• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  C08G
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08G
管理番号 1411309
総通号数 30 
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2024-06-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2023-06-15 
確定日 2024-03-13 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第7198380号発明「ポリウレタン水分散体、接着剤、合成擬革、及び塗料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第7198380号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~8、11〕、〔9、10〕、12、13、14、15、16、17について訂正することを認める。 特許第7198380号の請求項1~8、11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第7198380号(以下「本件特許」という。)に係る特願2022-74950号は、令和4年4月28日に出願され、令和4年12月20日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年12月28日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年6月15日に特許異議申立人清水誠(以下「申立人」という。)により、請求項1~8、11に係る本件特許について特許異議の申立てがされたものである。その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。

令和5年 9月28日付け 取消理由通知書
同年11月30日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和6年 1月12日 意見書の提出(申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年11月30日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、一群の請求項である訂正前の請求項1~11について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所である。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、」と記載されているのを、
「前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、前記ポリウレタンの水酸基価が、0.5~35.9mgKOH/gであり、前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、」に訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~8及び11も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項9のうち、請求項1を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含む接着剤。」に訂正する。
(請求項9の記載を直接的に引用する請求項10も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項9のうち、請求項2を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤。」
と記載し、新たに請求項12とする。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9のうち、請求項3を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーと、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上のアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤。」
と記載し、新たに請求項13とする。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項9のうち、請求項4を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物であり、
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである接着剤。」
と記載し、新たに請求項14とする。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項10のうち、請求項2及び9を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。」
と記載し、新たに請求項15とする。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10のうち、請求項3及び9を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーと、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上のアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。」
と記載し、新たに請求項16とする。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10のうち、請求項4及び9を引用するものについて、独立形式に改め、
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物であり、
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。」
と記載し、新たに請求項17とする。

(9)別の訂正単位とする求め
訂正後の請求項9、10、及び12~17については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について(訂正前の請求項1についての訂正)
訂正事項1は、請求項1に記載された「ポリウレタン」に関し、本件明細書の【0034】における「ポリウレタンの水酸基価は、通常、0.5~60mgKOH/gであり」、及び【0062】(表1-1)中の「実施例8」のポリウレタンの水酸基価が「35.9mgKOH/g」である点に基づいて、「ポリウレタンの水酸基価が、0.5~35.9mgKOH/gであり」との発明特定事項を追加して、「ポリウレタン」の物性を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものではない。

(2)訂正事項2~5(訂正前の請求項9についての訂正)及び訂正事項6~8(訂正前の請求項10についての訂正)について
ア 訂正事項2~5は、訂正前の請求項9が「請求項1~4のいずれか一項」を引用していたところ、「請求項1~4のいずれか一項」を引用しないものとした上で、請求項1を引用していた請求項9を訂正後の請求項9とし、請求項2、3又は4を引用していた請求項9を、それぞれ新たに請求項12~14としたものであるから引用関係の解消を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものではない。

イ 訂正事項6~8は、訂正前の請求項10が、「請求項1~4のいずれか一項」を引用していた請求項9を引用していたところ、請求項1と請求項9を引用する請求項10は、そのままの記載とし、請求項2~4のいずれかを引用する請求項10については、請求項9を引用しないものとした上で、
(i)請求項2と9を引用していた請求項10を、新たに請求項15とし、
(ii)請求項3と9を引用していた請求項10を、新たに請求項16とし、
(iii)請求項4と9を引用していた請求項10を、新たに請求項17としたものであるから、引用関係の解消を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものではない。

なお、訂正事項2~8は、特許異議申立の対象となっていない訂正前の請求項9及び10についての訂正であるが、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する引用関係の解消を目的とするものであるから、同法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~8、11〕、〔9、10〕、12、13、14、15、16、17について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~17に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~17に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタンの水酸基価が、0.5~35.9mgKOH/gであり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体。
【請求項2】
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である請求項1に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項3】
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上の前記アルカノールアミンを反応させた反応物である請求項2に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項4】
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである請求項2に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項5】
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が1<[NCO基/OH基(モル比)]≦1.7となる比率で反応させた反応物である請求項2~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項6】
前記脂肪族ポリイソシアネート(A)と前記脂環族ポリイソシアネート(B)のモル比が、(A):(B)=10:90~90:10である請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項7】
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=25:75~90:10である請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項8】
前記樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)が、5~500nmである請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項9】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含む接着剤。
【請求項10】
請求項9に記載の接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体を含有する塗料。
【請求項12】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤。
【請求項13】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーと、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上のアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤。
【請求項14】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物であり、
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである接着剤。
【請求項15】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項16】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーと、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上のアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項17】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物であり、
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。」

