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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1077970
異議申立番号 異議1999-70647  
総通号数 43 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 1992-05-11 
種別 異議の決定 
異議申立日 1999-02-18 
確定日 2003-01-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第2793350号「難燃性スチレン系樹脂組成物」の特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 
結論 特許第2793350号の特許を取り消す。 
理由 〔手続の経緯〕
本件特許第2793350号の請求項1に係る発明(以下、本件発明という)は、平成2年9月27日の出願に係り、平成10年6月19日にその特許の設定登録がなされたものである。
その後、黒神朱砂、池田喜光及び宇部サイコン株式会社より特許異議の申立があったので、取消理由を通知したところ、指定期間内である平成11年8月30日に特許異議意見書が提出された。
〔本件発明〕
本件発明は、特許請求の範囲請求項1に記載された事項により特定される下記のとおりのものである。
「グラフト率が50%以上のABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン三元共重合体)10〜90重量%と、アクリロニトリル23%以上で重量平均分子量80000以上のAS樹脂(アクリロニトリル-スチレン共重合体)90〜10重量%からなるスチレン系樹脂、あるいはグラフト率が50%以上で重量平均分子量が90000以上のABS樹脂100重量%からなるスチレン系樹脂100重量部に対し、以下の式(l)で示され重量平均分子量が20000〜100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を1〜50重量部、あるいは以下の式(l)で示され重量平均分子量が1000〜9000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を1〜50重量部、又は以下の式(l)で示され重量平均分子量が20000〜100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体1〜99重量%と以下の式(l)で示され重量平均分子量が1000〜9000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体99〜1重量%からなるハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を1〜50重量部配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物。




(Yは臭素あるいは塩素、jは0〜5の整数である)から選ばれた同一又は異種の基であり、Xは臭素あるいは塩素、iは1〜4の整数、mは自然数である。}」
〔引用例の記載事実〕
先の取消理由に引用した、特開昭61-31451号公報(昭和61年2月13日発行、特許異議申立人・黒神朱砂の提示した甲第3号証、以下、引用例1という)には次の記載がなされている。
「(A)粒子径1500オングストローム以下が15重量%以下、1500オングストロームを超え3500オングストローム未満が60重量%以上、3500オングストローム以上が25重量%以下の粒子径分 布を有するゴム質重合体ラテックスに、モノビニル芳香族単量体、不飽和ニトリル単量体及び必要に応じて(メタ)アクリル酸エステル単量体からなる単量体を重合させて得られるグラフト率70〜150%のグラフト重合体を含有してなるゴム含有量が8〜35重量%の樹脂組成物100重量部に対して、(B)ハロゲン系難燃剤の単独又は2種以上の混合物5〜30重量部及び(C)酸化アンチモン化合物0〜20重量部を配合してなる難燃性樹脂組成物。」(特許請求の範囲)
「・・・グラフト重合体は、そのまま単独で実用に供されるほか、必要に応じてモノビニル芳香族単量体の少くとも1種・・・例えば市販のアクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)など・・・をグラフト共重合体と混合したのち実用に供することも可能である。」
(第4頁左下欄第9行〜第17行)
「実施例1・・・(ラテックス(A)の製造法)・・・ポリブタジエンラテックス(A)を使用して次に示すグラフト重合反応(l)を行なった。(l)ポリブタジエンラテックス(A)(固形分)40(部) スチレン14.4 アクリロニトリル5.6・・・上記混合物を・・・反応器に仕込み・・・反応させた。反応を開始してから1時間後に、下記(ll)の混合物を4時間にわたって連続的に添加し、更に1時間攪拌しながら1時間反応を続けた。(ll)スチレン28.8 アクリロニトリル11.2・・・これを分離、水洗、脱水、乾燥して得たグラフト重合体は、グラフト率が110%であった。これに、AS樹脂(アクリロニトリル含率25%、30℃メチルエチルケトン中の極限粘度0.57dl/g)を混合しゴム量を15部に調整した。」
