からは、湿潤状体の圧縮空気が供給され、かつ、生成物の排出口20からは乾燥ガス(除湿された空気)が排出することを含むものであり、また、上記中空浸透管10としては水蒸気を浸透させ得る半浸透膜チューブを含み、その半浸透膜チューブとしては、通常、高分子製の中空糸膜が用いられるものである。
以上のことから、引用例2に記載される発明の「中空浸透管」は訂正発明5の「中空糸膜」に相当し、そして、引用例2に記載のものは、その流体分離装置において、湿潤状態の圧縮空気をその中空浸透管へ供給し、他方、パージ流体を供給流体よりも低圧で供給されるものであって、訂正発明5と同様に、中空糸の内部を高圧領域とすると共に、中空糸の外部を低圧領域とするものであるといえる。
よって、両者は、
「ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置」である点で、軌を一にするものである。
しかし、
(イ)訂正発明5は、「ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップを単一構造により構成する」とするのに対し、
引用例2のものは、外殻部(ケースに相当)と、封止部材及び締め付け部材とによりハウジングを構成し、その外殻部内に、中空浸透管の束を収容するものであるが、そこには、キャップは設けられておらず、したがって、キャップを単一構造により構成するものではなく、
(ロ)訂正発明5は、「キャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成する」ものであるとするのに対し、
引用例2のものは、パージ流体の導入口22の一端が中空浸透管10と外殻部12の間の空間60に通じており、その他端がパージ流体の導入管39を介して排出管20の分岐するところに通じているのであるから、そこでは、高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを、実質上、備えているものであるといえるが、そこには、キャップがなく、したがって、キャップ内に、当該取出通路とパージエア取入領域を設けるものではなく、
(ハ)訂正発明5は、「前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成する」とするのに対し、
引用例2のものは、パージ流体の導入口22の一端が中空浸透管10と外殻部12の間の空間60に通じており、その他端がパージ流体の導入管39を介して排出管20の分岐するところに通じているのであるから、除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から低圧領域へ送るためのパージ通路を、実質上、備えているものであるが、その通路は、ハウジングから外方に伸びた位置に設けられ、したがって、通路全体がハウジング内に組み込まれて形成されておらず、以上の(イ)~(ハ)の点で、両者は相違する。
以下、上記相違点のうち、上記(ハ)の相違点に関する構成が、容易に想到できるか否かにつき検討する。
本件明細書の記載、及び、訂正発明5の上記(ハ)に関する構成からみて明らかなとおり、その構成を採択することにより、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路用の配管を除湿装置外部に設ける必要がなくなり、これにより、機構の簡素化及びコンパクト化を進めることができ、配管を除湿装置外部に設ける場合の設置スペースの問題も改善することができるものである。
一方、引用例2には、上記したとおり、パージ流体の導入口22、導入管39、及び排出管20の分岐部からなる通路全体がハウジング内に組み込み形成されておらず、また、訂正発明5のように、機構の簡素化及びコンパクト化等に配慮するものではなく、したがって、この引用例2に記載の発明からは、「除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から低圧領域へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが容易に想到できるものではない。
次に、上記(ハ)の相違点に関し、引用例2~6の記載を順次みる。
引用例1に記載のものは、前記したとおり、そこでの掃引空気(パージ流体)は、除湿直後のものを用いるものではなく、当然のこととして、そのための通路を備えておらず、上記(ハ)の相違点に関する、中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成することにつき、示唆するものは何もない。
引用例3には、前記(C-2)に記載されるように、混合ガス分離装置につき、「中空糸24内に透過した透過ガスのパージを円滑に行うために、第3図に示す如く、筒状体20の周壁部28の一部にパージガス通路27を、前処理混合ガス導入部21側の管板29の外側に形成した空隙33と前記流路32とを連通させて設け、非透過ガスの一部をパージガス用弁26で流量を調整して上記空隙33に送り、中空糸24内を通過させるようになしてある」ということが示され、確かに、そこでは、ハウジング内に通路が形成されてはいる。しかし、この混合ガス分離装置のパージガス通路27を流れるガスは、その第2及3図で示されるとおりガス導入部21に近接する区域から取出されることから、実質上、除湿前のものを用いていることになり、訂正発明5のように、除湿直後のものを利用するものではない。してみれば、引用例3に記載の発明では、前記(C-4)により、混合ガス分離装置全体をコンパクト化することを意図するものであるとしても、除湿直後のガス(除湿直後のエア)を用いる場合において、パージ通路の配置機構の簡素化及びコンパクト化等を図るための手段についてまで示されるものではない。
したがって、引用例3に記載のものからは、「除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から低圧領域へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが教示されない。
更に、付言すると、引用例2に記載の発明は、装置中に供給流体とパージ流体が向流方向に流され、しかも、そのパージ流体が除湿されたものであるのに対し、引用例3に記載の発明は、前処理混合ガスとパージガスが略同一方向に流され、そのパージガスは実質上除湿されておらず、このように、引用例2の発明と引用例3の発明とは、ガス流路又は通路の設計環境が基本的に異なるものであり、また、その両発明を組み合わせる動機付けもなく、したがって、引用例2に記載の発明と引用例3に記載のものとを組み合わせることにより、上記(ハ)の相違点に関する構成を導き出すことは容易になし得るものではない。
引用例4及び5には、シリカゲルの如き乾燥剤を用いた乾燥装置につき、前記(D-3)、(D-4)、(E-1)及び(E-2)に記載されるように、頭部部材ないしはヘッド部材17、底部材ないしはベース部材18を備え、そして、該頭部部材17には、出口ないしは出口ポート23及び弁ないしはバルブ24の外に、通路25、空気調整部材ないしは空気計量部材26、及び制流開口ないしは開口26aからなる通路系を組み込んだ構造が示される。しかし、引用例4及び5のものでは、パージ空気(パージ流体)が、乾燥装置の本体から離れた位置で、貯蔵タンク28から管路ないしは圧縮空気ライン27を経て供給され、したがって、そこでの頭部部材17に設けられる通路系には、乾燥直後であるところの除湿エアーを送られるものではなく、また、貯蔵タンク28、管路27をも含むパージ装置全体が、乾燥装置の本体内に組み込まれるものでもない。してみれば、引用例4及び5に記載のものからは、「除湿直後の圧縮エアの一部をパージエア取入領域から低圧領域へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成する」ことが教示されない。
引用例6には、単一構造ブロック中に複数の配管を形成した流体マニホールド一般の技術が示されているが、このものから、除湿装置のパージ通路全体の配置につき、具体的に示唆されるものは何もない。
以上のとおり、引用例1~6に記載される発明からは、上記(ハ)の相違点に関する構成である、「除湿直後の圧縮エアの一部をパージエア取入領域から低圧領域へ送るためのパージ通路全体がハウジング内に組み込み形成する」ということが容易に想到することができない。
してみれば、他の上記(イ)及び(ロ)の相違点の判断については措くものとしても、上記(ハ)の相違点に関する構成が容易に想到することができないのであるから、訂正発明5は、引用例1~6に記載される発明に基づいて当業者が容易に発明できるものであるということができない。

