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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1358966
審判番号 不服2018-5143  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-13 
確定日 2020-01-30 
事件の表示 特願2014- 49007「加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物及び予防用栄養組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年10月 1日出願公開、特開2015-172021〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年3月12日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。

平成29年 9月29日付け:拒絶理由通知書
同年11月27日 :意見書
平成30年 1月26日付け:拒絶査定
同年 4月13日 :審判請求書、手続補正書
同年 6月 1日 :前置報告書
同年11月14日付け:拒絶理由通知書
平成31年 1月16日 :意見書

第2 本願発明
本願の請求項1ないし3に係る発明は、平成30年4月13日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
ローヤルゼリーを含有する加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物であって、
前記加齢性疾患及び身体機能低下が、加齢性の筋疾患又は筋力低下、かつ加齢性の骨疾患又は骨密度低下であり、
生ローヤルゼリー換算量で、1日当たり600?14400mgのローヤルゼリーが、ヒトに対して経口投与されるように用いられる、予防用組成物。」

第3 拒絶の理由
平成30年11月14日付けで当審が通知した拒絶の理由は、本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特許第4908769号公報(発行日 平成24年4月4日)
引用文献2:「食品と科学」,岸 直邦 ,株式会社食品と科学社,2012年1月10日,第54巻第2号,13頁

第4 当審の判断
1 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1について
ア 引用発明1には、次の事項が記載されている。
(1-ア)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローヤルゼリー又はその抽出物を有効成分とする老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤。
【請求項2】
さらに骨吸収抑制剤及び/又はカルシウム補充作用を有する食品素材を含有する請求項1に記載の老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤。

(1-イ)【発明が解決しようとする課題】
【0007】
…骨形成を促進して骨代謝全体を活性化させることは、老人性骨粗鬆症や糖尿病性骨粗鬆症の予防や治療に限らず、閉経後骨粗鬆症を含む退行期骨粗鬆症全般に有効な予防効果をもたらし、明るい高齢化社会の実現に向けて大きく貢献することが期待される。
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ローヤルゼリーに骨形成を促進させる作用を見出した。さらに、ローヤルゼリーに、骨基質の主要な蛋白質であり骨芽細胞の分化マーカーとして知られるプロコラーゲン1α1遺伝子の発現を高める作用があることも見出した。そして、これらの知見に基づいて、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の目的とするところは、骨形成を促進させることにより骨粗鬆症の予防に有用な老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤を提供することにある。

(1-ウ)【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、骨形成を促進させることにより骨粗鬆症の予防に有用な老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤を提供することができる。

(1-エ)【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の骨形成促進剤、骨粗鬆症予防剤及びコラーゲン合成促進剤を具体化した一実施形態について説明する。なお、以下、ローヤルゼリーをRJと略記する。…
【0016】
有効成分としてのRJは、生RJ及び乾燥RJのいずれも使用可能である。…有効成分としてのRJ抽出物は、生RJ又は乾燥RJをアルコール等の極性溶媒に浸漬させることによって抽出される。…
【0020】
骨粗鬆症予防剤は、医薬品、医薬部外品又は飲食品として利用される。
医薬品の場合、経口剤又は非経口剤として投与される。経口剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、ドリンク剤等が挙げられる。…一方、飲食品の場合、ドリンク等の飲料品、飴、せんべい、クッキー等の食品、又は食品製剤として経口摂取される。…
【0021】
医薬品、医薬部外品及び飲食品中の有効成分の含有量はいずれも、好ましくは0.001?100質量%、より好ましくは0.001?50質量%、さらに好ましくは0.01?30質量%である。前記有効成分の含有量が0.001質量%未満では骨形成を十分に促進することができない。また、飲食品は、骨粗鬆症の予防のために定期的に経口摂取されることが好ましく、一日数回に分けて経口摂取されることが特に好ましい。一日の摂取量は、特に限定されるものではないが、ローヤルゼリーとしての重量換算で、好ましくは0.001?30g、より好ましくは0.001?20g、さらに好ましくは0.01?10gである。飲食品の一日の摂取量が0.001g未満では、骨粗鬆症に対する予防効果が十分に発揮されない。逆に、飲食品の一日の摂取量が30gを超えると、骨粗鬆症に対する予防効果が十分に発揮される一方で、摂取量の増加分に見合う程の予防効果の増大が見られないため不経済である。

