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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01L
審判 全部無効 2項進歩性  H01L
管理番号 1141001
審判番号 無効2004-80209  
総通号数 81 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2000-06-23 
種別 無効の審決 
審判請求日 2004-11-01 
確定日 2006-08-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3515917号発明「半導体装置の製造方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3515917号の請求項1〜4、7に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3515917号の請求項5、6に係る発明についての特許に対する審判請求は、成り立たない。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続きの経緯
(1)本件特許第3515917号の請求項1〜7に係る発明についての出願は、平成10年12月1日に特許出願され、平成16年1月23日にそれらの発明について特許権の設定登録がなされた。
(2)平成16年11月1日に、請求人佐藤澄夫より、本件の請求項1〜7に係る発明についての特許を無効とすることを求める審判請求がなされ、それに対し、被請求人より、平成17年1月21日付けで答弁書が、平成17年5月16日付けで口頭審理陳述要領書が、それぞれ提出された。
(3)平成17年5月19日に、第1回口頭審理がなされた。
(4)請求人及び被請求人より、平成17年5月31日付けで、それぞれ上申書が提出された。

2.請求人の主張の概要
請求人は、証拠方法として甲第1〜6号証を提示し、
(1)請求項2記載の事項は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく、特許を受けようとする発明が明確でない。したがって、請求項2に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号又は第2号の規定に違反してされたものである。(以下、「無効理由1」という。)
(2)請求項1〜7に係る発明は、甲第1〜6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜7に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。(以下、「無効理由2」という。)
したがって、請求項1〜7に係る発明についての特許は無効とすべきものである旨主張している。

そして、請求人は、上記無効理由1に関連して、以下の旨を主張している。
(イ)請求項2の「先ず、上記半導体ウェハの表面側における面取り部と平坦部との境界に、ダイシング用の高速回転外周刃加工装置の刃を上記表面に垂直な方向に切り込み、その後、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させることによって形成すること」に関して、本件明細書の段落【0035】には、「上記ウェハ1を矢印(a)の方向に回転させながら、ウェハ1の周辺部における面取り部と上記平坦部との境界1a'から外周側を高速回転外周刃3によって切削する。」と記載されており、請求項2の上記構成は、実質的に発明の詳細な説明には記載されていない。(審判請求書第28頁1行〜16行)

また、請求人は、上記無効理由2に関連して、以下の旨を主張している。
〈請求項2〜4について〉
(ロ)ワークを切り込んだ後に、ワークを移動させて切断することは、特開平1-204706号公報、特開平5-154833号公報に見られるように、ダイシング技術における周知技術である。(第1回口頭審理調書の請求人の項1、上申書第6頁7行〜21行)
〈請求項4について〉
(ハ)被加工物を回転させ狭い幅の刃を移動させながら広い幅の溝または領域を切削することは、当該技術分野、木工加工技術分野において周知の技術である。(審判請求書第23頁13行〜14行)
〈請求項5、6について〉
(ニ)甲第5号証の図3には、カップ型砥石を使用し半導体ウエハの上面を研削して「平坦部の外径が表面に向かうに連れて大きくなるように上記平坦部の外周面を逆テーパ状に形成」した具体的な構成が図示されている。また、同号証の図8には、カップ型砥石の刃の形として「先端に向かうに連れて内径が大きくなるテーパ状の刃」が図示されている。(審判請求書第24頁16行〜20行、同第25頁16行〜18行)

[証拠方法]
甲第1号証:特開平4-85827号公報
甲第2号証:特開平7-45568号公報
甲第3号証:特開平8-107193号公報
甲第4号証:特開平8-107092号公報
甲第5号証:特開昭59-175913号公報
甲第6号証:特開昭63-62328号公報

3.被請求人の主張の概要
一方、被請求人は、以下の点を挙げ、請求人の主張する無効理由1、2は存在しないと主張している。

(1)無効理由1に関して
(イ)請求項2の「先ず、上記半導体ウェハの表面側における面取り部と平坦部との境界に、ダイシング用の高速回転外周刃加工装置の刃を上記表面に垂直な方向に切り込み、その後、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させることによって形成すること」は、本件明細書の段落【0036】、【0037】、【0038】に記載されている。(答弁書第18頁12行〜第19頁7行)