《その-3》
本件明細書については、平成9年10月6日付け手続補正により、その請求項5の記載を付加したものであって、その請求項5には、「・・・、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・」という補正事項が含まれるものである。
ところが、前記したとおり、本件明細書は、平成12年5月23日付の訂正請求により、訂正されたものであり、その結果、該記載が「【請求項5】・・・、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・」と訂正され、これにより、当該圧力領域に関し、中空糸膜の「外」の一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の「内」の他方をパージエアが流通する低圧領域とするとの構成が削除され、したがって、その削除されたところの構成を含むために当該補正事項が要旨変更である、との指摘は成り立たなくなったものである。
そうすると、この点からみれば、本件出願の出願日は、繰り下がるものでなく、変更出願の原出願に当たる実願昭63-151375号の現実の出願日である昭和63年11月21日がこれに該当することとなり、その結果、引用例7~10は、本出願前に頒布された刊行物には該当しないことになる。
したがって、引用例7~10に記載される発明を基に、訂正発明1~5は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるということができない。

以上のとおり、訂正発明1~5は、独立して特許を受けることができないとはいえない。

II-5.訂正の適否の結論
よって、上記訂正請求は特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第6条第1項の規定によりなお従前の例によるとされる、特許法第120条の4第3項において準用する平成6年法律第116号による改正前の特許法第126条第1項ただし書、第2項及び第3項の規定に適合するので、当該訂正を認める。

III.特許異議申立について
III-1.本件発明
本件特許第2891953号の請求項1~5に係る発明は、平成12年5月23日付で訂正請求がなされ、その請求どおり訂正された明細書の特許請求の範囲に記載される次のとおりのものであり、その記載は、前記II-4-1.の項で記載したとおりである。

III-2.特許異議申立の概要
特許異議申立人〈旭硝子株式会社〉は、証拠として、
甲第1号証:特開昭53-97246号公報(前記引用例1)
甲第2号証:米国特許第3,735,558号明細書(前記引用例2)
甲第3号証:実公昭53-10573号公報(前記引用例6)
甲第4号証:実公平6-41629号公報(前記引用例7)を提示し、
(1)本件請求項1~5に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり《理由-1》、
(2)本件明細書についてされた平成9年10月6日及び平成10年1月14日の補正は、これらの要旨を変更するものであり、本件請求項1~5に係る発明は、その補正書を提出したときに出願したものとみなされ、したがって、本件請求項1~4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であって、それらの特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、また、本件請求項5に係る発明は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり《理由-2》、よって、本件請求項1~5に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張する。

特許異議申立人〈市橋俊一郎〉は、証拠として、
甲第1号証:特開平6-134245号公報(前記引用例8)
甲第2号証:米国特許第3,735,558号明細書(前記引用例2)
甲第3号証:特開昭63-258620号公報(前記引用例3)を提示し、
(3)本件明細書についてされた平成9年10月6日及び平成10年1月14日の補正は、これらの要旨を変更するものであり、本件請求項5に係る発明は、その補正書を提出したときに出願したものとみなされ、したがって、本件請求項5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、その特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり、《理由-3》
(4)本件請求項5に係る発明は、甲第2及び3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり《理由-4》、よって、本件請求項5に係る発明の特許は取り消されるべきである旨主張する。

特許異議申立人〈エムエムシー株式会社〉は、証拠として、
甲第1号証:特開昭53-97246号公報(前記引用例1)
甲第2号証:米国特許第3,735,558号明細書(前記引用例2)
甲第2号証の1:米国特許第3,735,558号明細書の部分訳
甲第3号証:米国特許第3,464,186号明細書(前記引用例5)
甲第3号証の1:米国特許第3,464,186号明細書の部分訳
甲第4号証:実公平6-41629号公報(前記引用例7)
甲第5号証:特開平8-299743号公報(前記引用例10)を提示し、
(5)本件請求項1~5に係る発明は、甲第1~3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり《理由-5》、
(6)本件明細書についてされた平成9年10月6日及び平成10年1月14日の補正は、これらの要旨を変更するものであり、本件請求項1~5に係る発明は、その補正書を提出したときに出願したものとみなされ、したがって、本件請求項1~5に係る発明は、甲第4号証に記載された発明であって、それらの特許は特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものであり《理由-6》、よって、本件請求項1~5に係る発明の特許は取り消されるべきものである旨主張する。

特許異議申立人〈オリオン機械株式会社〉は、証拠として、
甲第1号証:特開昭53-97246号公報(前記引用例1)
甲第2号証:米国特許第3,735,558号明細書(前記引用例2)
甲第2号証の2:米国特許第3,735,558号明細書の部分訳
甲第3号証:特開昭63-258620号公報(前記引用例3)
甲第4号証:特公昭43-12880号公報(前記引用例4)
甲第5号証:特開平9-168716号公報(前記引用例9)
甲第5号証の2:甲第5号証の図10の部分拡大図、を提示し、
(7)本件請求項1~5に係る発明は、甲第1~4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり《理由-7》、
(8)本件明細書についてされた平成10年1月14日の補正は、要旨を変更するものであり、本件請求項1~5に係る発明は、その補正書を提出したときに出願したものとみなされ、したがって、本件請求項1~5に係る発明は、甲第5号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであって、それらの特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり《理由-8》、
(9)本件請求項5に係る発明の特許は、特許法第36条に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり《理由-9》、したがって、本件請求項1~5に係る発明の特許は取り消されるべきである旨主張する。

III-3.証拠の記載内容
特許異議申立人の甲各号証に記載される発明は、前記II-4-2.で記載したとおりである。

III-4.対比、判断
特許異議申立人の上記《理由-1》、《理由-4》、《理由-5》及び《理由-7》にかかる主張は、前記II-4-3の独立特許要件の項の《その-1》及び《その-2》で説示した理由により、採用することができない。
以下、それ以外の主張につき検討する。
《理由-2、理由-3、及び、理由-8について》
特許異議申立人のここでの主張は、平成9年10月6日及び平成10年1月14日の補正は、要旨を変更するということに基づくものである。
まず、本件明細書につき、平成9年10月6日付け手続補正により、請求項5に、「・・・、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・」という補正事項が含まれることとなったという点については、前記II-4-3の独立特許要件の項の《その-3》で説示したとおり、要旨変更には至らないものである。
次に、本件明細書につき、平成10年1月14日付け手続補正により、請求項5に、「・・・、前記キャップを単一構造により構成するとともに、・・・」という補正事項が含まれることとなった点につき、検討する。
確かに、願書に最初に添付された明細書には、キャップを単一構造とすることは直載されないものの、願書に最初に添付された図1~10及び同明細書のその図面の説明箇所には、明らかに単一構造であるキャップが示されるものである。
特に、その図10(特許設定時の図面では図8)には、単一部材の構造を有するキャップ81が示されるものであり、以上のことからすると、キャップを単一構造により構成する点については、願書に最初に添付された明細書に、実質上、記載されていたといえるものである。
なお、特許異議申立人は、図10につき、そこには、ニードル弁等を含めて単一構造に構成したキャップが記載されない旨主張するが、この請求項5においては、キャップがニードル弁のような調整部材を保持することについてまでも規定するものでなく、したがって、キャップがニードル弁等と共に単一構造となることが必ずしも明細書に記載される必要はない。
そうすると、キャップに関するその構成を含むために当該補正事項が要旨変更である、との指摘は成り立たないものである。
してみると、本件出願の出願日は、繰り下がるものでなく、変更出願の原出願に当たる実願昭63-151375号の現実の出願日である昭和63年11月21日がこれに該当することとなり、その結果、旭硝子株式会社の提出した甲第4号証(引用例7)、市橋俊一郎の提出した甲第1号証(引用例8)、オリオン機械株式会社の提出した甲第5号証(引用例9)は、本出願前に頒布された刊行物には該当しないことになる。
したがって、これら甲号証に記載される発明を基に、訂正発明1~5は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるということができない。
また、出願前に頒布された刊行物には該当しないこれら甲号証のものと、他の甲号証とを組み合わせて、訂正発明5は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるということができない。
《理由-6について》
本件明細書については、平成9年10月6日の補正により、その請求項5の記載を付加したものであって、その請求項5は、「・・・除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップには、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路に連通され前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した・・・。」という補正事項が含まれるものである。
この補正事項のうち、特許異議申立人が指摘する、ハウジングは、少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなるという点は、願書に最初に添付された図1~10及び同明細書のその図面の説明箇所に、実質上、記載されるものであり、この構成を付加することにより、その要旨が変更されるとまではいえない。