第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証~甲第5号証(以下「甲1」などという。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
なお、甲1~甲5は、いずれも、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である。

(1)申立理由1(新規性:特許法第113条第2号
請求項1~5、7、8、11に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。

(2)申立理由2(進歩性:特許法第113条第2号
請求項1~8、11に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)証拠方法
・甲1:特開2000-119511号公報
・甲2:再公表特許WO2020/129605(発行日 令和3年(2021年)2月15日)
・甲3:再公表特許WO2019/221087(発行日 令和3年(2021年)4月30日)
・甲4:特開2011-157527号公報
・甲5:特開2013-253159号公報
・甲6:特開2001-115090号公報

なお、甲1~5は、特許異議申立書に添付して提出されたもので、甲6は、意見書に添付して提出されたものである。

2 取消理由の概要
請求項1~8、11に係る特許に対して、取消理由通知書において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

取消理由(進歩性:特許法第113条第2号
請求項1~8、11に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2、3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第5 当審の判断
特許異議の申立ての対象である請求項は、請求項1~8、11であるから、以下においては本件発明1~8、11について検討する。

1 取消理由(進歩性)及び申立理由2(進歩性)について
取消理由(進歩性)及び申立理由2(進歩性)は、同旨であるから、両者をまとめて判断する。

(1)甲1に記載された発明
甲1には、良好な均展及び仕上げ系の結合剤の最適フィルム形成ができ、乾燥後粘着性ではないポリウレタン水性ポリウレタン分散液を提供することを課題とする発明が記載されており、(【0005】、【0006】)、甲1の請求項1、2及び実施例1の記載によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、甲1の実施例1のC4-ポリエーテルジオールについての「2000のモル質量」との記載は、その2行上の記載からみて、「2000g/モルの平均モル質量」の誤記と認める。