(2)無効理由1に関して
〈請求項1について〉
(ロ)SOI基板の作成に特有な課題を解決することを目的とし、半導体素子が作り込まれていない半導体ウエハにおける半導体素子が形成されるべき面である表面側を研削することを技術的思想とする甲第1号証を、半導体素子が作り込まれている半導体ウエハの裏面研削時に生ずる課題を解決することを目的とし、半導体素子が作り込まれている半導体ウエハの表面側に対して裏面側を研削することを技術的思想とする甲第2号証に対して適用することなど到底できるものではない。(答弁書第9頁13行〜19行、上申書第6頁22行〜第9頁9行)
(ハ)甲第1号証記載の第1の半導体基板の周辺部を研削したものは、甲第2号証の段落【0006】に記載の、問題点がある「半導体ウエハの外周断面をあらかじめナイフエッジ状に加工した」ものに該当し、したがって、上記「ナイフエッジ状に加工した」ものに該当する甲第1号証記載の技術を甲第2号証記載の発明に適用することを妨げる事情が存在する。(第1回口頭審理調書の被請求人の項2、口頭審理陳述要領書第4頁17行〜第5頁18行)
(ニ)本件各発明の切り込み後の裏面研削は、甲第2号証記載の発明の切り落とし後の裏面研削に比して、
裏面研削時に、大部分は平滑面Sの箇所を研削し、粗面Rの箇所の研削が少ないので、粗面Rの悪影響を殆ど受けず、ウエハに割れ、欠けが生じにくい、
甲第2号証記載の発明の面取り部の切り落とし時において、残っている面取り部が薄く鋭い鋭角になる切り落としの最後の段階で、ウエハに割れやカケが生じるのに対して、本件各発明では、ウエハ表面側に切り込みを入れるだけなので、割れ、欠けが生じない、
甲第2号証記載の発明では、切り落としによってウエハの径が小さくなり、製造時の取り扱いが容易でないのに対して、切り込み部以外は除去しないので、ウエハの径を小さくすることがなく、上記取り扱い面での不都合がない、
という効果を奏する。(上申書第2頁3行〜第4頁22行)
〈請求項2について〉
(ホ)請求項2に係る発明は、甲第3、4号証には記載のない、「切り込み」の後に「ウエハを回転」させてウエハ表面に切り込みを形成することで、面取り部と平坦部との境界への位置決めを正確に行える、ステージ回転による振動等の影響はなく残される平坦部の外形寸法の精度を高めることができる、1回転した後に、逆に1回転させるステージでウエハを回転させる場合にも対処可能である、半導体ウェハの回転方向及び半導体ウェハの深さ方向の刃に対する負荷を同時には受けず刃に対する負荷を軽減する、という効果を奏する。(答弁書第11頁1行〜23行、口頭審理陳述要領書第7頁18行〜第8頁25行、第1回口頭審理調書の被請求人の項6)
〈請求項4について〉
(ヘ)半導体の分野において、ウエハの面取り部の幅よりも狭い幅の刃を用いて面取り部を所定の深さに除去することは、極常識的に行われることではない。(答弁書第13頁16行〜18行)
〈請求項7について〉
(ト)甲第6号証記載のものでは、ウエハ端縁に形成されている面取り部の外周面の位置にニクロム線ヒーターが存在しており、ウエハ平坦部の外周面の位置にニクロム線ヒーターを位置させること、樹脂フィルムの外径を平坦部の外径よりも大きくならないようにすることは、示されていない。(口頭審理陳述要領書第9頁20行〜第10頁20行)

4.無効理由1について
本件特許の願書に添付した明細書(以下単に、「本件明細書」という。)の段落【0035】には、請求人の指摘するとおり、「上記ウェハ1を矢印(a)の方向に回転させながら、ウェハ1の周辺部における面取り部と上記平坦部との境界1a'から外周側を高速回転外周刃3によって切削する。」と記載されている。
そして、当該記載は、請求項2の「先ず、上記半導体ウェハの表面側における面取り部と平坦部との境界に、ダイシング用の高速回転外周刃加工装置の刃を上記表面に垂直な方向に切り込み、その後、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させることによって形成すること」との記載と、「面取り部と平坦部との境界」での「切り込み」と「半導体ウェハを回転させること」との順序において相違する。
しかしながら、本件明細書の段落【0036】には、
「図2(a)は、上記高速回転外周刃3として、切削幅よりも刃厚が厚い厚刃6を用いた場合である。この場合には、上記面取り部と平坦部との境界1a'から外周側に厚刃6の先端面を当接させて矢印(b)の方向に回転させ、矢印(c)の方向に切り込み深さxだけ厚刃6を移動させる。そうした後に、ウェハ1を矢印(a)の方向に回転させることによって、上記切削を行うのである。」と、
段落【0037】には、
「また、図2(b)は、上記高速回転外周刃3として、切削幅よりも刃厚の薄い薄刃7を用いた場合である。この場合には、薄刃7を矢印(b)の方向に回転させ、薄刃7を矢印(c)の方向に切り込み深さxだけ移動させることによって、上記面取り部と平坦部との境界1a'に深さxの切り込みを入れる。そして更に、ウェハ1を矢印(a)の方向に回転させながら、上記切り込みを入れた個所より外周側に(つまり、矢印(d)の方向に)薄刃7を徐々に移動させることによって、上記切削を行うのである。・・・」と、
段落【0038】には、
「また、図2(c)は、上記高速回転外周刃3として、カップ型砥石8を用いた場合である。・・・そして、カップ型砥石8をウェハ1の表面の位置から矢印(c)の方向に切り込み深さxだけ移動させ、カップ型砥石8を矢印(b)の方向に回転させ、ウェハ1の外周側から上記面取り部と平坦部との境界1a'までカップ型砥石8を矢印(e)の方向に徐々に移動させる。そして、ウェハ1を矢印(a)の方向に回転させることによって、上記切削を行うのである。」と、それぞれ記載されている。
そして、段落【0036】、【0037】及び【0038】の上記記載は、いずれも、「面取り部と平坦部との境界」での「切り込み」を行った後に、「半導体ウェハを回転させる」という、請求項2の記載と整合するものである。
そうすると、請求項2記載の事項は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく、特許を受けようとする発明が明確でない、とする請求人主張の記載不備は存在しない。