なお、特許異議申立人は、この補正事項のうち、少なくともキャップとからなるという点に着目して、この補正は、ハウジングが単一のキャップのみを具備する構成を新たに規定するものである旨主張するものであるが、この、「少なくとも」としたのは、ハウジングが、ケースとキャップだけでなく、それ以外の部材をも含みうることを規定しただけであって、それ以外のことまで、規定するものではない。
この場合、他の部材としては、例えば、願書に最初に添付された図1~10及び同明細書のその図面の説明箇所において、ニードル弁11、カバー23、ねじリング53等が例示されるものである。
そして、特許異議申立人は、本件出願後に出願されそして出願公開されたところの甲第5号証における発明が訂正発明5に含まれるか否かにつき、縷々主張するものであるが、その甲第5号証における発明が訂正発明5に含まれるか否かということと、ここでの当該補正が要旨を変更するものであるか否かということとの間には、直接の関連はないものである。

次に、平成10年1月14日の補正により、その請求項5の記載を「・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した・・・。」と補正するものであるが、この補正事項も、同様に、願書に最初に添付された図1~10及び同明細書のその図面の説明箇所に、実質上、記載されるものであり、この構成が付加することにより、その要旨が変更されるとまではいえない。
してみると、本件出願の出願日は、これらの訂正事項により繰り下がるものでなく、変更出願の原出願である実願昭63-151375号の出願日である昭和63年11月21日がこれに該当することとなり、その結果、甲第4号証(引用例7)は本出願前に頒布された刊行物には該当しないことになる。
したがって、甲第4号証に記載される発明を基に、訂正発明1~5は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反して特許されたものであるということができない。
《理由-9について》
ここでの主張は、請求項5に記載される単一構造のキャップにつき、その形成方法が明細書には記載されておらず、かかる長いトンネル状のパージ通路を有する単一構造物は、当業者にとって容易に形成することはできないということに基づくものである。
確かに、このキャップは、複雑な構造を有するものである。
しかし、一般に、複雑な単一構造物であっても、射出成形によれば、成形することは可能なものであり、このことは、可塑材料の成形ないしは形成分野においては当業者に良く知れらていることであり、また、それ以外の方法によっても、例えば、中子材料などを適宜選定することによっても、製造できることは明らかなことである。
してみれば、本件明細書には、当該キャップの製造方法につき具体的に記載されていないとしても、かかる技術常識からみると、その製造に著しく困難を伴うとまでいえるものでなく、したがって、当該キャップを具備することを構成要件とする訂正発明5を当業者が容易に実施することができないということができない。
また、当該キャップは製造可能なものであるので、それを規定する訂正発明5の構成が不明瞭であるということもできない。
したがって、以上の点で、訂正発明5が、特許法第36条第3項、第4項及び5項に規定する要件を満たしていないとはいえない。

