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審決分類 審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1139208
審判番号 不服2003-21230  
総通号数 80 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 1995-05-02 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2003-10-31 
確定日 2006-07-07 
事件の表示 平成 5年特許願第258762号「定着装置の温度制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成 7年 5月 2日出願公開、特開平 7-114281〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成5年10月15日に出願された特許出願であって、原審において、平成14年9月27日付で拒絶理由が通知され、これに対し、同年11月26日に手続補正がなされたところ、平成15年9月26日付で拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月31日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに手続補正がなされたものであって、その請求項に係る発明は、上記手続補正がなされた明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1乃至5に記載されたものと認められるところ、請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のものである。

「【請求項2】 記録材を加熱する加熱手段と、該加熱手段に圧接されて定着ニップ部を形成する加圧手段と、前記加熱手段の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段の検出温度に基づいて前記加熱手段の温度を制御する温度制御手段を備えた定着装置において、前記温度制御手段は、前記記録材の一枚の定着動作の前半より後半の方の定着温度が高くなるように前記前半中途より目標制御温度を一定値だけ付加することを特徴とする定着装置の温度制御方法。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前の他の出願であって、その出願後に出願公開された特願平4-250675号(特開平6-75504号公報参照)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「【請求項1】 ヒータにより加熱される定着ローラと、この定着ローラに圧接したバックアップローラと、を備え、未定着のトナーが付着したペーパを定着ローラとバックアップローラとに挟持させながら搬送することによりトナーをペーパに熱定着させる定着装置において、
ペーパの搬送方向前半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されている場合におけるヒータの総発熱量に比べて、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されている場合におけるヒータの総発熱量が大きくなるよう、ヒータの発熱を制御する制御手段を有することを特徴とする定着装置。
【請求項2】 上記制御手段は、定着ローラの温度が所定の制御目標温度となるようヒータの発熱を帰還制御可能であり、ペーパの搬送方向前半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されている場合における上記制御目標温度に比べて、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されている場合における上記制御目標温度を高く設定することを特徴とする請求項1記載の定着装置。」(特許請求の範囲)

(b)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は定着装置、詳しくは電子写真プロセスを用いた複写機、レーザビームプリンタ等に使用される加熱式の定着装置に関する。」

(c)「【0002】
【従来の技術】電子写真プロセスを用いた複写機、レーザビームプリンタ等においては、トナーをペーパに定着させる定着装置が使用されている。この定着装置は、内部にヒータを有する定着ローラと、この定着ローラに対向するバックアップローラと、を有して構成されている。定着ローラはヒータの熱を受けて、所定の温度(約150℃)まで上昇し、バックアップローラは定着ローラにより加熱される。このように構成された定着装置の温度変化を図14を参照しながら説明する。
【0003】この図において、1401は定着ローラ表面の温度変化を表し、1402はバックアップローラ表面の温度変化を表している。レーザビームプリンタ等のプリント動作が開始し、ヒータに電流を流すと定着ローラは約150℃に上昇し(t1)、バックアップローラの温度もまた、定着ローラの熱を受けて上昇する。搬送されてきたペーパの先端が両ローラ間に達した時点(t2)においては、バックアップローラの表面温度は約100℃にまで上昇している。そして、ペーパ上のトナーは定着ローラとバックアップローラとから熱を受けることにより溶解し、ペーパ上に定着する。ところが、両ローラの間をペーパが通過することにより(t1〜t2)、バックアップローラに貯えられていた熱量はペーパおよびトナーに奪われ、バックアップローラの表面温度は低下する。ペーパの後端が両ローラから離れると(t2)、バックアップローラは定着ローラによって加熱され、バックアップローラの表面温度は再度上昇する(t3〜t4)。
【0004】このようにして、定着の行われたトナーの定着強度を図15に示す。この図は、ペーパの搬送方向の各部におけるトナーの定着強度を表している。上述したように、ペーパの(搬送方向)前半部は十分に加熱され、そして、ペーパの繊維中に浸透する。このため、ペーパの前半部におけるトナーの定着強度(図中1501)は良好である。ところが、ペーパの後半部においては、バックアップローラの熱が奪われることにより、その温度が低下するため、この部分のトナーは十分に熱溶解しない。このため、ペーパ後半部におけるトナーの定着強度(図中1502)は不十分なものとなり、トナーがペーパから剥離しやすくなるという問題(定着不良)が生じていた。かかる問題は、径が小さいがゆえに熱容量もまた小さいバックアップローラを有する定着装置において顕著に生ずるものである。
【0005】ところで、定着ローラの温度をさらに上昇させることにより、ペーパパ後半部におけるトナー定着不良を解消することはできるが、ペーパ前半部におけるトナーが過熱状態になることによる高温オフセット等の問題が新たに生ずる。
【0006】すなわち、従来の定着装置にあっては、ペーパの前半部が定着ローラとバックアップローラから受ける熱量の総和と、ペーパの後半部が定着ローラとバックアップローラとから受ける熱量の総和と、は異なっていた。このため、ペーパの前半部および後半部の全体にわたって良好な定着を行うことが困難であった。」