5.無効理由2について
(1)本件発明
上記4で述べたように、本件明細書の特許請求の範囲の記載に不備は存在しないから、本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
【請求項1】 半導体素子が作り込まれた半導体ウェハの表面側における外周の面取り部と平坦部との境界に切り込みを形成した後に、上記半導体ウェハの板厚が上記切り込み深さよりも薄くなるまで上記半導体ウェハに対して裏面研削を行うことを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明1」という。)
【請求項2】 請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
上記裏面研削に先立って、上記半導体ウェハの表面側における面取り部と平坦部との境界に形成する切り込みは、
先ず、上記半導体ウェハの表面側における面取り部と平坦部との境界に、ダイシング用の高速回転外周刃加工装置の刃を上記表面に垂直な方向に切り込み、
その後、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させることによって形成することを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明2」という。)
【請求項3】 請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
上記高速回転外周刃加工装置の刃は、上記半導体ウェハの面取り部の幅よりも広い幅を有する刃であり、
上記面取り部と平坦部との境界より中心寄りの位置に当該刃の軸方向外側面の位置を合わせて当該刃を切り込んだ後、上記半導体ウェハを回転させることによって上記半導体ウェハの上記面取り部を所定の深さで除去することを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明3」という。)
【請求項4】 請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
上記高速回転外周刃加工装置の刃は、上記半導体ウェハの面取り部の幅よりも狭い幅を有する刃であり、
上記面取り部と平坦部との境界より中心寄りの位置に当該刃の軸方向外側面の位置を合わせて当該刃を切り込んだ後、上記半導体ウェハを回転させつつ徐々に当該刃を上記軸方向面取り部側に移動させることによって、上記半導体ウェハの上記面取り部を所定の深さで除去することを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明4」という。)
【請求項5】 請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
上記半導体ウェハの表面側における面取り部と平坦部との境界に上記高速回転外周刃加工装置の刃を切り込むに際して、上記平坦部の外径が表面に向かうに連れて大きくなるように上記平坦部の外周面を逆テーパ状に成すことを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明5」という。)
【請求項6】 請求項5に記載の半導体装置の製造方法において、
上記高速回転外周刃加工装置の刃は、先端に向かうに連れて内径が大きくなるテーパ状の刃が形成されたカップ型砥石であり、
上記カップ型砥石を軸方向に上記半導体ウェハの外周側から中心に向かって移動させて、上記半導体ウェハにおける外周側から上記面取り部と平坦部との境界より中心寄りの位置まで所定の深さで上記カップ型砥石を切り込んだ後に、上記半導体ウェハを回転させることによって、上記半導体ウェハの面取り部を上記所定の深さで除去し、且つ、上記平坦部の外周面を逆テーパ状に成すことを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明6」という。)
【請求項7】 請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
上記裏面研削に先立って、上記半導体ウェハにおける上記切り込みが形成された表面に半導体素子保護テープを貼り、
上記表面における上記平坦部の外周面の位置に刃物を位置させ、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させて余分な半導体素子保護テープを切り取ることによって、上記半導体素子保護テープの外径が上記平坦部の外径よりも大きくならないようにすることを特徴とする半導体装置の製造方法。(以下、「本件発明7」という。)

(2)甲各号証記載の発明(事項)
(i)甲第1号証
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)第1頁左下欄5行〜18行
「第1の半導体基板の表面の周辺部を研削し、中央部よりも薄い厚さにする工程と、
・・・
前記第1の半導体基板の裏面を研削又はエッチングし、前記第1の半導体基板表面の中央部のみ・・・残存し、・・・半導体装置の製造方法。」
(ロ)第3頁右下欄12行〜第4頁左上欄8行
「まず、・・・第1のSi基板(第1の半導体基板)9の端部から約5mm幅の周辺部の一方の表面をよく知られた方法により約50μm研削する。その結果、中央部に凸部10を有する第1のSi基板9aを得る。
・・・
次いで、・・・第1のSi基板9aの裏面を研削して第2のSi基板11の表面に第1のSi基板9aの凸部10のみを残存すると、SOI基板13aが完成する。」
(ハ)第1図から、
「第1の半導体基板は、面取り部を有していること」が看取できる。
以上の記載事項からみて、甲第1号証には、
「面取り部を有する第1の半導体基板の一方の面における周辺部を研削し、中央部よりも薄い厚さにした後に、前記第1の半導体基板の他方の面を研削し、前記第1の半導体基板の一方の面の中央部のみ残存させること」(以下、「甲第1号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