(1-オ)【実施例】
【0024】 …
<RJによる骨形成能の評価>
(実施例1)
中国産RJ凍結乾燥粉末をマウス・ラット・ハムスター用粉末飼料CRF-1(オリエンタル酵母株式会社製)に4%加えることにより、RJ混餌飼料を調製した。
【0025】
(実施例2)
中国産生RJ1kgに95%容量エタノール2.5Lを加えて室温で2時間撹拌した後、吸引濾過した。この濾液を一次抽出液とする。一方、一次抽出液を採取した後の残渣に95%容量エタノール2Lを加えて室温で2時間撹拌した後、吸引濾過した。この濾液を二次抽出液とする。一次抽出液と二次抽出液とを混合し、減圧蒸留することにより溶媒を除去した後、CRF-1に4%加えることにより、RJ抽出物混餌飼料を調製した。
【0026】
(試験例1:正常マウスに対する骨形成能評価)
C57BLマウス(9週齢のメス)を日本エスエルシー株式会社より購入した。CRF-1による1週間の予備飼育後、マウスを4群(各群10匹)に分け、うち3群のマウスに対しそれぞれ、CRF-1からなる通常の飼料、4%RJ混餌飼料(実施例1)又は4%RJ抽出物混餌飼料(実施例2)を2ヶ月間与えて自由に摂取させた。試験期間中、各群間で餌の摂取量に有意な差は認められなかった。なお、陽性対照として、通常の飼料を与えつつ、17βエストラジオール(シグマ社製、#E8875)を3μg/kg/日の投与量で2ヶ月間皮下投与(5日/週)した群も設けた。
【0027】
2ヶ月後、各群のマウスをそれぞれエーテル麻酔下で屠殺し、脛骨を摘出して真空乾燥した後、乾燥骨重量を測定した。さらに乾燥骨を600℃で3時間かけて灰化し、灰化重量を測定した。各群のマウス(各群10匹)について乾燥骨重量及び灰化重量の平均値±標準偏差を求め、結果を下記表1に示した。また、通常飼料群に対して各群のt-検定を行った結果も表1に示した。

【0029】
2ヶ月後、各群のマウスをそれぞれエーテル麻酔下で屠殺し、脛骨を摘出して乾燥骨重量及び灰化重量をそれぞれ測定した。各群のマウス(各群10匹)について乾燥骨重量及び灰化重量の平均値±標準偏差を求め、結果を下記表1に示した。また、通常飼料群に対して各群のt-検定を行った結果も表1に示した。
【0030】
【表1】


【0031】
表1に示すように、…試験例1では、RJ混餌飼料(実施例1)を与えることによって灰化重量の増加傾向が認められ、RJ抽出物混餌飼料(実施例2)を与えることによって灰化重量の有意な増加が認められた。従って、実施例1のRJ混餌飼料及び実施例2のRJ抽出物混餌飼料は、骨吸収の亢進(即ち閉経後骨粗鬆症)を抑える作用は強くなく、むしろ骨形成の低下を抑える作用、つまり老人性骨粗鬆症を予防及び改善する作用に優れていた。以上より、RJ及びRJ抽出物はいずれも、骨形成の促進を介して、骨粗鬆症の予防に優れた効果を発揮するとともに、老人性骨粗鬆症の予防及び改善に優れた効果を発揮することができる。
【0032】
さらに、本実施例では、大腿骨等に比べて測定時の骨重量のバラツキが小さく、個体全体の骨重量の増減を的確に反映し得る脛骨の乾燥骨重量及び灰化重量を測定した。このため、試験例1の実施例1,2で脛骨の骨重量(特に灰化重量)が増加したことは、特定の骨の重量のみが増加したことを意味するのではなく、個体全体の骨重量が生理的に増加したことを意味している点で極めて重要である。なお、表1に示す乾燥骨重量は、灰化重量と蛋白質等の有機物の重量との和からなり、同じ群内のマウスでも個体間に大きなバラツキが見られたことに加え、骨粗鬆症では通常、骨密度(灰化重量)が問題にされることにより、参考程度に参酌すべきであると考えられる。