(d)「【0007】
【発明の目的】そこで、本発明は、定着装置において、ペーパの前半部および後半部の全体にわたって良好な定着を行うことを目的としている。」

(e)「【0011】
【作用】請求項1に記載の発明に係る定着装置において、ヒータを有する定着ローラは所定温度に加熱されている。バックアップローラもまた、この定着ローラの熱を受け、その温度が上昇している。ペーパの搬送方向前半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されながら搬送されると、ペーパ上のトナーは両ローラの熱により溶解し、そして、ペーパに定着する。バックアップローラに蓄積された熱はペーパ等に奪われるため、バックアップローラの温度は次第に低下する。
【0012】ところが、制御手段は、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラとバックアップローラとの間に達する際には、ヒータの発熱量を増加させる。すなわち、ペーパの搬送方向前半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されている場合におけるヒータの総発熱量に比べて、ペーパの搬送方向後半部が単位面積あたりに受けるにおけるヒータの総発熱量が大きくなるよう、制御手段はヒータの発熱を制御する。
【0013】したがって、ペーパの搬送方向前半部が定着ローラおよびバックアップローラから受ける熱量の総和と、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラおよびバックアップローラから受ける熱量の総和とは略等しくなる。よって、ペーパ上の各トナーは均一な温度で熱溶解するため、ペーパの搬送方向前半部と搬送方向後半部の全体にわたって良好な定着が行われるものである。
【0014】請求項2に記載の発明に係る定着装置において、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラとバックアップローラとに挟持されている場合における定着ローラの制御目標温度は、ペーパの搬送方向前半部がこれらのローラに挟持されている場合における制御目標温度に比べて高く設定される。このため、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラとバックアップローラとの間に達する際には、ヒータの発熱量は増加する。したがって、本請求項2記載の発明に係る定着装置によっても請求項1記載の発明に係る定着装置における効果と同様の効果を得ることが可能となるものである。」

(f)「【0020】この定着装置150は、内部にハロゲンランプよりなるヒータを備えた定着ローラ151と、ペーパを定着ローラ151に圧接するバックアップローラ152とを有して構成されている。・・・・
【0021】この制御回路20を図2にブロック図として示す。この図において、データバスに接続されたCPU21はプログラムROMに書き込まれた動作手順に従い所定の処理を実行するものである。そして、このCPU21には、サーミスタ23の出力信号がA/D変換器25を介して入力されている。サーミスタ23は、定着ローラ151の近傍に配設され、定着ローラ151の表面温度を検出するものである。サーミスタ23から出力された信号はA/D変換器25によりディジタル信号に変換され、そして、このディジタル信号がCPU21に入力されるものである。
【0022】CPU21は、このディジタル信号に基づき、ヒータ駆動回路22に二値の信号を与える。すると、サイリスタ等よりなるヒータ駆動回路22はスイッチング動作を行い、ヒータ153をオンまたはオフするものである。すなわち、ヒータ153は二値制御される。また、CPU21にはペーパセンサ24からの信号が入力されている。このペーパセンサ24は定着装置150近傍のペーパ搬送経路に配設されており、ペーパの先端部が定着装置150に搬送されたことを検出するものである。
【0023】なお、ヒータ153に与える電圧をアナログ的に変化させることによりヒータ153の発熱を制御(連続値制御)してもよい。さらに、ヒータ駆動回路22をインバータ回路を用いて構成することにより、ヒータ153に印加するパルスのデューティ比を連続的に変化してもよい。
【0024】このように構成された定着装置の動作を説明する前に、先ず、ペーパの各部の名称を図3を用いて説明する。この図において、30はペーパを表し、矢印は搬送方向(ペーパが定着装置に搬送される方向)を表している。そして、ペーパ30を搬送方向に対して4つに区画し、それぞれを、ペーパ前端部、ペーパ前半部、ペーパ後半部、ペーパ後端部、と定義する。なお、ペーパ前半部とペーパ後半部との境界線はペーパの略中央である。また、ペーパ前端部、ペーパ後端部は、トナー像が形成されることの少ない領域であり、例えば、ペーパの端部から約2cmほどの範囲である。」