(ii)甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)段落【0004】〜【0005】
「【0004】 この半導体ウエハは、集積回路が形成されるまでの各工程においてウエハキャリアに収容されるので、その際に外周部に欠けが生じないように断面が略円弧状に面取りされている。
【0005】 このような断面が略円弧状の半導体ウエハを裏面研削すると、外周面と研削面とで形成される角が最終研削位置に向かって鈍角から鋭角へと変化するために、研削工程の後半で外周部に割れや欠けが生じやすくなり、完成した集積回路を破損してしまうという問題点がある。特に、半導体ウエハが大口径となり、研削量が多くなっている現在においては、この問題は重大である。」
(ロ)段落【0009】
「そこで、本発明の目的は、裏面研削時における半導体ウエハの割れや欠けを防止することのできる技術を提供することにある。」
(ハ)段落【0015】
「【0015】 【作用】
本発明の半導体ウエハの研削方法によれば、最終研削位置において外周面と研削面とで形成される角は鈍角または直角となって偏荷重がかかることがないので、研削時における半導体ウエハ外周部の割れや欠けの発生を防止でき、完成した集積回路が破損されることはない。」
(ニ)段落【0027】〜【0031】
「【0027】(実施例2)
図3は本発明の他の実施例である研削方法で研削される半導体ウエハを示す断面図である。
【0028】 本実施例の半導体集積回路装置も、前記した実施例1と同様に、図1に示すような工程、すなわち、集積回路を形成する前工程2、半導体ウエハ11の外周面11aを研削する外周研削工程3、裏面11bを研削する裏面研削工程4、回路素子の電気的特性をテストするプローブ検査工程5、個々のチップにダイシングするダイシング工程6、そしてリードフレームと接続し所定容器へ収納封止する後工程7を経て完成するものである。
【0029】 そして、本実施例における外周研削工程3では、図3(a)に示すように断面が略円弧状に面取りされた状態で前工程2が完了した半導体ウエハ11の外周面11aを、図3(b)に示すように、集積回路の形成面に対して略直角に研削するものである。また、裏面研削工程4では、図3(c)に示すように、たとえば半導体ウエハ11の厚さが約200μm程度になるように、その裏面11bを研削するものである。
【0030】 本実施例に示すような半導体ウエハ11の研削方法によれば、外周研削工程3において半導体ウエハ11の外周面11aを集積回路の形成面に対して略直角に研削するので、半導体ウエハ11の裏面11bを研削して所定の厚さとする裏面研削工程4において、外周面と研削面とで形成される角は直角となる。
【0031】 したがって、研削される半導体ウエハ11には偏荷重がかかることがなく、研削時における半導体ウエハ11の外周面11aの割れや欠けの発生を防止でき、完成した集積回路が破損されることはない。」
(ホ)図3から、
「半導体ウエハを略直角に研削する外周面11aは、面取り部であること」が看取できる。
以上の記載事項からみて、甲第2号証には、
「集積回路が表面に形成された半導体ウエハ11の外周面11aを集積回路の形成面に対して略直角に研削した後に、たとえば半導体ウエハ11の厚さが約200μm程度になるように、上記半導体ウエハ11に対してその裏面11bを研削する半導体集積回路装置の製造方法」の発明(以下、「甲第2号証記載の発明」という。)、及び、
「裏面研削時における半導体ウエハの割れや欠けを防止する」との課題が記載されていると認められる。

(iii)甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)段落【0008】
「次に本実施例の外周部の除去方法について説明する。
図1(a)に示すように、平面研削された貼合せウェハ4を水平方向に回転させる。次に、ダイシングマシンに設けられた円盤状のカッター1を活性基板3に対して略垂直方向に回転させ、上方から矢印Aの方向に降ろしていく。
図1(b)に示すように、カッター1が降りるにしたがって、活性基板3と支持基板2は外周部に沿った同一面で略垂直に切断され、カッター1が支持基板2の底面の酸化膜5を切断したところで未接着部を含む外周部はドーナッツ状となり貼合せウェハ4から切り離され、切断が終了する。」
(ロ)図1から、
「カッター1が半導体ウェハの面取り部の幅よりも狭い幅の刃であること」が看取できる。
以上の記載事項からみて、甲第3号証には、
「半導体ウェハの外周部を除去する方法において、半導体ウェハを水平方向に回転させ、次にダイシングマシンの、半導体ウェハの面取り部の幅よりも狭い幅の刃を有するカッターを回転させて、半導体ウェハの外周部を切断すること」(以下、「甲第3号証記載に事項」という。)が記載されていると認められる。

(iv)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)段落【0006】〜【0007】
「【0006】 本実施例のSOI基板の製造方法における貼合せウェハ4は、上記した従来技術と同様の工程により得られる。
次に本実施例の研削方法を説明する。
図1(a)に示すように、円盤状の研削砥石1はダイシングマシンの回転軸6により軸支され、貼合せウェハ4に対して垂直方向に回転するようにされている。これと同時に前記工程により得られた貼合せウェハ4を水平方向に回転させる。
図1(b)に示すように、研削砥石1を上方から活性基板3に対し垂直方向に移動させ、活性基板3の外周部の上面から当接させることにより、この外周部を研削して面取りする。
【0007】 この面取りの後の工程は従来技術と同様であり、面取りされた貼合せウェハ4はエッチングにより残留層3aを除去され、活性基板3の上面を所定の厚さまで平面研削され、酸化膜5がフッ酸溶液によるエッチングで中間酸化膜5aを残した状態で取り除かれた後、活性基板3の上面をさらに薄く研磨してSOI基板(図示せず)が得られる。」
(ロ)図1から、
「研削砥石1が半導体ウェハの面取り部の幅よりも広い幅であること」が看取できる。
以上の記載事項からみて、甲第4号証には、
「活性基板の外周部を面取りする方法において、貼り合わせた半導体ウェハを水平方向に回転させると同時に、ダイシングマシンの、半導体ウェハの面取り部の幅よりも広い幅の研削砥石を回転させて、半導体ウェハの外周部を残留層3aを残して研削すること」(以下、「甲第4号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