イ 上記アによれば、引用文献1には、正常マウスに対して、4%ローヤルゼリー混餌飼料又は4%ローヤルゼリー抽出物混餌飼料を2ヶ月間自由に摂取させた群は、通常飼料を与えた群に比べ、脛骨の灰化重量の増加傾向又は有意な増加が認められたことから、ローヤルゼリー及びその抽出物は、いずれも老人性骨粗鬆症の予防及び改善に優れた効果を発揮することが記載され(摘記1-オ)、骨粗鬆症予防剤は、医薬品、医薬部外品及び飲食品として利用されるものであり、飲食品は、骨粗鬆症予防のために定期的に経口摂取されることが好ましく、一日の摂取量は、ローヤルゼリーとしての重量換算で、好ましくは0.001?30gであることが記載されている(摘記1-エ)。
そうすると、引用文献1には、次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「一日の摂取量として、ローヤルゼリーとしての重量換算で好ましくは0.001?30gを経口摂取されるように用いられる、ローヤルゼリー又はその抽出物を有効成分とする、老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤。」

(2)引用文献2について
引用文献2には、次の事項が記載されている。
「健康・自然食品
ミツバチ産品の研究成果を発表

山田養蜂場は12月21日、岡山市内で「みつばち研究助成金健康セミナー」を開催した。セミナーでは同基金に採択された助成研究者が、ミツバチ産品の新たな可能性について講演した。
東北大学大学院医工学研究科の牛凱軍准教授は、ローヤルゼリーの筋力低下抑制作用について、講演した。同准教授はローヤルゼリーや酵素分解ローヤルゼリーが、加齢による筋力の衰えを抑えるかをマウスを使って調べた。その結果、ローヤルゼリーが筋力の低下を抑え、増強させることが示された。ヒトでは圧力を高め、歩行速度を上げることが分かった。そのことから、酵素分解ローヤルゼリーは筋力を保ち、体をスムーズに動かし、高齢者が自立した日常生活を送るのに役立つと期待されると述べた。」(13頁中段落12行?下段落10行」

2 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤」は、本願発明の「加齢性疾患及び身体機能低下」が「加齢性の骨疾患又は骨密度低下」である「予防用組成物」に相当する。
また、引用発明は、「老人性」骨粗鬆症の予防又は改善剤であるから、「ヒト」が経口摂取されるように用いられるものであり、本願発明の「ヒトに対して経口投与されるように用いられる」ものに相当する。
そして、引用発明の「ローヤルゼリーとしての重量換算」における「ローヤルゼリー」は、特別な処理を施していないものであると解されるから、本願発明の「生ローヤルゼリー」に相当する。
そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「ローヤルゼリーを含有する加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物であって、前記加齢性疾患及び身体機能低下が、加齢性の骨疾患又は骨密度低下である、ヒトに対して経口投与されるように用いられる、予防用組成物。」
<相違点1>
加齢性疾患及び身体機能低下が、本願発明においては、「加齢性の骨疾患または骨密度低下」に加えて「加齢性の筋疾患又は筋力低下」である、すなわち「加齢性の骨疾患または骨密度低下、かつ加齢性の骨疾患又は骨密度低下」であるのに対し、引用発明においては、「加齢性の骨疾患または骨密度低下」に相当する老人性骨粗鬆症であって、「加齢性の筋疾患又は筋力低下については特定されていない点。
<相違点2>
生ローヤルゼリー換算量で1日当たりのローヤルゼリーの投与量が、本願発明においては、600?14400mgであるのに対して、引用発明において、好ましくは0.001?30gである点。

3 判断
(1)相違点1について
「食品と科学」という雑誌である引用文献2には、「健康・自然食品」の欄において、岡山市内で開催された「みつばち研究助成基金健康セミナー」で東北大学大学院医工学研究科の牛凱軍准教授が講演した内容が記載されており、その講演内容は、「ローヤルゼリーや酵素分解ローヤルゼリーが、加齢による筋力の衰えを抑えるかをマウスを使って調べた。その結果、ローヤルゼリーが筋力の低下を抑え、増強させることが示された。ヒトでは圧力を高め、歩行速度を上げることが分かった。そのことから、酵素分解ローヤルゼリーは筋力を保ち、体をスムーズに動かし、高齢者が自立した日常生活を送るのに役立つと期待される」というものである。
上記記載における「ヒトでは圧力を高め歩行速度を上げること」とは、マウスの結果からみて、ヒトにおいて筋力の低下を抑え増強させたことにより生じた結果であると解される。
加えて、マウスの実験は、「加齢による筋力の衰えを抑えるか」を調べたものであり、「高齢者が自立した日常生活を送るのに役立つと期待される」と准教授が述べているということからみて、引用文献2の記載に接した当業者であれば、ローヤルゼリー又は酵素分解ローヤルゼリーは、ヒトにおいて、加齢による筋力の低下を抑え増強させる作用を有することが理解できる。
そうすると、ローヤルゼリーを有効成分とする引用発明を、老人性骨粗鬆症の予防又は改善薬としてだけでなく、同時に、加齢による筋力の低下を抑え増強させるためのものとし、引用発明が相違点1に係る本願発明の発明特定事項を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。