IV. まとめ
以上のとおり、特許異議申立の理由及び証拠によっては、本件請求項1~5に係る発明の特許を取り消すことができない。
また、他に本件請求項1~5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
除湿装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を円環状に束ねて収容し、中空糸膜の内部を高圧領域とすると共に、中空糸膜の外面近傍領域を低圧領域とし、ハウジング外から高圧領域へ除湿前の圧縮エアを供給すると共に、ハウジング外へ取り出し、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、前記パージ通路は少なくとも前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側に形成された通孔を備えていることを特徴とする除湿装置。
【請求項2】 前記通孔は前記円環状内面の径方向に間隔をおいて複数形成されている請求項1記載の除湿装置。
【請求項3】 前記通孔は前記中空糸膜の長手方向中央から一方に偏った位置に形成され、前記低圧領域を通過したエアを排出する排出口は前記ハウジングにおける前記中空糸膜の長手方向中央から他方に偏った位置に形成されている請求項1又は請求項2記載の除湿装置。
【請求項4】 前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側を円筒体により支持し、その円筒体に前記通孔を形成した請求項1、2又は3記載の除湿装置。
【請求項5】 ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップを単一構造により構成するとともに、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された除湿装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は高分子浸透膜を用いて圧縮空気内の水分を除去する除湿装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の除湿装置が特開昭62-42723号公報に開示されている。この装置では高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねた状態で密封容器に入れて密封容器内を中空糸膜内の領域と中空糸膜外の領域とに隔て、密封容器内における中空糸膜外の領域に高圧の水蒸気混合ガスを供給すると共に、中空糸膜内に除湿ガスを供給するようになっている。水蒸気混合ガス内の水分は中空糸膜を介して中空糸膜内に浸透分離し、中空糸膜内に浸透分離した水分は中空糸膜内を流れる除湿ガスと共に密封容器外へ排出される。この高分子浸透膜方式では連続除湿、浸透膜の長寿命性に起因する耐用期間の長さ、騒音振動のない無可動構成といった種々の利点がある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、低圧領域内へ浸透分離された水分を掃除気するための除湿エアを低圧領域へ供給する回路が密封容器外にて構成されているため、そのための配管を密封容器外に設ける必要がある。このような密封容器外の配管は除湿装置以外の余分な設置スペースを必要とし、除湿装置の使い勝手の阻害要因となっている。
【0004】
又、上記従来の除湿装置では上述のとおりの各種利点は存在するものの、除湿性能としては未だ満足のいくものではない。
本発明はこのような配管スペースを必要としない浸透膜方式の除湿装置を提供することを目的とするものである。
【0005】
又、本発明の他の目的は、浸透膜方式の除湿装置における更なる除湿性能の向上、或いはコンパクト化や用途範囲の拡大等にある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明では、ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を円環状に束ねて収容し、中空糸膜の内部を高圧領域とすると共に、中空糸膜の外面近傍領域を低圧領域とし、ハウジング外から高圧領域へ除湿前の圧縮エアを供給すると共に、ハウジング外へ取り出し、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、前記パージ通路は少なくとも前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側に形成された通孔を備えている構成とした。
【0007】
請求項2記載の発明では、請求項1記載の除湿装置において、前記通孔を前記円環状内面の径方向に間隔をおいて複数形成して構成した。
請求項3記載の発明では、請求項1又は請求項2記載の除湿装置において、前記通孔を前記中空糸膜の長手方向中央から一方に偏った位置に形成し、前記低圧領域を通過したエアを排出する排出口を前記ハウジングにおける前記中空糸膜の長手方向中央から他方に偏った位置に形成して構成した。
【0008】
請求項4記載の発明では、請求項1、2又は3記載の除湿装置において、前記多数本の中空糸膜により形成される円環状内面側を円筒体により支持し、その円筒体に前記通孔を形成して構成した。
【0009】
請求項5記載の発明では、ハウジング内に高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜を束ねて収容し、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、前記ハウジングは少なくともケースと該ケース端部を閉塞するキャップとからなり、前記ケース内には、前記中空糸膜の束を収容し、前記キャップを単一構造により構成するとともに、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された構成とした。
【0010】
【作用】
上記手段により、請求項1記載の発明では、中空糸膜内へ送り込まれた除湿前の圧縮エア内の気体状水分は中空糸膜を介して低圧領域へ浸透分離し、中空糸膜から送り出された圧縮エアの湿度は極めて低い。除湿された圧縮エアの一部はハウジングに組み込み形成されたパージ通路を経由して低圧領域へ送りこまれ、低圧領域へ浸透分離した水分がハウジング外へ掃気される。除湿エアを送り込むパージ通路をハウジング内に組み込んだ構成ではパージのための外部配管スペースの確保といった問題が解消される。又、多数本の中空糸膜を円環状に束ねて配置していることから、パージ通路の通孔を円環状内面側に設けることができ、これにより、パージエアは中空糸膜束の中心部から外周部へ向かって吹き出すように流れる。その結果、全ての中空糸膜にパージエアを行き渡らせることが可能となってデッドスペースを生じることがなくなり、パージ効率の向上、ひいては除湿性能の向上をもたらす。
【0011】
請求項2記載の発明では、前記通孔を前記円環状内面の径方向に間隔をおいて複数形成していることから、一層確実に中空糸膜束全体ヘパージエアを行き渡らせることが可能となり、更なる除湿性能の向上をもたらす。しかも、通孔の数を増やすだけで除湿性能を向上させることができることから、その構造も簡単なもので済む。
【0012】
請求項3記載の発明では、前記通孔を中空糸膜の長手方向一方へ偏った位置に形成し、低圧領域を通過したエアを排出する排出口を前記長手方向他方に偏った位置に形成している。その結果、パージエアが中空糸膜束の中心部から外周部へ向かって流れつつ、中空糸膜束の長手方向一方から他方へ向かって流れるようになり、パージ流による不均一な流れを防ぎ、中空糸膜束全体をより一層確実に効率よくパージすることが可能となり、更なる除湿性能の向上をもたらす。
【0013】
請求項4記載の発明では、前記円環状に束ねられた中空糸膜束の内面側に円筒体を配置して中空糸膜束の内周を支持しているため、中空糸膜束の強度を向上させることが可能となる。その結果、高圧の圧縮エア或いは圧力変動の大きい圧縮エアに対する除湿も可能となり、用途範囲が広くなる。
【0014】
請求項5記載の発明では、中空糸膜の高圧領域へ送り込まれた除湿前の圧縮エア内の気体状水分は中空糸膜を介して低圧領域へ浸透分離し、中空糸膜から送り出された圧縮エアの湿度は極めて低い。中空糸膜の高圧領域を通過した除湿後の圧縮エアはキャップに形成された取出通路を介して即座に外部に供給されるが、このキャップ内の取出通路には、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域が連通するように形成されている。そのため、除湿直後の圧縮エアがパージエアとして即座に中空糸膜の低圧領域へ供給されることとなり、パージエアの低湿度とパージ通路の短縮化とが相俟ってパージ効率が向上する。又、取出通路及びそこから分岐されるパージエア分岐部位を含むパージエア取入領域がキャップ内に形成されていることから、ケースには複雑な通路を形成する必要がないとともにキャップ外部に別の通路形成部材を設ける必要もなく、通路設計・製作が簡単になる。勿論、パージ用の外部配管も不要となってコンパクト化も達成される。更に、単一構造のキャップ内に取出通路及びパージエア分岐部位を含むパージエア取入領域とを形成しているので、キャップ自体の部品点数の低減に加え、通路や分岐部位に設けられるシール部材の数が大幅に低減されて更なる部品点数の低減及びエア漏れの低減を図ることができる。
【0015】
【実施例】
[第1実施例]
以下、本発明を具体化した第1実施例を図1に基づいて説明する。
【0016】
