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審決分類 |
審判 全部無効 4項(5項) 請求の範囲の記載不備 無効としない G09G 審判 全部無効 特36 条4項詳細な説明の記載不備 無効としない G09G |
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管理番号 | 1115723 |
審判番号 | 無効2003-35486 |
総通号数 | 66 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 1984-07-17 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2003-11-26 |
確定日 | 2005-04-26 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第1662613号発明「液晶表示装置の駆動方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、昭和57年12月29日に特許出願され(特願昭57-230978号)、平成2年2月19日に出願公告され(特公平2-7444号)、平成4年5月19日に特許権の設定登録がされた特許第1662613号(以下「本件特許」という。)につき、ベンキュージャパン株式会社より平成15年11月26日にその特許請求の範囲1に記載された発明(以下「本件発明」という。)に係る特許に対して無効審判の請求がされ、被請求人シャープ株式会社より平成16年2月16日に答弁書が提出され、請求人ベンキュージャパン株式会社より同年4月28日に弁駁書が提出されたものである。 第2 本件発明 本件発明は、特許された明細書及び図面(以下「本件明細書」及び「本件図面」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲1に記載された以下のとおりのものである。 「1 行電極と列電極の交点に形成されるマトリックス型表示絵素の各々に薄膜トランジスタを付加したマトリックス型液晶表示装置において、前記行電極に加えられる走査信号波形の、前記薄膜トランジスタが導通状態から非導通状態に変化するタイミングを、前記列電極に加えられるデータ信号波形の、前記各々の行電極に接続された表示絵素の表示内容に対応するデータから次のデータへ変化するタイミングに対して、少なくとも走査信号が行電極上を伝播する間に生ずる最大の遅れ時間だけ進めることを特徴とする液晶表示装置の駆動方法。」 第3 請求人の主張 本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面の記載によれば、駆動信号波形に歪が生じた場合でも良好なコントラストを得るため、行電極に加えられている走査信号波形のTFTが導通状態から非導通状態に変化するタイミングを、データ信号波形の表示絵素の表示内容に対応するデータから次のデータへ変化するタイミングに対して最大遅れ時間だけ進めると説明されている。すなわち、走査信号のTFTのオンからオフへの変化タイミング(第6図のタイミング(2))を、その最大遅れ時間τ1だけ、データ信号波形のデータ変化タイミング(第6図のタイミング(1))に対して進めるようにするという構成が本件明細書の発明の詳細な説明及び本件図面に開示されている。 しかし、このタイミングの進みに関し、特許請求の範囲には、「前記行電極に加えられる走査信号波形の、前記薄膜トランジスタが導通状態から非導通状態に変化するタイミングを、前記列電極に加えられるデータ信号波形の、前記各々の行電極に接続された表示絵素の表示内容に対応するデータから次のデータへ変化するタイミングに対して、少なくとも走査信号が行電極上を伝播する間に生ずる最大の遅れ時間だけ進める」と記載されており、走査信号波形の変化タイミングのデータ信号波形のデータ変化タイミングに対する進み時間Tdは少なくとも最大遅れ時間τ1となっていることを構成要件としている。このように、本件明細書の発明の詳細な説明においてはTd=τ1とすることにより表示コントラストにむらが生じるのを解決できると説明されているだけであるのに、特許請求の範囲の記載によれば、Td≧τ1を発明の必須構成要件としているのである。したがって、特許請求の範囲の記載によれば、進み時間Tdの上限値は何ら規定されておらず、Td≧τ1でありさえすれば、進み時間Tdはどのような値であってもよいとされている。 しかしながら、進み時間Tdがτ1よりも余りにも大きくなったような場合には、表示動作に不都合が生じることになることは明らかである。 進み時間Tdを進めた場合には、次のような不具合が生じることは明白である。 第6図に示す場合においていえば、走査信号波形のタイミング(2)-(3)間の信号部分とデータ波形信号の対応するデータ部分との重なり状態が不必要に小さくなり、充分な充電動作を阻害することになり、かえって、意図する適正な表示が不可能となる。