「a)2000g/モルの平均モル質量を有するC4-ポリエーテルジオール283.5gと2000g/モルの平均モル質量を有する線状ヘキサンジオールカプロラクトンカーボネートジオール94.5g、
b)1,4-ブタンジオール27.16g、
c)イソホロンジイソシアネート98.9gと4,4'-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン122.6g、
d)ジメチロールプロピオン酸25.4g、
トリエチルアミン17.7g、
を反応させて得られたNCOプレポリマーを、
e)ジエタノールアミン28.5g、及び、
f)水、
と反応させて得られた、
OH官能性が4、数平均モル質量が5145g/モルであるポリウレタンを含む、
粒子径60nm、固体含有率37.8%の水性ポリウレタン分散液。」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ポリウレタン」は、「NCOプレポリマー」をジエタノールアミンと反応させたものであり、甲1には、成分e)は末端ヒドロキシ基を導入する働きをすることが記載されていることから(【0022】)、甲1発明の「ポリウレタン」は、本件発明1の「その末端に水酸基を有するポリウレタン」「がウレタンプレポリマーに由来する構造を有し」に相当する。
甲1発明の「粒子径60nm、固体含有率37.8%の水性ポリウレタン分散液」は、本件発明1の「ポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有」する「ポリウレタン水分散体」に相当する。
甲1発明の「イソホロンジイソシアネート98.9gと4,4'-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン122.6g」は、本件発明1の「脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネート」に相当する。
甲1の「C4-ポリエーテルジオール」及び「線状へキサンジオールカプロラクトンカーボネートジオール」は、それぞれ本件発明1の「ポリエーテルポリオール(C)」及び「ポリカーボネートポリオール(D)」に相当し、甲1発明の「a)2000g/モルの平均モル質量を有するC4-ポリエーテルジオール283.5gと2000g/モルの平均モル質量を有する線状ヘキサンジオールカプロラクトンカーボネートジオール94.5g」は、その質量比を換算すると75:25(283.5÷(283.5+94.5):94.5÷(283.5+94.5))であるから、本件発明1の「前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5」に相当する。
甲1発明の「ジメチロールプロピオン酸25.4g」は、本件発明1の「酸性基含有ポリオール」に相当する。
甲1発明において、「ジメチロールプロピオン酸25.4g」によりもたらされるポリウレタンの酸価を、以下の式に、ジメチロールプロピオン酸の使用量W=25.4g、ジメチロールプロピオン酸の分子量M=134.13、ポリウレタンの構成材料(中和剤も含む)の合計使用量Y=698.26g(94.5+283.5+25.4+27.16+98.9+122.6+17.7+28.5)を当てはめて計算すると、ポリウレタンの酸価は、15.2mgKOH/gとなるから、甲1発明の「ポリウレタン」は、本件発明1の「酸価が、30mgKOH/g以下」である「ポリウレタン」に相当する。
(酸価の計算式)
ポリウレタンの酸価(mgKOH/g)
={(W/M)×56110}/Y
={(25.4÷134.13)×56110}÷698.26)
=15.2(mgKOH/g)
甲1発明におけるポリウレタンの水酸基価を、以下の式に、ジエタノールアミンの使用量A=28.5g、ジエタノールアミンの分子量B=105.14、ジエタノールアミン1分子中に有する水酸基数=2を当てはめて計算すると、43.6mgKOH/gとなり、本件発明1の「0.5~35.9mgKOH/g」とは異なる。
(水酸基価の計算式)
ポリウレタンの水酸基価(mgKOH/g)
={(A/B)×C×56110}/Y
={(28.5/105.14)×2×56110}÷698.26)
=43.6(mgKOH/g)
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体。」
<相違点1>
ポリイソシアネートが、本件発明1は脂肪族ポリイソシアネートを含むのに対し、甲1発明は脂肪族ポリイソシアネートを含まない点。
<相違点2>
ポリウレタンの水酸基価が、本件発明1は「0.5~35.9mgKOH/g」であるのに対し、甲1発明は43.6mgKOH/gである点。

イ 判断
(ア)事案に鑑みて、まず、相違点2について検討する。
甲1には、ポリウレタンの水酸基価について記載されておらず、甲1発明におけるポリウレタンの水酸基価を「0.5~35.9mgKOH/g」の範囲とする動機付けがあるとはいえない。
また、甲2~甲5には、ポリウレタンの水酸基価に関する記載すらない。

さらに、申立人は意見書に添付して甲6を提出し、甲6の記載(【0009】)によれれば、本件発明1の水酸基価(0.5~35.9mgKOH/g)は、ポリウレタンの調製において特殊なものではない旨を主張する。
甲6には、特定の構造を有するポリエステル-ウレタンAの水性分散液と、所定のトリアジン樹脂Bの水溶液又は水性分散液を含有する、ソフトな感触の塗料のための水性希釈性バインダーが開示され(特許請求の範囲)、ソフトな感触を継続的に持続するソフトな感触の塗料のためのバインダーを提供することを発明の課題とすることが記載されている(【0007】)。甲6には、特定の構造を有するポリエステル-ウレタンAにおいて、水酸基価は25~95mg/gが特に好ましいと記載されているものの(【0009】)、当該ポリエステル-ウレタンAは、甲1発明のポリウレタンとはその構造が異なるし、甲6と甲1とはその発明の課題も異なる。そうすると、甲6は、ポリウレタンの構造と発明の課題が異なる甲1発明においても、同じ水酸基価が好ましいことを示唆するものではないから、甲6は、甲1発明において「0.5~35.9mgKOH/g」という水酸基価を、積極的に採用する動機付けとなるものではない。
そうすると、甲2~甲6の記載を検討しても、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することを当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(イ)そして、本件発明1の効果についてみると、本件発明1の発明特定事項を全て満たす実施例1~3、5~8、10~18は、ポリウレタン水分散体の保存安定性、接着剤の評価項目(5項目)及び塗料の評価項目(3項目)の結果を総合的にみると、不合格の「5」の評価項目がなく、全体としてバランスのとれた評価結果となっており、本件発明1に係るポリウレタン水分散体は、優れた効果を示すことが示されている。