本発明のケースとしての収納円筒1と、収納円筒1の一端側に嵌着された供給側キャップ2と、収納円筒1の他端側に嵌着された本発明のキャップとしての取り出し側キャップ3とによりハウジングが構成されており、収納円筒1内にはポリイミド製等の高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜4が円環状に束ねられて収容されている。束ねられた中空糸膜4の両端部はいずれも円環状のシール部材5,6により収納円筒1の両端部内周面に固定されており、円環状のシール部材5,6の中空部間には本発明の円筒体としての遮蔽円筒7が架設固定されて中空糸膜4束の円環状内面を支持している。
【0017】
遮蔽円筒7の下端開口部には密栓8が嵌合されており、供給側キャップ2内の供給領域2aと取り出し側キャップ3内の取り出し領域3aとはハウジング内では中空糸膜4内のみを介して連通している。収納円筒1と遮蔽円筒7との間の領域は遮蔽円筒7上部の複数の通孔7aにより遮蔽円筒7内に連通しており、収納円筒1及び供給側キャップ2を貫通する排出口としての複数の排出通路L1によりハウジング外部に連通している。前記各通孔7aは図示のように遮蔽円筒7の径方向及び長手方向に間隔をおいて配置されている。即ち、中空糸膜4、両シール部材5,6及び密栓8によりハウジング内が供給領域2a、中空糸膜4内及び取り出し領域3aからなる高圧領域S1と、収納円筒1内における中空糸膜4外の低圧領域S2とに区分設定されている。なお、9は排出通路L1上に介在されたサイレンサである。従って、各通孔7aは上部に偏った位置に配置され、排出通路L1は下部に偏った位置に配置されている。
【0018】
遮蔽円筒7の上端開口部には弁座10が嵌めこまれていると共に、取り出し側キャップ3にはニードル弁11が弁座10の円錐状の流路孔10aに入り込むように螺着されており、ニードル弁11を螺合操作することにより流路孔10aにおける通過断面積が変えられるようになっている。
【0019】
取り出し側キャップ3の出口通路3b内には網状部材12及びストッパ13が介在されており、網状部材12とストッパ13との間にはボール状バルブ14が収容されている。出口通路3b内に上方へのエア流がない場合にはボール状バルブ14は網状部材12上に落下している。
【0020】
従って、取り出し側キャップ3に形成された取り出し領域3a及び出口通路3bにより、本発明の取出通路が構成され、取り出し側キャップ3に形成された取り出し領域3aがパージエア取入領域を兼ねている。
【0021】
供給側キャップ2の入口2bから供給領域2aへ送り込まれた除湿前の高圧エアは中空糸膜4内を通過する間に高分子浸透膜の浸透分離作用を受ける。中空糸膜4内を膜面に沿って通過するエア内の気体状水分は次式で表される高分子浸透膜の浸透分離作用により中空糸膜4内から低圧領域S2内へ浸透分離する。
【0022】
Q=ρA(P1・M1-P2・M2)
但し、Qは中空糸膜4内から低圧領域S2へ流れる水分の透過流量、ρは気体状水分の透過速度定数、Aは全中空糸膜4の透過面積、P1は高圧領域S1側の圧力、P2は低圧領域S2側の圧力、M1は高圧領域S1側における水分のモル分率、M2は低圧領域S2側における水分のモル分率である。気体状水分の透過速度定数ρはエアの構成気体である酸素及び窒素に比して数倍~数百倍程度大きく、中空糸膜4を気体状水分が優先的に透過する。これにより中空糸膜4を通って取り出し領域3aへ排出されたエアは除湿されており、この除湿エアの大部分は取り出し側キャップ3の出口通路3bから送り出されると共に、一部が、ハウジングのほぼ中心部に設けられている流路孔10a、遮蔽円筒7内及び通孔7aを経由して収納円筒1と遮蔽円筒7との間の低圧領域S2へ送られる。
【0023】
出口通路3bを通過する除湿エアはボール状バルブ14を押し上げ、このボール状バルブ14の上動位置により出口通路3bの通過断面積が規制される。ボール状バルブ14がストッパ13に当接したときが通過断面積最小の状態であり、これにより出口通路3bを流れる除湿エアの流量が所定量以上になることはない。前記式における気体状水分の透過速度定数ρがエアの構成気体である酸素及び窒素に比して数倍~数百倍程度大きいことによる水分の浸透分離作用は高分子浸透膜の膜面に沿った圧縮エアの流速の影響も受け、この流速が大きいと浸透分離性能が低下する。しかしながら、出口通路3b上のボール状バルブ14の介在により中空糸膜4内の圧縮エアの流速が過大になることはなく、浸透分離性能の低下が回避される。
【0024】
収納円筒1と遮蔽円筒7との間の低圧領域S2へ送られる除湿エアの量は流路孔10aにおける通過断面積に左右され、この通過断面積はニードル弁11の回動操作により簡単に調整される。従って、中空糸膜4から取り出し領域3aへ送り出される除湿エア流量に対する出口通路3b内の除湿エア流量の割合(除湿エア収率)の調整を簡単に行なうことができる。このような簡単な調整操作をもたらすニードル弁11及び弁座10からなるパージ流量調整機構はパージ通路を形成する遮蔽円筒7と共にハウジング内に組み込まれており、パージ通路及びこの通路における通過断面積を調整する機構をハウジング外に設置する構成に比して機構の簡素化及びコンパクト化が著しく、外部配管における設置スペースの問題も解消する。
【0025】
又、多数本の中空糸膜4を円環状に束ねて配置していることから、パージ通路の通孔7aを円環状内面側に設けることができ、これにより、パージエアは中空糸膜4束の中心部から外周部へ向かって吹き出すように流れる。その結果、全ての中空糸膜4にパージエアを行き渡らせることが可能となってデッドスペースを生じることがなくなり、パージ効率の向上、ひいては除湿性能の向上をもたらす。しかも、前記通孔7aは前記円環状内面の径方向に間隔をおいて複数形成していることから、一層確実に中空糸膜4束全体ヘパージエアを行き渡らせることが可能となり、更なる除湿性能の向上をもたらす。
【0026】
又、前記通孔7aを中空糸膜4の長手方向上部へ偏った位置に形成し、低圧領域S2を通過したエアを排出する排出通路L1を下部に偏った位置に形成している。その結果、パージエアが中空糸膜4束の中心部から外周部へ向かって流れつつ、中空糸膜4束の長手方向上部から下部へ向かって一定に流れるようになり、パージ流による不均一な流れを防ぎ、中空糸膜4束全体をより一層確実に効率よくパージすることが可能となり、更なる除湿性能の向上をもたらす。
【0027】
又、前記円環状に束ねられた中空糸膜4束の内面側に遮蔽円筒7を配置して中空糸膜4束の内周を支持しているため、中空糸膜4束の強度を向上させることが可能となる。その結果、高圧の圧縮エア或いは圧力変動の大きい圧縮エアに対する除湿も可能となり、用途範囲が広くなる。
【0028】
更に、中空糸膜4の高圧領域を通過した除湿後の圧縮エアは取り出し側キャップ3に形成された取出通路としての取り出し領域3a及び出口通路3bを介して即座に外部に供給されるが、このキャップ3内の取り出し領域3aはパージエア取入領域としても機能する。そのため、除湿直後の圧縮エアがパージエアとして即座に中空糸膜4の低圧領域S2へ供給されることとなり、パージエアの低湿度とパージ通路の短縮化とが相俟ってパージ効率が向上する。又、除湿後エアの取出及びパージエア取込のための通路や領域がキャップ3によって形成されていることから、ケースとしての収納円筒1には複雑な通路を形成する必要がなく、通路設計・製作が簡単になる。
【0029】
[第2実施例]
次に、本発明の第2実施例を図2に基づいて説明する。
ケースとしての収納円筒15と、収納円筒15の一端側に嵌着された供給側キャップ16と、収納円筒15の他端側に嵌着されたキャップとしての取り出し側キャップ17とによりハウジングが構成されており、収納円筒15内にはポリイミド製の高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜18が円筒状に束ねられて収容されている。束ねられた中空糸膜18の両端部はいずれもシール部材19,20により収納円筒15の両端部内周面に固定されており、供給側キャップ16内の供給領域16aと取り出し側キャップ17内の取り出し領域17aとはハウジング内では中空糸膜18内のみを介して連通している。即ち、中空糸膜18及び両シール部材19,20によりハウジング内が供給領域16a、中空糸膜18内及び取り出し領域17aからなる高圧領域S1と、収納円筒15内における中空糸膜18外の低圧領域S2とに区分設定されている。
【0030】
取り出し側キャップ17内に形成された取出通路としての出口通路17bには段差部17cが形成され、その段差部17cには円錐台形状の流量制限弁21が介在されており、流量制限弁21の軸心部には通孔21aが貫設されている。流量制限弁21は押圧ばね22により段差部17cに連結支持されており、出口通路17b内をエアが通過することにより流量制限弁21が押圧ばね22に抗して弁座面17dに接合可能である。
【0031】
取り出し側キャップ17の内端部から収納円筒15にかけてカバー23が嵌合止着されていると共に、カバー23と取り出し側キャップ17及び収納円筒15との間には環状通路L2が形成されており、収納円筒15内の低圧領域S2は収納円筒15上の通孔15aを介して環状通路L2に連通している。取り出し領域17aはパージエア取入領域としてのパージ通路17eを介して環状通路L2に連通しており、パージ通路17e上にはニードル弁24が介在されている。ニードル弁24は取り出し側キャップ17に螺着されており、ニードル弁24の回動操作によりパージ通路17eにおける通過断面積が調整される。
【0032】
供給側キャップ16側の収納円筒15の端部にはカバー25が嵌合止着されており、カバー25と収納円筒15及び供給側キャップ16との間には環状の排出通路L3が形成されていると共に、排出通路L3の出口側には環状のサイレンサ26が嵌めこまれている。そして、収納円筒15内の低圧領域S2は収納円筒15の通孔15aを介して排出通路L3に連通している。