行電極の走査信号の印加端に近いところでは、走査信号の遅れが殆どないため、その重なり状態は略零となり、所要の充電動作が全く行われないこととなり、表示に重大な支障を来すことになる。また、重なり部分が不必要に小さくなるということは、それにつれて隣り合うデータ部分との重なりが不必要に大きくなるので、隣り合う画素の動作に対する影響が大きくなり、かえって表示の品質を低下させてしまうことになる。 よって、進み時間Tdには何らかの上限値が存在する筈であるが、本件明細書及び図面を精査しても、この上限値に関する明確な説明を見出すことができない。 したがって、進み時間Tdの上限値を何ら規定していない特許請求の範囲の記載は不明瞭であり、発明の構成に欠くことができない事項が記載されているとは認められないので、特許法36条5項の規定を満たしていない。 また、本件明細書の発明の詳細な説明は、当業者が容易にその発明を実施することができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されているということができず、特許法36条4項の規定を満たしていない。 以上の次第で、本件特許は、特許法123条1項3号の規定により無効とすべきである。 第4 被請求人の主張 本件発明は、走査信号が行電極上を伝播する間に生ずる走査波形の遅れの影響を無くすために、少なくとも走査信号が行電極上を伝播する間に生ずる最大の遅れ時間τ1だけ薄膜トランジスタが導通状態から非導通状態に変化する走査信号波形のタイミング(本件特許の第6図におけるタイミング(2))を、列電極に加えられるデータ信号波形が表示絵素の表示内容に対応するデータから次のデータへ変化するタイミング(同図におけるタイミング(1))に対して進めているのである。 マトリックス型液晶表示装置は、行電極に加えられた走査信号によって薄膜トランジスタ22を一定時間オン状態(導通状態)として、その間に列電極に加えられた表示内容に対応するデータを液晶の静電容量に充電するものであるから、表示内容に対応するデータが列電極に加えられている間(第6図のHの幅)に薄膜トランジスタ22をオン状態(導通状態)にすることは技術常識である。 したがって、本件発明において、薄膜トランジスタが導通状態から非導通状態に変化する走査信号波形のタイミング(本件特許の第6図におけるタイミング(2))は、それをどんなに進めても、対応するデータが列電極に加えられている間(第6図のHの幅)に限られることは当業者にとって自明な事項なのである。換言すれば、敢えて進み時間Tdの上限を定めることになれば、その値は、データ信号波形の対応するデータの1データ長(第6図のHの幅)であることは、当業者にとって自明な事項である。 以上の理由から、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が容易にその発明を実施することができる程度に発明の目的、構成、効果が記載されていることは明らかである。また、本件特許の特許請求の範囲は、「少なくとも走査信号が行電極上を伝播する間に生ずる最大の遅れ時間だけ進める」と記載しており、発明の構成に欠くことのできない事項が記載されている。 以上のように、請求人の主張する無効理由には正当な理由がなく、本件特許を無効とすべきではない。 第5 当審の判断 請求人は、本件発明の「行電極に加えられる走査信号波形の、前記薄膜トランジスタが導通状態から非導通状態に変化するタイミングを、前記列電極に加えられるデータ信号波形の、前記各々の行電極に接続された表示絵素の表示内容に対応するデータから次のデータへ変化するタイミングに対して、・・・進める」時間、すなわち請求人のいうところの進み時間Td、について、本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明にはその上限値が示されておらず、特許法36条4項及び5項に規定する要件を満たしていないと主張しており、以下これについて検討する。 本件明細書の発明の詳細な説明には、技術分野について「本発明は、マトリックス型液晶表示装置に関するもので、特にマトリックス型表示パターンにおける各絵素に薄膜トランジスタを付加したマトリックス型液晶表示装置の駆動方法に関するものである。」(本件特許公告公報1欄20行〜2欄1行)、従来技術の問題点について「電極抵抗及び容量により走査波形のタイミングが遅れると、表示内容によって絵素に加わる電圧が変化し、その変化の大きさは場所によって異なるため、表示コントラストにむらが生じる結果となる。」(同4欄41行〜5欄2行)、発明の目的について「本発明は、マトリックス型液晶表示装置の従来の駆動方法における上記問題点に鑑みてなされたものであり、行電極および列電極の電極抵抗及び容量により駆動信号波形に歪が生じた場合でも良好な表示コントラストを得ることのできる新規有用な液晶表示装置の駆動方法を提供することを目的とするものである。」(同5欄19〜25行)、発明の基本原理について「本発明の駆動方法の特徴は、データ波形の切り替えのタイミングに対して、走査波形のタイミングを予じめずらせておき、波形の遅れの影響を無くすもで(審決注 「もので」の誤記)、第6図はその駆動波形である。