(第6頁左上欄第2行〜右下欄第1行)
先の取消理由に引用した、特開平1-287132号公報(平成1年11月17日発行、特許異議申立人・黒神朱砂の提示した甲第6号証、以下、引用例2という)には次の記載がなされている。
「(1)ゴム状物質の存在下で、モノビニル芳香族単量体及び不飽和ニトリル単量体を重合させてなる樹脂組成物であって、ゴム状物質含有量が8〜24重量%であり、モノビニル芳香族化合物単位及び不飽和ニトリル化合物単位からなる共重合体含有量が76〜92重量%であって、かつ、該共重合体中の不飽和ニトリル化合物単位の割合が20〜27重量%である樹脂組成物(A)100重量部及び式(2)


(Xは、臭素又は塩素、a、b、c及びdは、1〜4の自然数、nは自然数である。)で表され、80〜110℃の軟化点を有し、両末端にエポキシ基を有するハロゲン含有化合物(B)12〜26重量部とからなる難燃性樹脂組成物。」
(特許請求の範囲)
「本発明は、耐衝撃性に優れ、高度な耐光性及び難燃性を有するスチレン系樹脂組成物に関するものである。」(第1頁右下欄第6行〜第8行)
「ABS樹脂にハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を難燃剤として用いた場合・・・ただ単にハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体をABS樹脂に配合しただけでは、優れた品質バランスを有する難燃性ABS樹脂組成物を得ることは極めて困難なのが実情であった。・・・本発明者らは、かかる状況に鑑み、耐衝撃性を良好に保持し、しかも優れた耐光性と難燃性を有する樹脂組成物を得るべく鋭意検討した結果、特定の組成を有する樹脂組成物に特定の構造のハロゲン含有化合物を配合することにより達成されることを見いだし、本発明を成すに至った。」
(第2頁右上欄第2行〜第19行)
「不飽和ニトリル化合物単位が27重量%より多いと衝撃強度が低下する。又、20重量%より少なくても同様に衝撃強度は低下する。」
(第2頁右下欄末行〜第3頁左上欄第3行)
「ゴム状物質の含有量が8重量%より少ないと衝撃強度が低下し、24重量%より多いと難燃性、耐光性、流動性、剛性、熱安定性などの特性が低下し、本発明のバランスの優れた難燃性樹脂組成
物を得ることができない。」
(第3頁左上欄第17行〜右上欄第1行)
「樹脂組成物(A)は、通常の乳化重合、塊状重合、塊状-懸濁重合などで製造することができる。又、必要に応じて、別に製造したゴム状物質を含まないモノビニル芳香族単量体と不飽和ニトリル単量体の共重合体を混合しても良い。」
(第3頁右上欄第2行〜第6行)
「両末端にエポキシ基を有するハロゲン含有化合物(B)は樹脂組成物(A)100重量部に対し、12〜26重量部配合される。12重量部より少ないと必要な難燃性を得ることができず、26重量部を超えると経済的に不利であるだけでなく、耐衝撃性が著しく低下する。」
(第3頁左下欄第7行〜第12行)
「(ABS樹脂の重合例)重合例1 平均粒子径3000オングストロームのポリブタジエンラテックス、スチレン、アクリロニトリルの他、通常用いられる連鎖移動剤、乳化剤、イオン交換水を用いて、常法により乳化重合して第1表に示すA-1からA-7までのABS樹脂を得た。」(第4頁左下欄第1行〜第7行)
引用例2には更に、共重合体中のAN単位割合18〜28重量%、ゴム状物質の含有量6〜30重量%のABS樹脂A-1〜A-7が記載されている。(第4頁左下欄第1表)
〔対比・判断〕
本件発明において、ハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体は、難燃剤として作用していることは明らかである。
また、引用例1記載の発明において、難燃性樹脂組成物を構成する樹脂成分は、ゴム質重合体ラテックスにモノビニル芳香族単量体と不飽和ニトリル単量体を重合させて得られるグラフト重合体を含有するものであり、その実施例では、ゴム質重合体としてポリブタジエンを、モノビニル芳香族単量体としてスチレンを、不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリルを用いているところから、このグラフト重合体はABSであるとして差し支えない。
してみれば、本件発明と引用例1記載の発明は、
グラフト率が50%以上のABS樹脂(アクリロニトリルーブタジエン-スチレン三元共重合体)10〜90重量%と、アクリロニトリル23%以上のAS樹脂(アクリロニトリルースチレン共重合体)90〜10重量%からなるスチレン系樹脂、あるいはグラフト率が50%以上で重量平均分子量が90000以上のABS樹脂100重量%からなるスチレン系樹脂100重量部に対し、ハロゲン含有難燃剤の単独又は2種以上の混合物を1〜50重量部配合してなる難燃性スチレン系樹脂組成物の発明である点で一致しており、次の点で相違する。
1.本件発明では、AS樹脂の重量平均分子量が80000以上であることを規定しているのに対して、引用例1記載の発明は、AS樹脂の重量平均分子量を明らかにしていない点、