(2)相違点2について
ア 引用発明におけるローヤルゼリーの一日の摂取量(「1日当たりの投与量」と同義)は「好ましくは0.001?30g」であり、本願発明とは、「600?14400mg」の範囲で重複一致する。
他方、引用文献2には、筋力の低下を抑え増強させる作用を有するローヤルゼリーの投与量について何ら具体的な数値は示されていない。

イ しかしながら、相違点1について検討したとおり、引用発明を、老人性骨粗鬆症の予防又は改善薬としてだけでなく、同時に、加齢による筋力の低下を抑え増強させる作用を発揮することを目的として使用する場合において、まず、当業者が試みる1日当たりの投与量は、引用発明に係る「好ましくは0.001?30g」という範囲であるといえる。
そして、引用文献1には、0.001g未満では骨粗鬆症に対する予防効果が十分に発揮されないこと、30gを超えると摂取量の増加分に見合う程の予防効果の増大が見られないため不経済であると記載されている(摘記1-エ)ことに照らし、骨粗鬆症に対する予防効果と、加齢による筋力の低下を抑え増強させる作用とが発揮される程度と経済的な面とを考慮して、「好ましくは0.001?30g」の範囲内の数値である600?14400mg(0.6?14.4g)の範囲とすることは、当業者が容易に設定し得る事項である。

(3)効果について
ローヤルゼリーが、加齢性の骨密度低下だけでなく筋力低下も予防できることは、引用文献1及び2の記載から当業者が予測可能である。
また、ローヤルゼリーが、加齢性の骨密度低下を予防するのと同程度の投与量において、加齢性の筋力低下も予防できるということは、格別顕著なものとはいえない。
そして、本願明細書の実施例においては、老人ホームに入居している者に対して、ローヤルゼリーを3600mg/日(低投与群)及び14400mg/日(高投与群)の用量で投与した場合の効果が示されているが、本願発明の下限値である600mg/日に近い用量の試験は行われておらず、また、14400mg/日を超える用量との比較もされていないことから、本願発明の「600?14400mg」の範囲に臨界的意義も見出せない。
したがって、本願発明の効果は、当業者が予測できない格別顕著なものとはいえない。

(4)小括
以上によれば、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 請求人の主張について
(1)請求人は、平成31年1月16日提出の意見書において、以下のとおり主張する。
「本願発明1では、『加齢性の筋疾患又は筋力低下の予防用途』及び『加齢性の骨疾患又は骨密度低下の予防用途』の両用途を特定すると共に、当該両用途への適用を前提としたローヤルゼリーの用法及び用量を特定しています。すなわち、両者(用途と、用法及び用量)は、課題解決の観点から、切り離すことができないまとまりのある構成であるといえます。
したがって、本願発明1と引用発明との相違点は、まとまりのある構成を単位として認定すべきです。具体的には、下記相違点Aとなります。
<相違点A>
本願発明1では、『加齢性の筋疾患又は筋力低下、かつ加齢性の骨疾患又は骨密度低下の両方を予防するための組成物において、生ローヤルゼリー換算量で、1日当たり600?14400mgのローヤルゼリーが、ヒトに対して経口投与されるように用いる』ことを特定しているのに対し、引用発明では、『老人性骨粗鬆症の予防又は改善剤において、ローヤルゼリーとしての重量換算で、好ましくは0.001?30gを経口摂取されるように用いる』点。」
「引用文献1及び2のいずれにも、ローヤルゼリーを『加齢性の筋疾患又は筋力低下の予防用途』及び『加齢性の骨疾患又は骨密度低下の予防用途』の両用途に適用することは記載されておらず、ましてや当該両用途への適用を前提としたローヤルゼリーの用法及び用量、すなわち、『生ローヤルゼリー換算量で、1日当たり600?14400mgのローヤルゼリーが、ヒトに対して経口投与されるように用いる』は示唆すらされていません。
よって、引用文献1及び引用文献2に記載の発明に基づいて、相違点Aに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得たこととは到底いえません。」