【0033】
供給側キャップ16の入口16bから供給領域16aへ送り込まれた除湿前の圧縮エアは中空糸膜18内を通過する間に高分子浸透膜の浸透分離作用を受け、圧縮エア内の気体状水分が収納円筒15内の低圧領域S2内へ浸透分離する。
【0034】
中空糸膜18を通って排出領域17aへ排出されたエアは除湿されており、この除湿エアの大部分は取り出し側キャップ17の出口通路17bから送り出されると共に、一部がパージ通路17e、環状通路L2及び通孔15aを経由して収納円筒15内の間の低圧領域S2へ送られる。
【0035】
出口通路17bを通過する除湿エアは流量制限弁21を押し上げ、出口通路17b内の除湿エアの流量が所定量になると流量制限弁21が弁座面17dに接する。これにより除湿エアは通孔21aのみを通過し、出口通路17bを流れる除湿エアの流量が所定量以上になることはない。従って、出口通路17b上の流量制限弁21の介在により中空糸膜18内の圧縮エアの流速が過大になることはなく、浸透分離性能の低下が回避される。
【0036】
又、収納円筒15内の低圧領域S2へ送られる除湿エアの量はパージ通孔17fにおける通過断面積によって決まり、この通過断面積はニードル弁24の回動操作により簡単に調整される。従って、前記第1の実施例と同様に除湿エア収率の調整を簡単に行なうことができ、しかも機構の簡素化及びコンパクト化を図りつつ外部配管における設置スペースの問題も解消することができる。
【0037】
[第3実施例]
次に、本発明の第3実施例を図3に基づいて説明する。
ケースとしての収納円筒27と、収納円筒27の一端側に嵌着された供給側キャップ28と、収納円筒27の他端側に嵌着されたキャップとしての取り出し側キャップ29とによりハウジングが構成されており、収納円筒27内にはポリイミド製等の高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜30が円柱状に束ねられて収容されている。中空糸膜30の両端部はいずれもシール部材31,32により収納円筒27の両端部内周面に固定されており、供給側キャップ28内の供給領域28aと取り出し側キャップ29内の取り出し領域29aとはハウジング内では中空糸膜30内のみを介して連通している。即ち、中空糸膜30及び両シール部材31,32によりハウジング内が供給領域28a、中空糸膜30内及び取り出し領域29aからなる高圧領域S1と、収納円筒27内における中空糸膜30外の低圧領域S2とに区分設定されている。そして、一方のシール部材32には適数個のパージオリフィス32aが取り出し領域29aと収納円筒27内の低圧領域S2とを連通するように透設されている。
【0038】
供給側キャップ28の側面部には噴射通路33が収納円筒27に設けられており、排出通路L4を介して低圧領域S2に連通している。噴射通路33にはノズル34が延出していると共に、ノズル34が供給領域28aに連通しており、ノズル34内にはニードル弁35が螺着されている。即ち、噴射通路33、ノズル34及びニードル弁35からなるエジェクタがハウジングを構成する供給側キャップ28に組み込まれている。
【0039】
なお、噴射通路33の出口にはサイレンサ33aが嵌められている。
供給側キャップ28の入口28bから供給領域28aへ送り込まれた除湿の圧縮エアの大部分は中空糸膜30内を通って取り出し領域29aに達し、一部はノズル34から噴射通路33へ噴射される。この噴射圧はニードル弁35の回動操作により変更可能である。中空糸膜30内を膜面に沿って通過するエア内の気体状水分は中空糸膜30内から低圧領域S2内へ浸透分離し、取り出し領域29aへ排出されたエアは除湿されている。この除湿エアの大部分は取り出し側キャップ29の出口29bから送り出されると共に、一部がパージオリフィス32aを経由して低圧領域S2へ送られる。前記取り出し領域29a及び出口29bにより取出通路が構成され、又取り出し領域29aはパージエア取入領域を兼ねている。
【0040】
透過流量Qを表す前記式によれば高圧領域S1の圧力P1が低圧領域S2の圧力P2よりも大きいほど透過流量Qは増加し、高圧領域S1のモル分率M1が低圧領域S2のモル分率M2よりも大きいほど透過流量Qは増加する。ノズル34からの除湿前の高圧エアの噴射は低圧領域S2内を大気圧よりも低下させると共に、パージオリフィス32aから送りこまれる除湿エアの掃気流を中空糸膜30の膜外面に沿って発生させる。従って、低圧領域S2側へ浸透分離された気体状水分は除湿エアの掃気流により排出通路L4を経由してハウジング外部へ運び去られ、しかも低圧領域S2の圧力を大気圧以下とすることにより低圧領域S2内における露点が低下し、これにより大気圧よりも低い低圧領域S2側におけるモル分率M2が常に低値に抑えられる。
【0041】
エジェクタの減圧作用により低圧領域S2内を大気圧よりもさらに低下させると共に、低圧領域S2内に掃気流を発生させる構成は前記式で表されるように気体状水分の透過流量を大きく左右する高圧領域と低圧領域との圧力差及びモル分率差の拡大に寄与する。これにより除湿エアの掃気流量の低減を図りつつ気体状水分の透過流量を増大することができ、浸透分離効率及びパージ効率を共に高めることができる。しかも、除湿前エアを利用するエジェクタをハウジングに組み込んだことにより装置のコンパクト化が可能であり、外部配管における設置スペースの問題も解消する。
【0042】
[第4実施例]
次に、本発明の第4実施例を図4に基づいて説明する。
テフロンあるいはナイロンといったフレキシブルな材質からなるケースとしての収納円筒49と、収納円筒49の一端側に嵌着された供給側キャップ50と、収納円筒49の他端側に嵌着されたキャップとしての取り出し側キャップ51とによりハウジングが構成されており、収納円筒49内にはポリイミド製等の高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜52が両キャップ50,51を貫通した状態に束ねられて収容されている。これにより供給側キャップ50内の入口通路50aと取り出し側キャップ51内の取出通路としての出口通路51aとはハウジング内では中空糸膜52内のみを介して連通している。即ち、中空糸膜52及び両キャップ50,51によりハウジング内が入口通路50a、中空糸膜52内及び出口通路51aからなる高圧領域S1と、収納円筒49内における中空糸膜52外の低圧領域S2とに区分設定されている。
【0043】
取り出し側キャップ51の外周にはねじリング53が螺着されており、取り出し側キャップ51の外周段差部とねじリング53の内周段差部との間には環状通路L5が形成されている。環状通路L5はパージエア取入領域としてのパージ通路51bを介して出口通路51a及び低圧領域S2に連通しており、低圧領域S2は供給側キャップ50内の排出通路50bを介してハウジング外部に連通している。
【0044】
供給側キャップ50の入口通路50aから中空糸膜52へ送り込まれた除湿前の圧縮エアは高分子浸透膜の浸透分離作用を受け、圧縮エアの水分が収納円筒49内の低圧領域S2内へ浸透分離する。中空糸膜52を通って出口通路51aへ排出されたエアは除湿されており、この除湿エアの一部がパージ通路51b及び環状通路L5を経由して低圧領域S2へ送られる。これにより低圧領域S2内の水分が排出通路50bを経由してハウジング外部へ排出される。
【0045】
低圧領域S2へ送られる除湿エアの量は環状通路L5における通過端面積によって決まり、この通過断面積はねじリング53の回動操作により調整される。従って、除湿エア収率の調整を簡単に行なうことができ、しかも機構の簡素化及びコンパクト化を図りつつ外部配管における設置スペースの問題も解消することができる。
【0046】
又、この実施例では収納円筒49をフレキシブルな部材で作ってあるので、例えば図4に鎖線で示すように除湿装置全体をコンパクトな形状に湾曲することができる。これにより設置スペースの削減を図ることができ、しかも取付姿勢もかなり自由に選択することができる。又、配管ホースの一部として使用でき、自在作業のためのゴムホース配管的な使用も可能となる。
【0047】
[第5実施例]
次に、本発明の第5実施例を図5に基づいて説明する。
ケースとしての収納円筒54と、収納円筒54の一端側に嵌着された供給側キャップ55と、収納円筒54の他端側に嵌着された取り出し側キャップ56とによりハウジングが構成されており、収納円筒54内にはポリイミド製等の高分子浸透膜からなる多数本の中空糸膜57が円環状に束ねられて収容されている。束ねられた中空糸膜57の両端部はいずれも円環状のシール部材58,59により収納円筒54の両端部内周面に固定されており、円環状のシール部材58,59の中空部間には円筒体としての遮蔽円筒60が架設固定されている。
【0048】
遮蔽円筒60の一端開口部には密栓61が嵌合されており、供給側キャップ55内の供給領域55aと取り出し側キャップ56内の取り出し領域56aとはハウジング内では中空糸膜57内のみを介して連通している。収納円筒54と遮蔽円筒60との間の領域は遮蔽円筒60他端側の複数の通孔60aにより遮蔽円筒60内に連通しており、収納円筒54下部の通孔54aによりハウジング外部に連通している。即ち、中空糸膜57、両シール部材58,59及び密栓61によりハウジング内が供給領域55a、中空糸膜57内及び取り出し領域56aからなる高圧領域S1と、収納円筒54内における中空糸膜57外の低圧領域S2とに区分設定されている。除湿前の圧縮エアは供給領域55aから中空糸膜57へ送りこまれ、除湿されて排出通路55aへ送り出される。
【0049】