(v)甲第5号証
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)第1頁右下欄11行〜第2頁左上欄19行
「この発明は・・・特に半導体ウエーハの厚み減少のための切削装置等における切削ブレードの刃先の断面形状に関するもので・・・ある。・・・半導体装置を製造する場合、一般に一枚の半導体ウエーハの一主面側から・・・多数の半導体素子を形成したのち、他主面側から所定寸法だけグラインデイング切削・・・し・・・ている。・・・最初は機械的強度の十分大きな厚い半導体ウエーハを投入して、途中工程での破損を防止するとともに、裏面電極を形成する直前に裏面を切削して、半導体素子の内部抵抗の減少を図つているのである。この半導体ウエーハの切削には、従来第1図ないし第3図に示す切削ブレードが用いられている。」
(ロ)第3頁左上欄2行〜3行
「第8図は第1の発明の切削ブレードの刃先6の拡大断面図を示す。」
(ハ)第2図、第3図、第8図から、
「先端に向かうに連れて内径が大きくなるテーパ状の刃」が看取できる。

(vi)甲第6号証
甲第6号証には、以下の事項が記載されている。
(イ)第1頁右下欄1行〜2行
「本発明は素子が形成された半導体基板の裏面処理方法に関するものである。」
(ロ)第3頁左上欄10行〜同頁右下欄2行
「本発明の半導体基板の裏面処理方法の実施例を第1図から第8図の工程図を参照して説明する。・・・Siウエーハ2・・・の上からテープ状の樹脂フィルム5をかぶせて、自動押圧ローラー18で加圧する。・・・次に、プリカッター19でSiウエーハ2を傷つけないようにSiウエーハ2よりも大きく樹脂フィルムを機械的に切り抜く。・・・真空吸着用チューブ20によりSiウエーハ2を固定した後、カッター21を円形ガイド22の溝に沿って一周させ、Siウエーハ2を被覆している樹脂フィルム5を円形に切り抜く。・・・樹脂フィルム5はSiウエーハ2よりもlだけ大きく切り抜かれる。次いで、第3図で示した状態のSiウエーハ2を真空吸着ヘッドに固定し、駆動ベルト23でゆっくりと回転させる。そして、Siウエーハ2の端縁にニクロム線ヒーター24を当て、これに接触した樹脂フィルムを動かし、Siウエーハの端縁に沿って樹脂フィルム5を切り抜く(第4図)。・・・このようにしてSiウエーハ2からはみ出た樹脂フィルムを切り取ってから、Siウエーハ2の裏面の研削を行う。」
(ハ)第3頁右下欄3行〜12行
「Siウェーハ2の裏面を研削する方法を第6図に示す。・・・半導体素子1面が直接吸着ステージ10に接すると、ダメージを受けるのでSiウェーハ2の表面を保護する目的で・・・樹脂フィルム5を被覆するのである。」
以上の記載事項からみて、甲第6号証には、
「素子が形成された半導体基板の裏面研削に先立って、上記半導体基板の表面に樹脂フィルムを貼り、上記半導体基板の外周面の位置にニクロム線ヒーターを位置させ、上記半導体基板を回転させて余分な樹脂フィルムを切り取ることによって、上記樹脂フィルムの外径が上記半導体基板の外径よりも大きくならないようにすること」、及び、
「樹脂フィルムをカッターで切り抜くこと」(以下併せて、「甲第6号証記載の事項」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
(i)本件発明1について
本件発明1と甲第2号証記載の発明とを対比すると、後者の「集積回路が表面に形成された半導体ウエハ11」の「集積回路の形成面」は、前者の「半導体素子が作り込まれた半導体ウェハの表面」に相当する。
そして、前者の「外周の面取り部と平坦部との境界に切り込みを形成」することは、被請求人も認めるごとく(第1回口頭審理調書の被請求人の項4)、請求項3等に記載の「外周の面取り部と平坦部との境界に切り込んだ後、面取り部を所定の深さで除去する」ことを含む。そして、本件発明1において、面取り部を除去することの技術的意義は、裏面研削時の割れ、欠けの原因となる面取り部を一部除くことにあり(本件明細書の段落【0005】を参照)、当該技術的意義は甲第2号証記載の発明における外周面を除去することの技術的意義と同等のものであって、しかも、被請求人も認めているように(第1回口頭審理調書の被請求人の項5)、甲第2号証記載の発明における外周面は、甲第2号証の図3から、面取り部であることが看取できる。そうすると、前者の「外周の面取り部と平坦部との境界に切り込みを形成」することと後者の「外周面11aを集積回路の形成面に対して略直角に研削」することとは、「面取り部の少なくとも一部除去」の限りで共通する。
また、後者の「半導体ウエハ11に対してその裏面11bを研削する」が前者の「半導体ウェハに対して裏面研削を行う」に、後者の「半導体集積回路装置」が前者の「半導体装置」に、それぞれ相当することは明らかである。
したがって、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉半導体素子が作り込まれた半導体ウェハの表面側における面取り部を少なくとも一部除去した後に、上記半導体ウェハに対して裏面研削を行う半導体装置の製造方法」である点。
〈相違点1〉前者は、除去する対象が、面取り部の表面側の一部であるのに対して、後者は、除去する対象が、面取り部の全部である点。
〈相違点2〉前者は、裏面研削を、半導体ウェハの板厚が切り込み深さよりも薄くなるまで行うのに対して、後者は、裏面研削を、半導体ウエハ11の厚さが約200μm程度になるまで行う点。