(ウ)したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立人の主張について
(ア)申立人は、以下の(i)及び(ii)の点からみて、本件発明1が、甲1発明に比べて塗料としての物性に関し格別顕著な効果を奏するとはいえず、水酸基の限定は、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎない旨を主張する(意見書2~8頁)。
(i)組成の近い、実施例1、5~9、15を対比すると、本件発明1の水酸基価(0.5~35.9mgKOH/g)の範囲内である実施例1、5~8、15と、水酸基価が48.6mgKOH/gである実施例9とで、耐摩耗性と耐寒屈曲性については、有意な差又は顕著な差があるとまではいえないし、分散性については、むしろ実施例9の方が評価が高い。
特に、実施例15は、耐摩耗性、分散性及び耐寒屈曲性を総合的な評価では、実施例9より、むしろ劣っており、甲1発明の水酸基価が、実施例8(35.9mgKOH/g)と実施例9(48.6mgKOH/g)の間であるとすると、実施例15は、甲1発明よりも総合評価で劣っている蓋然性が高いところ、本件発明1は、甲1発明に対し総合評価で劣っている蓋然性が高い実施例15を含むため、本件発明1の全体にわたって、甲1発明に比べ格別顕著な効果を奏することが示されているとはいえない。
(ii)水酸基価は、樹脂の物性に対する影響が非常に大きい因子であり、水酸基を調整することは当業者が適宜設定し得る事項にすぎない。また、甲6(【0009】)に、水酸基含有ポリエステルーウレタンAの水酸基価が10~120mg/gであり、25~95mg/gが特に好ましいと記載されているように、「0.5~35.9mgKOH/g」という水酸基価は、ポリウレタンの調製において特殊なものではない。

(イ)しかしながら、上記(i)の点については、実施例9と実施例15などの水酸基価の数値だけを取り上げて、水酸基価と塗料としての物性を比較しているが、実施例9と実施例15とは水酸基価以外にも酸価の数値も異なっているから、単純に、水酸基価の数値と塗料としての物性を比較することはできない。
そして、申立人の効果についての指摘は、本件発明1と甲1発明とを直接比較したものではないから、申立人の上記の指摘から直ちに、本件発明1は、甲1発明に対して格別顕著な効果を奏するものではないとまではいえない。
上記(ii)の点については、甲6により、本件発明1の水酸基価の数値がポリウレタンにおいて特殊なものではないことが示されたとしても、このことだけでは、甲1発明における水酸基価の数値は、当業者が適宜なし得る数値範囲の最適化又は好適化にすぎないとする根拠には、足りない。
したがって、申立人の上記主張を検討しても、上記イに説示した判断は左右されない。

(3)本件発明2~8、11について
本件発明2~8、11は、本件発明1において更に発明特定事項を特定したものであるから、本件発明1と同様に、本件発明2~8、11と甲1発明とは、少なくとも相違点1及び2において相違する。
そうすると、上記(2)に説示したものと同様の理由により、本件発明2~8、11は、甲1に記載された発明及び甲2~甲6に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)小括
以上によれば、本件発明1~8、11に係る特許は、取消理由(進歩性)及び申立理由2(進歩性)によっては、取り消すことはできない。

2 申立理由1(新規性)について
本件発明2~5、7、8、11は、本件発明1において更に発明特定事項を特定したものであるから、上記(2)ア及び(3)に説示したように、本件発明1~5、7、8、11と甲1発明とは、少なくとも相違点1及び2において相違する。
そして、相違点1及び2は実質的な相違点であるから、本件発明1~5、7、8、11は、甲1に記載された発明ではない。
したがって、本件発明1~5、7、8、11に係る特許は、申立理由1(新規性)によっては、取り消すことはできない。

