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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08L |
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管理番号 | 1076520 |
異議申立番号 | 異議2001-71562 |
総通号数 | 42 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 1993-08-10 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2001-05-28 |
確定日 | 2002-06-07 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第3112753号「硬化性組成物」の請求項1ないし5に係る特許に対する特許異議の申立てについて、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第3112753号の請求項1ないし5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
(1)手続の経緯 本件特許第3112753号は、平成4年9月14日(特許法第41条に基づく優先権主張平成3年9月12日、日本)に出願され、平成12年9月22日にその特許の設定登録がなされ、その後、旭硝子株式会社より特許異議の申立てがなされ、取消理由通知がなされ、それに対し特許異議意見書が提出され、その後、特許異議申立人に対して審尋がなされ、回答書が提出されたものである。 (2)本件発明 本件特許3112753号の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。)は、特許明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 (A)水酸基および/または加水分解性基の結合したケイ素原子を含みシロキサン結合を形成することにより架橋し得る基を有しMw /Mn が1.6以下で平均分子量が6,000以上であるオキシプロピレン重合体100重量部、(B)脂肪酸で表面処理された平均粒径0.5μm以下の炭酸カルシウムを少なくとも30重量%以上含有する炭酸カルシウム100~200重量部、(C)フタル酸エステル系可塑剤を少なくとも5重量%以上含有する可塑剤30~100重量部、(D)化学式R1Si(OCH3)3 および/またはSi(OCH2CH3)4で表される化合物を0.5~10重量部(但しR1 はアミノ基を含有しない1価の有機基)、(E)下記一般式(1)の化合物0.5~10重量部、(F)有機錫系硬化触媒0.5~5重量部を必須成分とし、(D)+(E)成分が2重量部以上であり、(A)成分が15~35重量%を占めることを特徴とする硬化性組成物。 一般式(1) R2Si(CH3)n (OR3)3-n 但し、 R2:少なくとも1個のアミノ基を含有する1価の有機基R3:CH3 またはCH2CH3;n=0または1 【請求項2】 水酸基および/または加水分解性基の結合したケイ素原子を含みシロキサン結合を形成することにより架橋し得る基が一般式(2) 【化1】一般式(2) 〔式中、R4 及びR5 は、いずれも炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基または(R6)3 SiO-で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R4またはR5が2個以上存在する時、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。ここでR6は炭素数1~20の1価の炭化水素基であり、3個のR6は同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基または加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2または3を、bは0、1、または2をそれぞれ示す。また、m個の 【化2】 におけるbは異なっていてもよい。mは0~19の整数を示す。但し、a+Σb≧1を満足するものとする。〕で表される基である請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項3】 水酸基および/または加水分解性基の結合したケイ素原子を含みシロキサン結合を形成することにより架橋し得る基が一般式(3) 【化3】一般式(3) 〔式中、R5、X、aは前記と同じ。