(g)「【0025】続いて、本発明の第1実施例に係る定着装置の動作を説明する。
【0026】図4は、本定着装置の動作を表すメインフローチャートである。先ず、オペレータ等がレーザビームプリンタの電源を投入すると(ステップS401)、上記制御回路20のCPU21は内部レジスタ等の値を初期化する(ステップS402)。同時に、当該メインフローチャートの実行周期を決定するメインルーチンタイマのカウント動作を開始する。そして、CPU21はバスを介してオペレーションパネル等からのデータを入力するとともに、サーミスタ23からの信号を入力する(ステップS403)。この後、制御手段20は、作像カートリッジ130、光学ユニット140等の動作を制御する(ステップS404)。
【0027】ステップS405においては、定着ローラ151表面の制御目標温度を後述するサブルーチンに従い設定する。そして、定着ローラ151の表面温度がこの制御目標温度と一致するよう、ヒータ153を制御する(ステップS406)。この後、CPU21はバスおよびI/Oポート等を介して所定の入出力動作を行い(ステップS407、S408)。さらに、上記メインルーチンタイマが所定値に達している場合(ステップS409でYES)には、上記ステップS403に戻り、当該メインフローチャートを繰り返し実行する。
【0028】図5は、上記ステップS406の温度制御のサブルーチンを示している。ステップS501において、サーミスタ23によって検出された定着ローラ151の表面温度が、ステップS405により設定された制御目標温度以上であるか否かを判断する。定着ローラ151の表面温度が制御目標温度以上である場合(ステップS501でYES)には、ヒータ23をオフする(ステップS503)。一方、定着ローラ151の表面温度が制御目標温度よりも低い場合には、ヒータ23をオンする(ステップS502)。このようにして、定着ローラ151表面の温度が制御目標温度と一致するものである。
【0029】図6、図7に、上記ステップS405の制御目標温度設定処理のサブルーチンを示す。このサブルーチンにおいて使用される変数等を先ず説明する。ステータスPSSTはペーパと定着装置150との位置関係等によってその値が変化するものであり、このステータスPSSTの値(0〜7)によって制御目標温度の値が設定される。また、タイマT1、T2、T3、T4、T5は、ステータスPSSTの値等によってインクリメントされる変数である。そして、X、X1、X2は定着ローラ151表面の制御目標温度を表す定数であり、例えば、X=150℃、X1=145℃、X2=155℃に設定される。続いて、このサブルーチンを説明する。
【0030】先ず、制御手段20はステータスPSSTの値によって、いずれの処理を実行するかを判断する(ステップS601)。このサブルーチンが最初に実行される場合には、ステータスPSSTの値は”0”(初期値)のままである。よって、ステップS602以降の処理が実行される。すなわち、ステップS602において、プリント動作が開始されたか否かを判断し、未だプリント動作が開始していなければステータスPSSTを”0”設定する(ステップS604)。一方、プリント動作が開始している場合にはステータスPSSTを”1”に設定する(ステップS603)。
【0031】そして、制御目標温度を通常の定着温度であるX(150℃)に設定し(ステップS605)、図4に示されるメインフローチャートに戻る。メインフローチャートにおいては、定着ローラ151の表面温度が制御目標温度X(150℃)に一致するよう、ヒータ153が制御される(図4のステップS406)。したがって、プリント動作が開始すると、定着ローラ151の表面温度は150℃に調整され、この定着ローラ151に当接するバックアップローラ152の温度もまた上昇する。
【0032】次にメインフローチャートからこのサブルーチンにジャンプした際には、ステータスPSSTの値は既に”1”に設定されている。したがって、ステップS610以降の処理が実行される。先ず、CPU21は、ペーパセンサ24がオンであるか否か、すなわち作像カートリッジ130から排出されたペーパの先端が定着装置150近傍のペーパセンサ24に達したか否かを判断する(ステップS610)。・・・・
【0033】一方、ステップS610において、ペーパがペーパセンサ24に達することによりペーパセンサ24がオンになった場合には、タイマT1のカウント動作を開始する(ステップS612)。さらに、ステータスPSSTの値を”2”に設定し(ステップS613)、メインフローチャートに戻る。このときの状態を、図8のに示す。図8は、ペーパ、ペーパセンサ24、定着ローラ151等のそれぞれの位置関係を示している。図8のに示されるように、定着ローラ151の手前に位置するペーパセンサ24にペーパの先端が達することにより、ペーパセンサ24がオンするものである。
【0034】次に、このサブルーチンが実行される際には、ステータスPSSTの値は”2”に設定されているため、ステップS620が実行される。ステップS620においては、既にカウント動作を開始しているタイマT1が所定値に達したか否か、すなわち、ペーパの先端がペーパセンサ24を通過した後、定着ローラ151の近傍に達したか否かを判断する。・・・・
【0035】一方、ペーパの先端が定着ローラ151に達したため、ステップS620において、タイマT1のカウント動作が終了した場合には、制御目標温度をX1(145℃)に設定する(ステップS622)。すなわち、制御目標温度を150℃から145℃に下げる。そして、タイマT2のカウント動作を開始し(ステップS623)、ステータスPSSTの値を”3”に設定した後(ステップS624)、メインフローチャートに戻る。メインフローチャートにおいては、定着ローラ151の表面温度が制御目標温度(145℃)に一致するよう、ヒータの制御が行われる(図4のステップS406)。なお、このときのペーパの位置を図8のに示す。このように、ペーパの先端が定着ローラ151の手前に達した際には、定着ローラ151の表面温度が下げられるものである。