そこで、上記相違点1、2について検討する。
〈相違点1について〉
そもそも、裏面研削に先立って、裏面研削時の割れ、欠けの原因となる表面側の面取り部を除去する手法としては、甲第2号証記載の発明のように、表面側のみならず面取り部全体を除去する手法と、本件発明1のように、面取り部の表面側のみを除去しておき、除去されなかった面取り部の残部を裏面研削で除去する手法の2通りしか存在しない。
ところで、半導体基板の一方の面の中央部のみを残存させる手法として、他方の面の研削に先立って、一方の面側の一部の周辺部のみを除去し、除去されなかった周辺部の残部を他方の面の研削で除去する手法は、甲第1号証に示されている。
そして、甲第1号証記載の上記手法と甲第2号証記載の発明とは、半導体基板の一方の面の中央部のみを残存させる点で共通するものであるから、甲第2号証記載の発明に甲第1号証記載の手法を適用して、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

ところで、請求人は、相違点1に関して、3.(2)(ロ)〜(ニ)に示したように、
(i)SOI基板の作成に特有な課題を解決することを目的とし、半導体素子が作り込まれていない半導体ウエハにおける半導体素子が形成されるべき面である表面側を研削することを技術的思想とする甲第1号証を、半導体素子が作り込まれている半導体ウエハの裏面研削時に生ずる課題を解決することを目的とし、半導体素子が作り込まれている半導体ウエハの表面側に対して裏面側を研削することを技術的思想とする甲第2号証に対して適用することなど到底できるものではない、
(ii)甲第1号証記載の第1の半導体基板の周辺部を研削したものは、甲第2号証の段落【0006】に記載の、問題点がある「半導体ウエハの外周断面をあらかじめナイフエッジ状に加工した」ものに該当し、したがって、上記「ナイフエッジ状に加工した」ものに該当する甲第1号証記載の技術を甲第2号証記載の発明に適用することを妨げる事情が存在する、
(iii)本件各発明の切り込み後の裏面研削は、甲第2号証記載の発明の切り落とし後の裏面研削に比して、
裏面研削時に、大部分は平滑面Sの箇所を研削し、粗面Rの箇所の研削が少ないので、粗面Rの悪影響を殆ど受けず、ウエハに割れ、欠けが生じにくい、
甲第2号証記載の発明の面取り部の切り落とし時において、残っている面取り部が薄く鋭い鋭角になる切り落としの最後の段階で、ウエハに割れやカケが生じるのに対して、本件各発明では、ウエハ表面側に切り込みを入れるだけなので、割れ、欠けが生じない、
甲第2号証記載の発明では、切り落としによってウエハの径が小さくなり、製造時の取り扱いが容易でないのに対して、切り込み部以外は除去しないので、ウエハの径を小さくすることがなく、上記取り扱い面での不都合がない、という効果を奏する、
と主張している。
そこで、上記(i)〜(iii)について検討するに、
(i)甲第1号証記載の上記手法と甲第2号証記載の発明とが、目的等の点で相違しているとしても、上述したように、両者は、半導体基板の一方の面の中央部のみを残存させる点で共通するものである以上、両者を組み合わせることが当業者にとって容易でないとすることはできない。
(ii)甲第2号証には、「本発明の半導体ウエハの研削方法によれば、最終研削位置において外周面と研削面とで形成される角は鈍角または直角となって偏荷重がかかることがないので、研削時における半導体ウエハ外周部の割れや欠けの発生を防止でき、完成した集積回路が破損されることはない。」と記載されている。一方、甲第1号証記載の手法において、半導体基板の一方の面側周辺部を研削する際の上記一方の面と研削面とで形成される角がどの程度のものかについて、甲第1号証には明記されていないものの、その第1図をみると、当該角が略直角であることが窺える。しかも、甲第2号証の段落【0006】で「半導体ウエハの外周断面をあらかじめナイフエッジ状」とする手法の出所文献とする特開昭62-272517号公報の第1図に示される半導体ウエハの外周形状は、甲第1号証の第1図に示される半導体基板の外周形状と大きく相違している。そうすると、甲第1号証記載の手法における半導体基板の一方の面側周辺部の研削が、甲第2号証で、問題点があるとする「半導体ウエハの外周断面をあらかじめナイフエッジ状に加工した」ものに該当するとは認め得ない。
(iii)仮に、本件各発明の切り込み後の裏面研削が、甲第2号証記載の発明の切り落とし後の裏面研削に比して、優れた作用効果を奏するとする請求人の上記(iii)の主張が正しいとしても、本件各発明と同様の研削手法が甲第1号証には示されているから、本件各発明の作用効果が、甲第2号証記載の発明の作用効果との対比ではなく、甲第2号証記載の発明の作用効果と甲第1号証記載の手法の作用効果との総和との対比において格別優れたものであることが示されていない以上、本件各発明の作用効果が顕著なものであるとすることはできない。
したがって、請求人の上記主張は採用できない。

〈相違点2について〉
本件明細書の段落【0003】には、「半導体装置基板は、上記半導体前半プロセス終了後には、基板の電気抵抗の低減化や薄型実装のための薄板化を図るために裏面を研磨し、個々の集積回路毎に切断された後、実装工程(半導体後半プロセス)に移行することになる。」と記載され、また、甲第2号証の図1にも、前工程、外周研削工程に続く裏面研削工程の後に、ダイシング工程、後工程が控えていることが示されている。これらの記載からみると、本件発明1及び甲第2号証記載の発明における裏面研削の研削深さは、裏面研削後の実装工程(後工程)で求められる半導体装置の厚みとするものであり、したがって、相違点2は表現上の相違に過ぎない。