〕で表される基である請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項4】 (A)成分のオキシプロピレン重合体の分子量が10,000以上で分子量分布をしめすパラメータ(Mw /Mn )が1.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の硬化性組成物。 【請求項5】 フタル酸エステル系可塑剤がジ(2-エチルヘキシル)フタレートである請求項1に記載の硬化性組成物。」 (3)引用刊行物に記載された事項 当審が通知した取消理由に引用された刊行物1(特開平3-72527号公報、特許異議申立人提出甲第1号証)、刊行物2(特開昭62-151453号公報、同甲第2号証)、先願(特願平2-206084号、特開平4-89861号公報参照、同甲第3号証)、参考資料1(日本ゴム協会ゴム工業技術委員会、第11分科会白色充てん剤特別委員会編集、「フィラーハンドブック」昭和62年6月25日再版第2刷、株式会社大成社発行、第131~140頁、同参考資料1)、参考資料2(特開平2-117954号公報、同参考資料2)、参考資料3(田中英明作成「実験報告書-1」、同参考資料3)、参考資料4(特願平4-114319号の平成11年2月15日付意見書及び参考資料の写し、同参考資料4)及び参考資料5(田中英明作成「実験報告書-2」、同参考資料5)には、次のとおりの記載が認められる。 a、刊行物1 刊行物1は、ポリアルキレンオキシド誘導体の製造法に関する発明が記載され、第5頁左下欄9~17行には、「硬化促進触媒としては……、オクチル酸錫およびジブチル錫ジラウレート等のごときカルボン酸の金属塩:……を使用しうる。より好ましくは、この触媒を加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドに対し、0.01~5wt%配合する。」と記載され、同18行~同右下欄16行には、「本発明における加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドには更に必要であれば補強剤、充填剤、可塑剤、タレ止め剤、架橋剤などを含ませてもよい。…充填剤として炭酸カルシウム、…などが、可塑剤としてはジオクチルフタレート、……などが、……、タレ止め剤として有機酸処理炭酸カルシウム……などがあげられる。架橋剤としては、前記ヒドロシランの水素原子が加水分解性基あるいはアルキル基に変換された化合物、例えばメチルトリメトキシシランやテトラエトキシシランがある。」と記載され、同17行~第6頁左上欄1行には、「本発明の加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドを含む湿気硬化性樹脂組成物は、建造物、航空機、自動車等の被覆組成物およびシーリング組成物またはこれ等の類似物として好適に使用することができる。」と記載され、その実施例によれば、得られた加水分解性基シリル基末端ポリアルキレンオキシドの数平均分子量並びに分子量分布をGPCにて分析した結果として、実施例1では、数平均分子量12,000、分子量分布(Mw/Mn)1.10、実施例2では、数平均分子量15,000、分子量分布(Mw/Mn)1.10、実施例3では、数平均分子量25,000、分子量分布(Mw/Mn)1.20、実施例4では、数平均分子量25,100、分子量分布(Mw/Mn)1.20、実施例5では、数平均分子量35,100、分子量分布(Mw/Mn)1.23であることがそれぞれ記載されている。 b、刊行物2 刊行物2の特許請求の範囲の請求項1には、「1(A)加水分解性ケイ素官能基を有し、主鎖が本質的にポリエーテルである重合体 100重量部 (B)ケイ素原子に結合する加水分解性基を有するケイ素化合物 0.05~30重量部 (C)一般式R13SiNHSiR13(式中、R1は同一または相異なる置換または非置換の1価の炭化水素基または非置換の1価の炭化水素基または水素原子)で表わされるシラザン化合物 (B)の配合部数の5~300重量%に相当する量 および (D)硬化触媒 0.001~10重量部。」が記載され、第3頁左上欄2行~同右上欄10行には、「これら(B)成分は、ケイ素原子に結合する加水分解性基としてアルコキシ基、アシロキシ基、アミノ基……などが例示される。……特に組成物に自己接着性を付与することを目的する場合には、…… H2N(CH2)3Si(OCH3)3、H2N(CH2)3Si(OC2H5)3、…… 上記のシランに、以下に示すような加水分解性基を有するケイ素化合物を併用してもよく、自己接着性を付与する必要のない場合にはこれらケイ素化合物を単独で(B)成分として用いてもよい。 CH3Si(OCH3)3、(CH3)2Si(OCH3)2、CH3Si(OC2H5)3、…… (B)成分は(A)成分100重量部に対して0.05~30重量部の範囲で使用される。」