【0036】次に、このサブルーチンが実行される際には、ステータスPSSTの値は”3”に設定されているため、ステップS630が実行される。ステップS630においては、既にカウント動作を開始しているタイマT2が所定値に達したか否か、すなわち、(図3において定義した)ペーパの前端部が定着ローラ151を通過したか否かを判断する。判断の結果、NOである場合には、さらにタイマT2をインクリメントした後(ステップS631)、メインフローチャートに戻る。このようにして、ペーパの前端部においては、通常の定着温度Xよりも低い定着温度X1(145℃)によって定着が行われる。ペーパの前端部に与える熱量を少なくすることにより、ペーパ前端部におけるカールを低減できるものである。
【0037】一方、ペーパの前端部が定着ローラ151を通過したため、ステップS630において、タイマT2のカウント動作が終了した場合には、制御目標温度をX(150℃)に設定する(ステップS632)。すなわち、制御目標温度を145℃から150℃に戻す。そして、タイマT3のカウント動作を開始し(ステップS633)、ステータスPSSTの値を”4”に設定した後(ステップS634)、メインフローチャートに戻る。メインフローチャートにおいては、定着ローラ151の表面温度が制御目標温度(150℃)に一致するよう、ヒータの制御が行われる(図4のステップS406)。すなわち、ペーパの前端部が定着ローラ151を通過した後、(図3において定義した)ペーパの前半部が定着ローラ151を通過するまでの間は、定着ローラ151の表面温度が150℃に調整される。なお、このときのペーパの位置を図8のに示す。
【0038】続いて、このサブルーチンが実行される際には、ステータスPSSTの値は”4”に設定されているため、ステップS640が実行される。ステップS640においては、既にカウント動作を開始しているタイマT3が所定値に達したか否か、すなわち、ペーパの前半部が定着ローラ151を通過したか否かを判断する。ペーパの前半部が、定着ローラ151を通過し終わっていない場合(ステップS640でNO)には、さらにタイマT3をインクリメントした後(ステップS641)、メインフローチャートに戻る。このようにして、ペーパの前半部においては、通常の定着温度X(150℃)によって定着が行われる。
【0039】一方、ペーパの前半部が定着ローラ151を通過し終わり、ペーパの中央部が定着ローラ151に達する際には、タイマT3のカウント動作が終了する。よって、ステップS640の判断結果がYESとなり、制御目標温度がX2(155℃)に設定される(ステップS642)。すなわち、制御目標温度を150℃から155℃に上昇させる。そして、ステータスPSSTの値を”5”に設定した後(ステップS643)、メインフローチャートに戻る。すると、定着ローラ151の表面温度が制御目標温度(155℃)に一致するよう、ヒータの制御が行われる(図4のステップS406)。このときのペーパの位置を図8のに示す。
【0040】このようにして、ペーパの後半部が定着ローラ151を通過する間は、定着ローラ151の温度は上昇する。そして、バックアップローラ152もまた、定着ローラ151の熱を受け、その温度が上昇する。したがって、バックアップローラ152の熱がペーパおよびトナーにより奪われることによる、バックアップローラ152の温度低下を抑えることが可能となる。このため、ペーパの前半部が受ける熱の総量と、後半部が受ける熱の総量を同等となり、ペーパの前半部と後半部の全体にわたって良好な定着が行われるものである。
・・・・
【0048】このようにして、ペーパと定着ローラ151との位置関係によって、制御目標温度が設定される。そして、メインフローチャートのテップS407において、定着ローラ151の表面温度が、この制御目標温度と一致するように、制御されるものである。
【0049】図12は、本実施例に係る定着装置における、定着ローラ151、バックアップローラ152のそれぞれの表面温度の変化を表したグラフである。
【0050】この図において、1201は定着ローラ151の表面温度を表し、1202はバックアップローラ152の表面温度を表している。これらの温度変化をレーザビームプリンタの動作に従い説明する。
【0051】先ず、レーザビームプリンタ等のプリント動作が開始し、ヒータに電流を流すと定着ローラ151は約150℃に上昇する(t1)。バックアップローラ152の温度もまた、定着ローラ151の熱を受けて上昇する。搬送されてきたペーパの先端が定着ローラ151の手前に達すると、定着ローラ151の表面温度は145℃に低下する(t2)。ペーパの先端が定着ローラ151に達し(t3)、定着ローラ151の前端部が定着ローラ151を通過する(t4)まで、定着ローラ151の表面温度は145℃に下げられる。よって、ペーパの前端部が受ける熱量は低減されることから、この部分の水分が過度に蒸発することがなくなる。したがって、ペーパ前端部に於けるカールを低減できるものである。
【0052】続いて、ペーパの前半部が定着ローラ151を通過している間(t4〜t5)には、定着ローラ151の温度は通常の定着温度(150℃)に調整される。ところが、ペーパの後半部が定着ローラ151を通過している間(t5〜t6)には、定着ローラ151の表面温度は155℃に高められる。バックアップローラ152もまた、定着ローラ151の熱を受けて、その温度が上昇するため、ペーパおよびトナーに熱を奪われることによるバックアップローラの温度低下は抑えられる。したがって、ペーパの前半部が定着ローラ151およびバックアップローラ152から受ける熱量の総和と、ペーパの後半部が定着ローラ151およびバックアップローラ152から受ける熱量の総和とは略等しくなる。このため、ペーパの前半部および後半部の全体にわたってトナーは均一の定着強度で定着する。・・・・
【0054】図13は、本実施例に係る定着装置によって定着後のペーパにおけるカールおよびその定着強度を表す図である。」