そして、本件発明1の作用効果は、甲第2号証記載の発明及び甲第1号証記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証記載の発明及び甲第1号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(ii)本件発明2について
本件発明2と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、上記相違点1、2に加えて下記の点で相違する。
〈相違点3〉前者は、面取り部の除去に使用する手段が、ダイシング用の高速回転外周刃加工装置の刃であって、当該刃を、半導体ウェハの表面に垂直な方向に切り込み、その後、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させるのに対して、後者は、そのように特定されていない点。

相違点1、2については、すでに検討したとおりであり、以下、相違点3について検討する。
〈相違点3について〉
甲第3、4号証には、半導体ウェハ外周部の除去を、ダイシング用の高速回転外周刃加工装置の刃を用いて行うことが記載されている。
ところで、半導体ウェハ外周部の除去を、甲第3号証記載の事項では、ウェハの回転の後に切り込み、また、甲第4号証記載の事項では、ウェハの回転と同時に切り込みと、ウェハの回転と切り込みとの順序が本件発明2と相違している。しかしながら、ダイシングを、切り込みの後に半導体基板を相対的に移動して行うことは、特開平1-204706号公報の第2頁左下欄3行〜9行、特開平5-154833号公報第4欄21行〜22行に示されているように、半導体基板の技術分野において従来周知の事項である。
そうすると、甲第2号証記載の発明と「半導体ウェハ外周部の除去」の点で共通する甲第3、4号証記載の事項を、甲第2号証記載の発明の半導体ウェハ外周部の面取り部を除去するに際して適用すること、また、その際に、半導体基板の技術分野における上記周知の事項をも組み合わせ、相違点3に係る本件発明2の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、被請求人は、甲第3、4号証には記載のない、「切り込み」の後に「ウエハを回転」させてウエハ表面に切り込みを形成する本件発明2は、面取り部と平坦部との境界への位置決めを正確に行える、ステージ回転による振動等の影響はなく残される平坦部の外形寸法の精度を高めることができる、1回転した後に、逆に1回転させるステージでウエハを回転させる場合にも対処可能である、半導体ウェハの回転方向及び半導体ウェハの深さ方向の刃に対する負荷を同時には受けず刃に対する負荷を軽減する、という効果を奏すると主張するが(3.(ホ)を参照)、これらの効果は、甲第2号証記載の発明、甲第1、3、4号証記載の事項及び上記周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本件発明2は、甲第2号証記載の発明、甲第1、3、4号証記載の事項及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iii)本件発明3について
本件発明3と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、上記相違点1〜3に加えて下記の点で相違する。
〈相違点4〉前者は、面取り部の除去に使用する手段が、半導体ウェハの面取り部の幅よりも広い幅を有する刃であるのに対して、後者は、そのように特定されていない点。

相違点1〜3については、すでに検討したとおりであり、以下、相違点4について検討する。
〈相違点4について〉
甲第4号証には、半導体ウェハ外周部を面取りする方法において、ダイシングマシンの、半導体ウェハの面取り部の幅よりも広い幅の研削砥石を用いることが記載されている。
そうすると、甲第2号証記載の発明と「半導体ウェハ外周部の除去」の点で共通する甲第4号証記載の事項を、甲第2号証記載の発明の半導体ウェハ外周部の面取り部を除去するに際して適用し、相違点4に係る本件発明3の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件発明3の作用効果は、甲第2号証記載の発明、甲第1、3、4号証記載の事項及び上記周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本件発明3は、甲第2号証記載の発明、甲第1、3、4号証記載の事項及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(iv)本件発明4について
本件発明4と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、上記相違点1〜3に加えて下記の点で相違する。
〈相違点5〉前者は、面取り部の除去に使用する手段が、半導体ウェハの面取り部の幅よりも狭い幅を有する刃であり、当該刃を切り込んだ後、上記半導体ウェハを回転させつつ徐々に当該刃を上記軸方向面取り部側に移動させるのに対して、後者は、そのように特定されていない点。

相違点1〜3については、すでに検討したとおりであり、以下、相違点5について検討する。
〈相違点5について〉
甲第3号証には、半導体ウェハの外周部を除去する方法において、ダイシングマシンの、半導体ウェハの面取り部の幅よりも狭い幅の刃を有するカッターを用いることが記載されている。また、被加工物を回転させ狭い幅の刃を移動させながら広い幅の溝または領域を切削することは、木工加工技術分野等において従来周知の事項であると認められる。
そうすると、甲第2号証記載の発明と「半導体ウェハ外周部の除去」の点で共通する甲第3号証記載の事項を、甲第2号証記載の発明の半導体ウェハ外周部の面取り部を除去するに際して適用すること、また、その際に切削技術に関する上記従来周知の事項をも組み合わせ、相違点5に係る本件発明4の構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本件発明4の作用効果は、甲第2号証記載の発明、甲第1、3、4号証記載の事項及び上記周知の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本件発明4は、甲第2号証記載の発明、甲第1、3、4号証記載の事項及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(v)本件発明5について
本件発明5と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、上記相違点1〜3に加えて下記の点で相違する。
〈相違点6〉前者は、平坦部の外径が表面に向かうに連れて大きくなるように上記平坦部の外周面を逆テーパ状に成すのに対して、後者は、平坦部の外周面を略直角としている点。
そこで、相違点6について検討するに、請求人は、甲第5号証の図3には、カップ型砥石を使用し半導体ウエハの上面を研削して「平坦部の外径が表面に向かうに連れて大きくなるように上記平坦部の外周面を逆テーパ状に形成」した具体的な構成が図示されていると主張する。しかしながら、甲第5号証には、「この発明は・・・特に半導体ウエーハの厚み減少のための切削装置等における切削ブレードの刃先の断面形状に関するもの・・・裏面電極を形成する直前に裏面を切削して、半導体素子の内部抵抗の減少を図つているのである。この半導体ウエーハの切削には、従来第1図ないし第3図に示す切削ブレードが用いられている。」と記載されており(甲第5号証の摘記事項(イ)参照)、甲第5号証には、平坦部を残すことなく裏面全体を研削することが示されているものの、平坦部の外周面を逆テーパ状に成すように平坦部を残して研削することは示されていない。また、平坦部の外周面を逆テーパ状に成すことは、他の甲各号証にも示されていない。
一方、本件発明5は、上記相違点6に係る構成を備えることにより、「上記半導体ウェハにおける平坦部の外周面は逆テーパ状であるから、裏面研削時に裏面を上にした場合には上記平坦部は台形状を呈する。したがって、上記半導体ウェハに対して板厚が上記切り込み深さよりも薄くなるまで裏面研削を行った場合に、上記半導体ウェハの外周にひさし状の薄板部が残ることはない。かつ、上記半導体ウェハが受ける研削による研削の進行方向へ押される力を台形状に分散して受けることができ、薄板化された上記半導体ウェハを安定して固定することができる。」という本件明細書の段落【0023】に記載の顕著な作用効果を奏している。
したがって、本件発明5は、甲第1〜6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(vi)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の発明特定事項のすべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件発明6も、本件発明5と同様の理由から、甲第1〜6号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、とすることはできない。