取り出し側キャップ56の外端には電空変換器62が連結されており、これら取り出し側キャップ56及び電空変換器62により本発明のキャップが構成されている。そして、電空変換器62の内部のノズル63を経由するパージエア取入領域としてのパージ通路62aが取出通路としての出口通路62bを介して排出領域56aに連通している。パージ通路62aは連通筒64を介して遮蔽円筒60内に連通しており、排出領域56aから出口通路62bへ送り出された除湿エアの一部がパージ通路62a、遮蔽円筒60内及び通孔60aを経由して低圧領域S2へ送りこまれる。ノズル63の噴射口近傍には圧電素子板からなるフラッパ65が延設配置されており、フラッパ65に対する制御部66からの印加電圧値に応じてフラッパ65が湾曲変位し、この湾曲変位によりノズル63からの噴射流量が制御される。
【0050】
収納円筒54の下部内側には湿度センサ67が取付けられており、この検出信号が制御部66に送られるようになっている。制御部66はこの検出信号に基づいてフラッパ65に対する印加電圧を算出し、この算出印加電圧をフラッパ65に印加する。検出湿度が設定湿度よりも高い場合には制御部66は低電圧をフラッパ65に印加し、フラッパ65の湾曲量が低く抑えられる。これによりノズル63からの除湿エアの噴射量が多くなり、低圧領域S2内の水分掃気作用が高められる。従って、中空糸膜57内の水分のモル分率M1と中空糸膜57外のモル分率M2との差が大きくなり、圧縮エアの除湿が促進される。検出湿度が低い場合には制御部66は高電圧をフラッパ65に印加し、フラッパ65の湾曲が大きくなる。これによりノズル63からの除湿エアの噴射量が少なくなり、低圧領域S2内の水分掃気作用が抑制される。従って、中空糸膜57内の水分のモル分率M1と中空糸膜57外のモル分率M2との差が小さくなり、圧縮エアの除湿が抑制される。即ち、低圧領域S2へ浸透分離される水分の量を検出することにより除湿エアの露点を一定に保つことができる。
【0051】
このような露点制御を行なうためのパージ通路62a及びこのパージ通路62aの通過断面積を調整するためのノズルフラッパ機構をハウジング内に組み込んだことにより機構の簡素化及びコンパクト化を図りつつ外部配管における設置スペースの問題も解消することができる。
【0052】
[第6実施例]
次に、本発明の第6実施例を図6に基づいて説明する。
この実施例では湿度センサに代えて流量センサ68を出口通路62b上に介在した以外は第6実施例と同様の構成をとっており、第6実施例と同一の部材には同一番号を付し、その詳細な説明は省略する。流量センサ68からの検出信号は制御部66に送られ、制御部66は検出流量値に応じた電圧値を算出してフラッパ65に印加する。検出流量が設定流量よりも多い場合には制御部66は低電圧をフラッパ65に印加し、フラッパ65の湾曲量が低く抑えられる。これによりノズル63からの除湿エアの噴射量が多くなり、低圧領域S2内の水分掃気作用が高められる。検出流量が少ない場合には制御部66は高電圧をフラッパ65に印加し、フラッパ65の湾曲が大きくなる。これによりノズル63からの除湿エアの噴射量が少なくなり、低圧領域S2内の水分掃気作用が抑制される。即ち、出口通路62b内の除湿エアの流量を検出することにより除湿エアの露点を一定に保つことができる。
【0053】
[第7実施例]
次に、本発明の第7実施例を図7に基づいて説明する。
この実施例では大径の制御圧室R1に収容された大径ピストン69及び小径の制御圧室R2に収容された小径ピストン70の共通のピストンロッド71の先端にはニードル弁72が遮蔽円筒60の一方の開口の座面60bに臨むように止着されており、出口通路62bには全圧取り出しパイプ73及び静圧取り出しパイプ74が突設されている。全圧取り出しパイプ73は制御圧室R1に連通されており、静圧取り出しパイプ74は制御圧室R2に連通されている。そして、制御圧室R2内には押圧ばね75が小径ピストン70を押し下げるように収容されている。
【0054】
出口通路62b内の除湿エア流による全圧は全圧取り出しパイプ73を介して制御圧室R1へ伝達し、静圧は静圧取り出しパイプ74を介して制御圧室R2へ伝達する。全圧と静圧との差は両ピストン69,70の受圧面積の差によって増幅され、出口通路62b内の流速が大きくなると押圧ばね75に抗してピストンを押し上げ、ニードル弁72が座面60bから離間し、流速が小さくなると押圧ばね75によりピストンが押し下げられてニードル弁72が座面60bに接近する。これにより除湿エアのパージ流量が制御され、露点一定の除湿エアを得ることができる。
【0055】
[第8実施例]
次に、本発明の第8実施例を図8に基づいて説明する。
シール部材76,77により束ねられた高分子浸透膜製の中空糸膜78を収容するケースとしての収納円筒79の両端には供給側キャップ80及びキャップとしての取り出し側キャップ81が嵌められており、取り出し側キャップ81内のパージエア取入領域としてのパージ通路81a上にはニードル弁82が介在されている。高圧領域S1の一部となる取り出し側キャップ81内の取出通路としての取り出し領域81bからパージ通路81aへ流入する除湿エアは低圧領域S2を掃気して収納円筒79上の通孔79aから流出する。
【0056】
パージ通路81a及びニードル弁82を組み込んで機構の簡素化及びコンパクト化を図りつつ外部配管における設置スペースの問題も解消する本実施例では、供給側キャップ80及び取り出し側キャップ81の外周に取付用フランジ部80a,81cが設けられており、各取付用フランジ部80a,81cにはボルト挿通用の取付孔80b,81dが透設されている。この取付用フランジ部80a,81cにより除湿装置自体の設置が簡便となり、配管と同様の取扱が可能である。
【0057】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1乃至請求項5に記載の各発明によれば、ハウジング内に束ねて収容された高分子浸透膜製の多数本の中空糸膜の外面に沿って除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成したので、パージ通路用の配管を除湿装置外部に設ける必要がなくなり、これにより機構の簡素化及びコンパクト化が著しく、外部配管における設置スペースの問題も解消する。
【0058】
特に、請求項1記載の発明では、多数本の中空糸膜を円環状に束ねて配置していることから、パージ通路の通孔を円環状内面側に設けることができ、これにより、パージエアは中空糸膜束の中心部から外周部へ向かって吹き出すように流れる。その結果、全ての中空糸膜にパージエアを行き渡らせることが可能となってデッドスペースを生じることがなくなり、パージ効率の向上、ひいては除湿性能の向上をもたらす。
【0059】
請求項2記載の発明では、前記通孔を前記円環状内面の径方向に間隔をおいて複数形成していることから、一層確実に中空糸膜束全体ヘパージエアを行き渡らせることが可能となり、更なる除湿性能の向上をもたらす。しかも、通孔の数を増やすだけで除湿性能を向上させることができることから、その構造も簡単なもので済む。
【0060】
請求項3記載の発明では、前記通孔を中空糸膜の長手方向一方へ偏った位置に形成し、低圧領域を通過したエアを排出する排出口を前記長手方向他方に偏った位置に形成している。その結果、パージエアが中空糸膜束の中心部から外周部へ向かって流れつつ、中空糸膜束の長手方向一方から他方へ向かって流れるようになり、パージ流による不均一な流れを防ぎ、中空糸膜束全体をより一層確実に効率よくパージすることが可能となり、更なる除湿性能の向上をもたらす。
【0061】
請求項4記載の発明では、前記円環状に束ねられた中空糸膜束の内面側に円筒体を配置して中空糸膜束の内周を支持しているため、中空糸膜束の強度を向上させることが可能となる。その結果、高圧の圧縮エア或いは圧力変動の大きい圧縮エアに対する除湿も可能となり、用途範囲が広くなる。
【0062】
請求項5記載の発明では、中空糸膜の高圧領域を通過した除湿後の圧縮エアはキャップに形成された取出通路を介して即座に外部に供給されるが、このキャップ内の取出通路には、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域が連通するように形成されている。そのため、除湿直後の圧縮エアがパージエアとして即座に中空糸膜の低圧領域へ供給されることとなり、パージエアの低湿度とパージ通路の短縮化とが相俟ってパージ効率が向上する。又、取出通路及びそこから分岐されるパージエア分岐部位を含むパージエア取入領域がキャップ内に形成されていることから、ケースには複雑な通路を形成する必要がないとともにキャップ外部に別の通路形成部材を設ける必要もなく、通路設計・製作が簡単になる。更に、単一構造のキャップ内に取出通路及びパージエア分岐部位を含むパージエア取入領域とを形成しているので、キャップ自体の部品点数の低減に加え、通路や分岐部位に設けられるシール部材の数が大幅に低減されて更なる部品点数の低減及びエア漏れの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を具体化した第1実施例を示す側断面図。
【図2】 第2実施例を示す側断面図。
【図3】 第3実施例を示す側断面図。
【図4】 第4実施例を示す側断面図。
【図5】 第5実施例を示す側断面図。
【図6】 第6実施例を示す側断面図。
【図7】 第7実施例を示す側断面図。
【図8】 第8実施例を示す側断面図。
【符号の説明】
第1実施例のハウジングを構成するケースとしての収納円筒1,供給側キャップ2及びキャップとしての取り出し側キャップ3、取出通路を構成する取り出し領域3a及び出口通路3b、パージエア取入領域を構成する取り出し領域3a、中空糸膜4、円筒体としての遮蔽円筒7、パージ通路を形成する通孔7a、排出口としての排出通路L1。
 