(h)第2実施例についての「なお書き」として、
「【0083】なお、ヒータ153を制御するに際して、いわゆるフィードバック制御を用いることなく、予め定められたデータに基づく電力をヒータ153に印加するフィードフォワード制御を用いてもよい。また、定着ローラ153の熱の伝達時間等を考慮して、ヒータ153をオン/オフするタイミングを適宜変更してもよい。すなわち、定着ローラ151の熱容量が大きいために、熱の伝導時間が長くなる場合には、ヒータ153をオン/オフするタイミングを早めることにより、制御時間の遅れを低減できるものである。」

(i)「【0084】
【発明の効果】以上説明してきたように、本発明によれば、ペーパの搬送方向前半部が定着ローラおよびバックアップローラから受ける熱量の総和と、ペーパの搬送方向後半部が定着ローラおよびバックアップローラから受ける熱量の総和とは略等しくなる。よって、ペーパの搬送方向前半部と搬送方向後半部の全体にわたって良好な定着が行われるものである。」

また先願明細書の請求項1には「未定着のトナーが付着したペーパを定着ローラとバックアップローラとに挟持させながら搬送することによりトナーをペーパに熱定着させる」と記載されていることから、先願明細書に記載された定着装置は、定着ローラとバックアップローラとにより定着ニップ部を形成していることは明らかであり、またこれら摘記した記載事項から、先願明細書に記載された発明は「定着装置の温度制御方法」であることもまた明らかであるから、この記載事項によると、先願明細書には、

「ペーパを加熱する定着ローラと、該定着ローラに圧接されて定着ニップ部を形成するバックアップローラと、前記定着ローラの表面温度を検出するサーミスタと、前記サーミスタの検出温度に基づいて前記定着ローラの温度を制御する制御回路20を備えた定着装置において、前記制御回路20は、前記ペーパの前半部よりも前記ペーパの後半部の定着温度が高くなるように前記ペーパの中央部より目標制御温度を一定値だけ付加する定着装置の温度制御方法。」