(vii)本件発明7について
本件発明7と甲第2号証記載の発明とを対比すると、両者は、上記一致点で一致し、上記相違点1、2に加えて下記の点で相違する。
〈相違点7〉前者は、裏面研削に先立って、上記半導体ウェハにおける上記切り込みが形成された表面に半導体素子保護テープを貼り、上記表面における上記平坦部の外周面の位置に刃物を位置させ、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させて余分な半導体素子保護テープを切り取ることによって、上記半導体素子保護テープの外径が上記平坦部の外径よりも大きくならないようにするのに対して、後者は、そのように設けられていない点。

相違点1、2については、すでに検討したとおりであり、以下、相違点7について検討する。
〈相違点7について〉
甲第6号証には、素子が形成された半導体基板の裏面研削に先立って、上記半導体基板の表面に樹脂フィルムを貼り、上記表面における上記平坦部の外周面の位置にニクロム線ヒーターを位置させ、上記半導体基板を回転させて余分な樹脂フィルムを切り取ることによって、上記樹脂フィルムの外径が上記半導体基板の外径よりも大きくならないようにすることが記載されている。そして、甲第6号証には、樹脂フィルムの切り抜きをカッターで行うことも記載されている。ここで、甲第6号証記載の「樹脂フィルム」、「カッター」は、それぞれ、本件発明7の「半導体素子保護テープ」、「刃物」に相当することが明らかである。
そうすると、甲第2号証記載の発明において、裏面研削を行う際に、上記甲第6号証記載の2つの事項を組み合わせ、当該裏面研削に先立って、半導体ウェハにおける上記切り込みが形成された表面に半導体素子保護テープを貼り、上記表面における上記平坦部の外周面の位置に刃物を位置させ、上記半導体ウェハを当該半導体ウェハの中心を回転中心として回転させて余分な半導体素子保護テープを切り取ることによって、上記半導体素子保護テープの外径が上記平坦部の外径よりも大きくならないようにすることは、当業者が容易になし得ることである。

この点に関し、被請求人は、甲第6号証の記載のものでは、ウエハ端縁に形成されている面取り部の外周面の位置にニクロム線ヒーターが存在しており、ウエハ平坦部の外周面の位置にニクロム線ヒーターを位置させること、樹脂フィルムの外径を平坦部の外径よりも大きくならないようにすることは、示されていないと主張している(3.(2)(ト)を参照)。
しかしながら、甲第6号証記載の「樹脂フィルム」は、半導体基板の裏面研削時にその表面を保護する目的で使用されるものであるから(甲第6号証の摘記事項(ハ)を参照)、甲第2号証記載の発明に甲第1号証及び甲第6号証記載の事項を組み合わせた場合に、樹脂フィルムの外径を平坦部の外径よりも大きくないないようにすることは、保護すべき半導体基板の表面が平坦部のみになっていることを勘案すれば、むしろ当然に行うことであって、したがって、被請求人の上記主張は採用できない。

そして、本件発明7の作用効果は、甲第2号証記載の発明及び甲第1、6号証記載の事項から当業者が予測可能な範囲内のものであって、格別のものではない。
したがって、本件発明7は、甲第2号証記載の発明及び甲第1、6号証記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜4、7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものであり、また、本件発明5、6についての特許は、請求人の主張及び証拠方法によっては、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2005-07-06 
結審通知日 2005-07-11 
審決日 2005-07-22 
出願番号 特願平10-341672
審決分類 P 1 113・ 121- ZC (H01L)
P 1 113・ 537- ZC (H01L)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 紀本 孝  
特許庁審判長 西川 恵雄
特許庁審判官 岡野 卓也
菅澤 洋二
登録日 2004-01-23 
登録番号 特許第3515917号(P3515917)
発明の名称 半導体装置の製造方法  
代理人 青山 葆  
代理人 山崎 宏  

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