3 申立人が主張する本件訂正により生じた新たな申立理由(明確性)について
申立人は、本件訂正により本件発明1において特定された水酸基価(0.5~35.9mgKOH/g)の算出方法について、本件明細書には明確に記載されておらず、また、本件発明1が属する技術分野においては水酸基価の算出方法には、中和剤の使用量を含めて算出する方法と、含めずに算出する方法との両方あるから、本件発明1の水酸基価がいずれの方法で算出されるものであるのかが当業者は把握できず、本件発明1、及び本件発明1に従属する本件発明2~8、11は、明確ではない旨を主張する(意見書8~13頁)。

しかしながら、本件明細書の実施例における水酸基価は、中和剤(トリエチルアミン)の使用量を含めた方法で算出したものであるから、本件発明1~8、11における水酸基価は、実施例と同様に、中和剤の使用量を含めた方法で算出したものであることは、当業者において明らかであり、本件発明1~8、11は、明確である。
したがって、本件発明1~8、11に係る特許は、申立人が主張する新たな申立理由(明確性)によっては、取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1~8、11に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、その他に、請求項1~8、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリウレタンの水酸基価が、0.5~35.9mgKOH/gであり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体。
【請求項2】
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である請求項1に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項3】
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上の前記アルカノールアミンを反応させた反応物である請求項2に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項4】
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである請求項2に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項5】
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が1<[NCO基/OH基(モル比)]≦1.7となる比率で反応させた反応物である請求項2~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項6】
前記脂肪族ポリイソシアネート(A)と前記脂環族ポリイソシアネート(B)のモル比が、(A):(B)=10:90~90:10である請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項7】
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=25:75~90:10である請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項8】
前記樹脂粒子の体積基準の粒度分布の累積50%粒子径(D50)が、5~500nmである請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体。
【請求項9】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含む接着剤。
【請求項10】
請求項9に記載の接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項11】
請求項1~4のいずれか一項に記載のポリウレタン水分散体を含有する塗料。
【請求項12】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤。
【請求項13】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーと、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上のアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤。
【請求項14】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物であり、
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである接着剤。
【請求項15】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項16】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーと、前記ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基に対して、10モル%以上のアルカノールアミンを反応させた反応物である接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
【請求項17】
その末端に水酸基を有するポリウレタンで形成された樹脂粒子及び分散媒体である水を含有し、
前記ポリウレタンが、ウレタンプレポリマーに由来する構造を有し、
前記ウレタンプレポリマーが、ポリエーテルポリオールを含むポリオールに由来する構成単位と、脂肪族ポリイソシアネート及び脂環族ポリイソシアネートを含むポリイソシアネートに由来する構成単位と、酸性基含有ポリオールに由来する構成単位と、を有し、
前記ポリウレタンの酸価が、30mgKOH/g以下であり、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールをさらに含み、
前記ポリエーテルポリオール(C)と前記ポリカーボネートポリオール(D)の質量比が、(C):(D)=20:80~95:5であるポリウレタン水分散体及びイソシアネート系硬化剤を含み、
前記ウレタンプレポリマーが、前記ポリイソシアネートと前記ポリオールを、前記ポリイソシアネート中のイソシアネート基(NCO基)と前記ポリオール中の水酸基(OH基)が[NCO基/OH基(モル比)]>1となる比率で反応させた、その末端にイソシアネート基を有する反応物であり、
前記ポリウレタンが、前記ウレタンプレポリマーとアルカノールアミンを反応させた反応物であり、
前記アルカノールアミンが、アルカノールモノアミンである接着剤で形成された接着層を備える合成擬革。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2024-02-29 
出願番号 P2022-074950
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C08G)
P 1 652・ 121- YAA (C08G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 近野 光知
特許庁審判官 藤原 浩子
小出 直也
登録日 2022-12-20 
登録番号 7198380
権利者 大日精化工業株式会社
発明の名称 ポリウレタン水分散体、接着剤、合成擬革、及び塗料  
代理人 菅野 重慶  
代理人 近藤 利英子  
代理人 竹山 圭太  
代理人 菅野 重慶  
代理人 竹山 圭太  
代理人 岡田 薫  
代理人 岡田 薫  
代理人 近藤 利英子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