・・・トランジスタがオンからオフへ移るタイミング(2)は、行電極の電極抵抗および容量から予想される最大の遅れ時間τ1だけ、データ波形のタイミング(1)に対して速めてある。これによって走査波形の遅れの影響を無くすことができる。」(同5欄27〜39行)、発明の効果について「以上の如く本発明は、行または列電極の電極抵抗および容量とによって発生する信号波形の歪の影響を無くすことができる有効な駆動方法であり、大容量XYマトリックス型液晶表示装置を駆動する上で極めて有益である。」(同7欄4〜8行)との記載がされている。 これによれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、液晶表示装置の駆動方法において、電極抵抗及び容量により走査波形のタイミングが遅れると表示コントラストにむらが生じるという問題点を解決し、行電極および列電極の電極抵抗及び容量により駆動信号波形に歪が生じた場合でも良好な表示コントラストを得るという目的、電極抵抗および容量とによって発生する信号波形の歪の影響を無くすという効果が記載されており、この目的、効果を達成するための手段として、トランジスタがオンからオフへ移るタイミング(2)を最大の遅れ時間τ1だけデータ波形のタイミング(1)に対して速めることが記載されている。 そして、本件発明の上記目的、効果を達成する上で、トランジスタがオンからオフへ移るタイミング(2)を最大の遅れ時間τ1だけデータ波形のタイミング(1)に対して速めることは本件発明の構成に欠くことができない事項であるということができるところ、本件明細書の特許請求の範囲には、これに対応して、「前記行電極に加えられる走査信号波形の、前記薄膜トランジスタが導通状態から非導通状態に変化するタイミングを、前記列電極に加えられるデータ信号波形の、前記各々の行電極に接続された表示絵素の表示内容に対応するデータから次のデータへ変化するタイミングに対して、少なくとも走査信号が行電極上を伝播する間に生ずる最大の遅れ時間だけ進める」との記載がされており、本件発明の構成に欠くことができない事項が記載されているということができる。 請求人は、進み時間が余りにも大きくなると充電動作、隣り合う画素の動作に対する影響などの表示動作の不都合が生じることになり、進み時間の上限値を何ら規定していない特許請求の範囲の記載は不明瞭であると主張する。 しかしながら、充電動作、隣り合う画素の動作に対する影響などの表示動作の不都合は、液晶表示装置の駆動一般に際して当然考慮すべき事項であって、このような事項は、電極抵抗及び容量により走査波形のタイミングが遅れると表示コントラストにむらが生じるという問題点を解決し、行電極および列電極の電極抵抗及び容量により駆動信号波形に歪が生じた場合でも良好な表示コントラストを得るという本件発明の目的、効果に関係するものではなく、進み時間の上限値が本件発明の構成に欠くことができない事項であるというべき根拠は見出せず、この点で本件明細書の特許請求の範囲の記載が不明瞭であるということはできない。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載についても同様であり、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の目的、構成及び効果が記載されていないとすることはできない。 よって、請求人の主張する無効理由には根拠が認められないから、本件特許が昭和60年法律第41号による改正前の特許法36条4項又は5項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということはできず、本件特許は平成5年法律第26号による改正前の特許法123条1項3号に該当するものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、請求人が主張する理由によっては本件発明についての特許を無効にすることはできない。 審判に関する費用については、特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2004-06-04 |
結審通知日 | 2004-06-08 |
審決日 | 2004-06-21 |
出願番号 | 特願昭57-230978 |
審決分類 |
P
1
112・
531-
Y
(G09G)
P 1 112・ 532- Y (G09G) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 小原 英一、川嵜 健、田部 元史 |
特許庁審判長 |
瀧 廣往 |
特許庁審判官 |
江藤 保子 樋口 信宏 |
登録日 | 1992-05-19 |
登録番号 | 特許第1662613号(P1662613) |
発明の名称 | 液晶表示装置の駆動方法 |
代理人 | 山本 光太郎 |
代理人 | 中尾 俊輔 |
代理人 | 伊藤 高英 |
代理人 | 永島 孝明 |
代理人 | 伊藤 晴國 |
代理人 | 高野 昌俊 |
代理人 | 磯田 志郎 |