が記載されていると認めることができる(以下、「先願明細書記載発明」という。)。

3.対比
そこで、本願発明と先願明細書記載発明とを対比すると、先願明細書記載発明の「ペーパ」「定着ローラ」「バックアップローラ」「定着ローラの表面温度」「制御回路20」は、本願発明の「記録材」「加熱手段」「加圧手段」「加熱手段の温度」「温度制御手段」にそれぞれ相当し、また先願明細書記載発明の「ペーパの前半部よりもペーパの後半部の定着温度が高くなるように」は、本願発明の「記録材の一枚の定着動作の前半より後半の方の定着温度が高くなるように」に相当することもまた明らかであるから、両者は、

【一致点】:「 記録材を加熱する加熱手段と、該加熱手段に圧接されて定着ニップ部を形成する加圧手段と、前記加熱手段の温度を検出する温度検出手段と、前記温度検出手段の検出温度に基づいて前記加熱手段の温度を制御する温度制御手段を備えた定着装置において、前記温度制御手段は、前記記録材の一枚の定着動作の前半より後半の方の定着温度が高くなるように記録材の一枚の定着動作の途中より目標制御温度を一定値だけ付加する定着装置の温度制御方法」
で一致し、以下の点で相違する。
【相違点】:本願発明が記録材の一枚の定着動作の前半中途より目標制御温度を一定値だけ付加するのに対して、先願明細書記載発明は記録材の一枚の定着動作の後半より目標制御温度を一定値だけ付加する点で一応相違する。

4.判断
上記相違点について検討する。
まず本願明細書には、温度制御に関して次のように記載されている。
「【0023】 以下補正方法について説明する。想定している記録材5の中で最も熱容量が大きいものと、最も小さいものを定着したときの加圧ローラー2の温度低下を測定する。一方、図5に示した良好定着領域の下限を示すラインの傾きから、加圧ローラー2の温度の低下分の加熱ローラー1の温度の必要上昇分が求められるので、測定した加圧ローラー2の温度低下をそれに換算して加熱ローラー1の目標制御温度T*を変化させてやれば良い。ただし、実際はそれほど厳密に制御する必要はなく数段階に変化させればよい。本実施例では、図8に示すように記録紙サイズの3分の1の通紙が終了した時点から加熱ローラー1の温度を3℃上昇させている。通常1℃から5℃程度上昇させるのが適切である。」
この記載よれば、記録材の通紙による加圧ローラの温度低下を補償するための温度の付加時期や回数は「それほど厳密に制御」する必要はなく、本願発明は、いわば単純化した制御として、「記録材の一枚の定着動作の前半中途より目標制御温度を一定値だけ付加する」ものであり、またこの単純化に格別の技術的意義を有するものとは認められない。
他方で、先願明細書記載発明も段落番号【0083】において、通紙により加圧ローラの温度が低下することの補償を適宜のタイミングで行うことを記載しているように、本質的に適宜のタイミングを設定すべきものである。
そして、両者は記録材の通紙による加圧ローラの温度低下を補償するために記録材の一枚の定着動作の中途で目標制御温度を高く設定する点で、解決しようとする課題及び解決手段が一致するところ、両者は目標制御温度を高く設定するタイミングが異なるが、これは、通紙する記録材の紙質や定着装置の特性等に応じて変化するであろう加圧ローラの温度低下特性を補うように、適宜目標制御温度を高く設定するタイミング及び何段階で目標制御温度を高く設定するかを設計すべき設計的事項にあたるもので、両者の相違は単なる設計上の微差にすぎないものである。

そして、本願発明の有する効果は、先願明細書記載発明の有する効果と、格別の差異は認められない。

したがって、両者は同一発明である。

5.むすび
以上のとおり、本願発明は、先願明細書に記載された発明と同一であり、しかも、本願発明の発明者が上記先願明細書に記載された発明の発明者と同一であるとも、また、本願の出願時に、その出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので、本願発明は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない。
そして、請求項2に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項1、3、4及び5に係る発明について検討するまでもなく、この特許出願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2006-04-28 
結審通知日 2006-05-10 
審決日 2006-05-23 
出願番号 特願平5-258762
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢沢 清純北川 清伸  
特許庁審判長 山口 由木
特許庁審判官 松本 泰典
山下 喜代治
発明の名称 定着装置の温度制御方法  
代理人 阿部 龍吉  

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