と記載され、同右下欄9~18行には、「本発明における(D)の硬化触媒としては、オクチル酸スズなどのカルボン酸スズ;ジブチルスズジラウレート、……などの有機スズ化合物およびそのエステルとの反応物;……等が挙げられる。これらの硬化触媒は(A)成分100重量部に対して0.001~10重量部の範囲で使用される。」と記載され、第4頁左上欄3~8行には、「本発明のシーリング材組成物には、上記必須成分に加え、補強性を得ることや流動性を適度に調整することを目的として無機質充填材を含有することができる。これら無機充填材としては炭酸カルシウム、……などが例示される。」と記載され、同右上欄3行~同左下欄13行には、「調製例1 平均分子量が約8000、末端基として CH3 | (CH3O)2Si-CH2CH2CH2O-基を有するポリオキシプロピレン100部に対し、脂肪酸処理膠質炭酸カルシウム100部、…フタル酸ジオクチル40部および……均一混合した配合物を調製し、次にこのものを60~70℃、5Torrで30分間混練りを行い、主剤(X-1)を得た。 …… 実施例1 調製例1で得たX-1および調製例2で得たX-2それぞれ260重量部に対して、第I表に示す量の加水分解ケイ素化合物……および硬化触媒を加えて混合して本発明の組成物Y-1、Y-2および比較組成物Z-1、Z-2を得た。」と記載され、その第I表には、H2N(CH2)3Si(OCH3)3とCH3Si(OCH3)3をそれぞれ1部ずつ併用した組成物が記載され、また、実施例の組成物中の(A)成分の割合は37重量%であることが示されている。 c、刊行物3(省略) d、参考資料1 参考資料1の第131頁右欄4~18行には、「さらに、沈降製炭酸カルシウムの一般的な製造で……得られる炭酸カルシウムは、コロイド状の微粒子なので、コロイド性炭酸カルシウム……、あるいはコロイドにちなんで膠質炭酸カルシウムとも呼ばれている。このコロイド性炭酸カルシウムは有機物等で表面処理しないままでも……使用されるが、更に炭酸カルシウムの1~5%量の脂肪酸塩等の有機物で表面処理した炭酸カルシウムはゴム、プラスチック等に混練使用された場合に、補強性その他特殊の性能を与えることから“活性化極微細炭酸カルシウム”…ともよばれている。」と記載され、第134頁の表3によれば、極微細活性化炭酸カルシウムの平均粒子径が0.03~0.15μmであることが記載されている。 e、参考資料2 参考資料2には、ケイ素原子に結合した水酸基および(または)加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうるケイ素含有基を少なくとも1個有するオキシアルキレン系重合体を主成分とする硬化性組成物について記載され、その実施例5~8に記載される組成物中の該オキシアルキレン系重合体の占める割合が33.2%であることが示されている。 f、参考資料3(省略) g、参考資料4(省略) h、参考資料5 分子量分布が広い重合体と分子量分布が狭い重合体について、ほぼ同粘度の重合体を用いた組成物を比較し、押出し性にほとんど差が認められないことが示されている。 (4)対比・判断 本件発明1と刊行物2に記載の発明を対比すると、両者は、(A)水酸基および/または加水分解性基の結合したケイ素原子を含みシロキサン結合を形成することにより架橋し得る基を有し、平均分子量が6,000以上であるオキシプロピレン重合体、(B)脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウムを少なくとも30重量%以上含有する炭酸カルシウム、(C)フタル酸エステル系可塑剤を少なくとも5重量%以上含有する可塑剤、(D)化学式R1Si(OCH3 )3 および/またはSi(OCH2CH3)4 で表される化合物(但しR1はアミノ基を含有しない1価の有機基)、(E)R2Si(CH3)n(OR3)3-nの化合物、(F)有機錫系硬化触媒を含有する硬化性組成物であり、上記成分(A)~(F)の成分割合において重複するものである点で一致し、本件発明1では(A)成分の分子量分布Mw /Mn が1.6以下とするのに対し、刊行物2には、そういった記載がない点(以下、「相違点1」という。)、本件発明1では、脂肪酸で表面処理された炭酸カルシウムの平均粒径を0.5μm以下とするのに対し、刊行物2には、そういった記載のない点(以下、「相違点2」という。)、本件発明1では、(A)成分が15~35重量%を占めるとするのに対し、刊行物2では、その実施例では(A)成分が37重量%である点(以下、「相違点3」という。)で相違するものと認める。 上記相違点について検討する。 相違点1について、刊行物1には、本件発明1の分子量分布の範囲内である1.10~1.23の分子量分布を有する加水分解性シリル基末端ポリアルキレンオキシドが多数記載され、シーリング組成物とすることも記載されており、そういった分子量分布のもの自体はよく知られたものに過ぎず、同じ用途である刊行物2の(A)成分として使用することに格別な困難性は見出せない。 