2.本件発明がハロゲン含有難燃剤として特定のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を用いているのに対して、引用例1記載の発明は、本願発明で用いるような特定のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を用いていない点、
そこで先ず、相違点1について検討する。
引用例1記載の発明は、用いたAS樹脂のアクリロニトリル含率が25%であり、30℃メチルエチルケトン中の極限粘度が0.57dl/gであることを明らかにしている。
そして、このアクリロニトリル含率と30℃メチルエチルケトン中の極限粘度の値から、用いたAS樹脂の重量平均分子量は、80000より大きいことが理解できる。(例えば、特許権者が意見書に添付した参考資料2=ENCYCLOPEDIA OF POLYMER SCIENCE AND ENGINEERING Vol.1第456頁参照)
そのため、AS樹脂の重量平均分子量が80000以上であることによって、本件発明と引用例1記載の発明が実質的に異なる発明を構成するとはいえない。
次に、相違点2について検討する。
引用例2には、ABS樹脂に特定の一般式で表される両末端にエポキシ基を有するハロゲン含有化合物を配合することにより、耐衝撃性、難燃性及び耐光性だけでなく、流動性や熱安定性に優れた樹脂組成物を得ることが記載されており、このハロゲン含有化合物は、本件発明で用いるものと一致している。(特許権者も特許異議意見書第12頁第2行〜第4行でこれを認めている。)
更に、引用例2には、ABS樹脂にAS樹脂を混合できることも記載されている。
ところで、引用例2には、使用するABS樹脂にゴム状物質含有量、共重合体含有量及び共重合体中の不飽和ニトリル化合物単位の割合の点で制約があることが示されている。
しかしながら、そのような制約はいずれも、引用例1に記載されたハロゲン系難燃剤として引用例2記載のハロゲン含有化合物を使用する上で、何等の妨げにもならない。
引用例1には、使用するABS樹脂のゴム状物質含有量、共重合体含有量及び共重合体中の不飽和ニトリル化合物単位の割合のいずれかが引用例2に示された制約条件に触れるとする具体的データは記載されていないからである。
しかも、引用例2記載のハロゲン含有化合物の特徴を有する難燃剤は、本件特許明細書の実施例にも記載されているように、本件特許の出願前に市販されているものである。
してみれば、耐衝撃性、難燃性、耐光性、流動性、熱安定性等について、好ましい結果が得られるものを市販品の中から選択し、式(I)で示され重量平均分子量が20000〜100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体、あるいは式(l)で示され重量平均分子量が1000〜9000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体、又は式(l)で示され重量平均分子量が20000〜100000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体1〜99重量%と式(l)で示され重量平均分子量が1000〜9000のハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体99〜1重量%からなるハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体を用いることは当業者が創意を要することなく、容易にできることである。
次に本件発明の効果について検討する。
本件発明は、難燃剤として式(l)で示されるハロゲン含有芳香族ジオールのエーテル誘導体として特定の重量平均分子量のものを用いることにより、耐衝撃性、難燃性、耐光性、流動性、熱安定性等に優れた結果が得られるという効果を有することが窺える。
しかしながら、そのような効果は引用例2に示唆されているから、予期し得る程度のものというべきである。
従って、本件発明は、引用例1及び引用例2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
〔結び〕
以上のとおりであるから、本件発明の特許は、特許法第113条第1項第3号の規定により取り消すべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2000-04-10 
出願番号 特願平2-258290
審決分類 P 1 651・ 121- Z (C08L)
最終処分 取消  
前審関与審査官 中田 とし子内田 靖恵  
特許庁審判長 三浦 均
特許庁審判官 柿沢 紀世雄
谷口 浩行
登録日 1998-06-19 
登録番号 特許第2793350号(P2793350)
権利者 ダイセル化学工業株式会社
発明の名称 難燃性スチレン系樹脂組成物  
代理人 古谷 馨  
代理人 古谷 聡  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 持田 信二  

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