訂正の要旨 訂正の要旨
本件特許第2891953号の明細書につき、以下のとおり(a)~(d)の訂正をする。
(a)特許請求の範囲の請求項1における、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って高圧領域内の除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成し、・・・」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、・・・」と訂正する。
(b)特許請求の範囲の請求項5における、
「・・・、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した除湿装置。」を、特許請求の範囲の減縮を目的として、
「・・・、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された除湿装置。」と訂正する。
(c)明細書の段落0006における、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って高圧領域内の除湿エアの一部を送るためのパージ通路をハウジングに組み込み形成し、・・・」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、
「・・・、高圧領域と低圧領域との間には中空糸膜の外面に沿って該中空糸膜内を通過した直後の高圧領域内の除湿エアーの一部を前記低圧領域内へ送るためのパージ通路全体をハウジング内に組み込み形成し、・・・」と訂正する。
(d)明細書の段落0009における、
「・・・、中空糸膜の内外一方を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の内外他方をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成した構成とした。」を、明瞭でない記載の釈明を目的として、
「・・・、中空糸膜の内部を除湿前の圧縮エアを供給する高圧領域とするとともに、中空糸膜の外部をパージエアが流通する低圧領域とした除湿装置において、・・・、そのキャップ内には、少なくとも前記高圧領域を通過した除湿直後の圧縮エアをハウジング外へ取出すための取出通路と、同取出通路の途中で分岐されるパージエア分岐部位を含み、前記除湿直後の圧縮エアの一部をパージエアとして前記低圧領域へ供給するためのパージエア取入領域とを形成し、前記除湿直後の圧縮エアの一部を前記パージエア取入領域から前記低圧領域へ送るためのパージ通路全体が前記ハウジング内に組み込み形成された構成とした。」と訂正する。
異議決定日 2001-11-30 
出願番号 特願平8-350902
審決分類 P 1 651・ 121- YA (B01D)
P 1 651・ 113- YA (B01D)
P 1 651・ 531- YA (B01D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 石井 良夫中野 孝一中村 敬子村守 宏文  
特許庁審判長 多喜 鉄雄
特許庁審判官 西村 和美
野田 直人
登録日 1999-02-26 
登録番号 特許第2891953号(P2891953)
権利者 シーケーディ株式会社 宇部興産株式会社
発明の名称 除湿装置  
代理人 恩田 博宣  
代理人 内山 正雄  
代理人 堀米 和春  
代理人 綿貫 隆夫  
代理人 林 宏  
代理人 恩田 博宣  

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