そして、本件発明1では、そういった分子量分布を有することによって粘度が低く、押出し性を良好とするものであるが、押出し性自体、シーリング材にとって、当然に必要な要素に過ぎず、また、本件発明1において、その評価基準を見れば、「A:容易に押出すことができる。B:押出すことにかなりの力を要する」という感覚的な評価に過ぎず、参考資料5によれば、同じ粘度であれば、同じ押出し性が得られることからも、粘度を調製することによって適当な押出し性を有するものが容易に得られるものであるから、格別な作用効果とすることもできない。 相違点2について、刊行物2に記載の脂肪酸処理膠質炭酸カルシウムは、参考資料1に記載の極微細活性炭酸カルシウムを意味することは明らかであり、参考資料1によれば、これらの平均粒径が本件発明1で特定する0.5μm以下であることから、実質的な相違点とは認められないものである。また、刊行物1においても、有機酸処理炭酸カルシウムがタレ止め剤として使用されており、作用効果上も容易に想到し得るものである。 相違点3について、その実施例から(A)成分の含有量は37重量%であり、本件発明1の15~35重量%と比較して、わずかな差異に過ぎず、しかも、刊行物2に示された37重量%は実施例として示されたものであって、刊行物2の(A)成分は実施例に示された数値に限定されたものではないから、当然その数値の前後範囲も含むものと理解でき、また、参考資料2では(A)成分に相当するものが33重量%であるところから見ても、通常のよく使用される範囲のものと認められる。本件特許明細書によれば、その範囲外では接着性及び作業性が問題となるとあり、当業者であれば、作業性を考慮することは当然なことに過ぎず、その最適範囲を求める程度のことは容易なことと認められる。 なお、刊行物1では、シラザン化合物を必須成分としているが、シラザン化合物が接着性改良及び保存安定性のために添加されるものであり、本件特許明細書においても、接着性改良剤、保存安定性改良剤を適宜添加可能とあることからみても、本件発明1がシラザン化合物を排除しているとも認められず、実質的な相違点とすることができないものである。 よって、本件発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、(A)成分について特定式のものに限定するものであるが、刊行物1及び2に記載されるものは該特定式に含まれるものであるから、本件発明1と同様の理由により、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明4は、本件発明1を引用し、(A)成分の分子量及び分子量分布をさらに限定するものであるが、刊行物1に記載されものもその範囲内のものであるから、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 本件発明5は、本件発明1を引用し、(C)成分のフタル酸エステル系可塑剤を限定するものであるが、刊行物1及び2に記載されるジオクチルフタレートないしはフタル酸ジオクチルは、ジ(2-エチルヘキシル)フタレートそのものであるから、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5)むすび 以上のとおりであるから、本件発明1~5は、上記刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易にすることができたものであり、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 よって、特許法等の一部を改正する法律(平成6年法律第116号)附則第14号の規定に基づく、特許法等の一部を改正する法律の施行に伴う経過措置を定める政令(平成7年政令205号)第4条第2項の規定により、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2002-04-15 |
出願番号 | 特願平4-269190 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Z
(C08L)
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最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | ▲吉▼澤 英一 |
特許庁審判長 |
谷口 浩行 |
特許庁審判官 |
佐野 整博 中島 次一 |
登録日 | 2000-09-22 |
登録番号 | 特許第3112753号(P3112753) |
権利者 | 鐘淵化学工業株式会社 |
発明の名称 | 硬化性組成物 |
代理人 | 内田 明 |
代理人 | 加藤 公清 |
代理人 | 添田 全一 |
代理人 | 萩野 平 |
代理人 | 萩原 亮一 |