(2)そこで、上記主張について検討する。
ア 引用発明の予防又は改善剤は、その用途からみて医薬品や薬効を目的とした健康食品として用いられるものと解される。
一般に、医薬品の開発過程では、動物を用いた安全性試験等の非臨床試験の結果から、薬効、危険性、副作用の可能性などを十分に評価した上で、医薬品として有用性が期待できると判断された薬物についてのみ臨床試験を実施し、臨床試験を通して、薬効又は副作用の面から投与量を徐々に上げながら用量を決定していくものであることは、当該分野における技術常識であり(要すれば、「新医薬品の臨床評価に関する一般指針について」、平成4年6月29日 各都道府県衛生主管部局長あて厚生省薬務局新医薬品課長通知参照)、当該技術常識は、薬効を目的とした健康食品の開発過程においても当てはまるものである。
このように、一般に、医薬品や健康食品の開発過程では、ある物質が特定の「薬効」を奏することを見出し、その「薬効」を発揮するのに適した「用量」を検討するものであるところ、複数の薬効を期待して医薬品や健康食品を開発する際には、用量の検討は、当然、複数の薬効が奏される範囲内で行われるものである。
当審は、このような医薬品や健康食品の開発手順を踏まえて、先の拒絶理由通知において、本願発明と引用発明との対比において、「薬効(用途)」と「用量」を相違点1、2として認定した上で、まず、引用発明に係るローヤルゼリー又はその抽出物を含む組成物において複数の薬効(用途)を想到し得たかという点(相違点1)を検討し、その検討を踏まえ当該複数の薬効(用途)を前提として、「用量(投与量)」を設定できたかという点(相違点2)を検討したものである。
また、本願明細書の「本発明は、…ヒトの投与に適した加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物及び予防用栄養組成物を提供することを目的とする。」(【0006】)、「本発明者等は、鋭意研究を行った結果、ヒトに対してローヤルゼリーを投与すると、その投与量に応じて、加齢性疾患及び身体機能低下を有効に予防できることを見出し、本発明を完成するに至った。」(【0007】)、「投与の目的、投与方法、投与対象の状況…によって異なるが、生ローヤルゼリー換算量で、一日当たり600?14400mg、…より好ましくは1日当たり3600?14400mgのローヤルゼリーが、ヒトに対して経口投与されるように用いられる。」(【0025】)等の記載からみて、本発明者らは、まず、ローヤルゼリーが加齢性疾患及び身体機能低下を有効に予防できることを見出し、その後、その有効な投与量の範囲を見出したものといえるところ、本願発明のこのような開発過程は、上記の相違点1と相違点2の検討過程とも合致するものである。
したがって、本件において、相違点1と相違点2という二つの相違点を認定し、順を追って容易想到性を判断することにより、相違点をことさらに細かく分けて認定したことで容易想到性が正当に判断されることなく進歩性が否定されたというような、特段の不適切な点は見出せない。

イ 仮に、請求人が主張するように、相違点1と相違点2をまとめて、相違点Aと認定した上で判断したとしても、引用発明を両用途に適用することが容易であり、その際の投与量を引用文献1に記載された範囲内から設定することも当業者が適宜なし得たものといえるから、引用発明において相違点Aに係る本願発明の構成を採用することも、当業者が容易であったことに変わりはない。

ウ したがって、請求人の上記主張は採用できない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-02-21 
結審通知日 2019-02-26 
審決日 2019-03-18 
出願番号 特願2014-49007(P2014-49007)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渡部 正博  
特許庁審判長 光本 美奈子
特許庁審判官 前田 佳与子
藤原 浩子
発明の名称 加齢性疾患及び身体機能低下の予防用組成物及び予防用栄養組成物  
代理人 阿部 寛  
代理人 清水 義憲  
代理人 吉住 和之  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 坂西 俊明  

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