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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  B60L
管理番号 1203173
審判番号 無効2007-800112  
総通号数 118 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2009-10-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2007-06-08 
確定日 2009-09-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3729787号発明「複数の電動車両に誘導電力を分配してこれら車両を共通の軌道に沿って個別に走行させる誘導電力分配システム、電動車両」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3729787号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯・本件発明
本件特許第3729787号の請求項1及び2に係る発明(平成14年3月15日出願、原出願日:平成4年2月5日、平成17年10月14日設定登録。)は、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された次のとおりのものと認める。

【請求項1】
「つぎの事項(1)?(17)により特定される誘導電力分配システム。
(1)軌道と、一次導電路と、電源装置と、複数の電動車両を備え、各電動車両に誘導電力を分配してこれら車両を共通の軌道に沿って個別に走行させる誘導電力分配システムであること
(2)一次導電路は、軌道に沿って敷設されること
(3)電源装置は、一次導電路に所定周波数の交流電流を供給すること
(4)電動車両は、ピックアップと、整流平滑回路と、定電圧回路と、モータを含む負荷とを備えること
(5)ピックアップは、コアに巻かれたピックアップコイルと、ピックアップコイルに並列接続された同調コンデンサを含み、一次導電路から発生する交番磁界に結合可能であること
(6)ピックアップコイルのインダクタンスと同調コンデンサのキャパシタンスは、この並列回路が一次導電路から発生する交番磁界の周波数に共振するように選定されること
(7)整流平滑回路は、全波整流回路と、インダクタを含むこと
(8)全波整流回路は、ピックアップコイルに発生する交流を全波整流すること
(9)インダクタは、全波整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させること
(10)定電圧回路は、ダイオードと、出力コンデンサと、電圧検出回路と、信号発生回路と、スイッチと、スイッチ制御回路を含むこと
(11)ダイオードと出力コンデンサは、整流平滑回路の出力端間に直列接続され、整流平滑回路の出力によって出力コンデンサが充電可能であること
(12)負荷は、出力コンデンサの両端から電力供給を受けて動作すること
(13)モータは、当該電動車両を軌道に沿って走行させること
(14)電圧検出回路は、出力コンデンサの電圧に対応した監視電圧信号を出力すること
(15)信号発生回路は、基準電圧信号を発生すること
(16)スイッチは、整流平滑回路の出力端間に接続されること
(17)スイッチ制御回路は、監視電圧信号と基準電圧信号とを比較するとともに、その比較結果に応じてスイッチをオンオフ切替動作させ、負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化すること」(以下、「本件発明1」という。)

【請求項2】
「つぎの事項(21)?(34)により特定される電動車両。
(21)ピックアップと、整流平滑回路と、定電圧回路と、モータを含む負荷とを備え、一次導電路付きの軌道に沿って走行する電動車両であること
(22)ピックアップは、コアに巻かれたピックアップコイルと、ピックアップコイルに並列接続された同調コンデンサを含み、一次導電路から発生する交番磁界に結合可能であること
(23)ピックアップコイルのインダクタンスと同調コンデンサのキャパシタンスは、この並列回路が一次導電路から発生する交番磁界の周波数に共振するように選定されること
(24)整流平滑回路は、全波整流回路と、インダクタを含むこと
(25)全波整流回路は、ピックアップコイルに発生する交流を全波整流すること
(26)インダクタは、全波整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させること
(27)定電圧回路は、ダイオードと、出力コンデンサと、電圧検出回路と、信号発生回路と、スイッチと、スイッチ制御回路を含むこと
(28)ダイオードと出力コンデンサは、整流平滑回路の出力端間に直列接続され、整流平滑回路の出力によって出力コンデンサが充電可能であること
(29)負荷は、出力コンデンサの両端から電力供給を受けて動作すること
(30)モータは、当該電動車両を軌道に沿って走行させること
(31)電圧検出回路は、出力コンデンサの電圧に対応した監視電圧信号を出力すること
(32)信号発生回路は、基準電圧信号を発生すること
(33)スイッチは、整流平滑回路の出力端間に接続されること
(34)スイッチ制御回路は、監視電圧信号と基準電圧信号とを比較するとともに、その比較結果に応じてスイッチをオンオフ切替動作させ、負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化すること」(以下、「本件発明2」という。)

2.請求人の主張
これに対して、請求人は、本件発明1及び2の特許を無効とする、との審決を求め、概略以下の(1)及び(2)の理由を挙げると共に、証拠方法として甲第1号証ないし甲第20号証を提出している。
(1)本件発明1及び2は原出願当初明細書に記載されていない事項を含むことにより、本件出願は、適正な分割出願ではないため出願日の遡及はなく、現実の出願日である平成14年3月15日に出願されたものとなるところ、原出願当初明細書と本件出願当初明細書とはその開示内容が実質的に同一であるから、平成17年8月10日付け手続補正書による補正は本件出願当初明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではなく、本件発明1及び2の特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してなされたものであって、同法123条第1項第1号に該当し無効とすべきである(以下、「無効理由1」という。)。
(2)本件発明1及び2は、甲第1号証記載の発明に甲第3号証ないし甲第7号証記載の周知技術及び甲第8号証ないし甲第10号証記載の周知技術を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである(以下、「無効理由2」という。)。

(証拠方法)
甲第1号証:米国特許第4914539号明細書及びその訳文
甲第2号証:報告書(1)(本件発明と甲第1号証記載の発明との比較)
甲第3号証:特開昭61-77907号公報
甲第4号証:特開平3-98432号公報
甲第5号証:「パワーエレクトロニクス入門」、昭和59年5月25日
発行、オーム社、表紙、目次、129?133頁、奥付
甲第6号証:「平成元年電気学会全国大会講演論文集」、平成元年3月
10日、電気学会全国大会委員会、表紙、目次、5-39
?5-40頁、奥付
甲第7号証:米国特許第4719552号明細書及びその訳文
甲第8号証:ELEKTRIE34(1980)H.7、表紙、目次、339?341頁及び
その訳文
甲第9号証:特開昭55-92504号公報
甲第10号証:CH2846-4/90/0000-0100$1.00 1990 IEEE、「INDUCTIVE
POWER TRANSFER TO AN ELECTRIC VEHICLE-ANALITICAL
MODEL」、100?104頁及びその訳文
甲第11号証:特表平6-506099号公報(原出願公表公報)
甲第12号証:特開2002-359902号公報(本件出願公開公報)
甲第13号証:本件出願に係る平成17年8月10日付け意見書
甲第14号証:本件出願に係る平成17年8月10日付け手続補正書
甲第15号証:特許第3729787号公報(本件特許掲載公報)
甲第16号証:最高裁昭和53年(行ツ)第140号判決
甲第17号証:東京高裁平成13年(行ケ)第587号判決
甲第18号証:東京高裁平成14年(行ケ)第3号判決
甲第19号証:国際公開2004/042750号パンフレット及び
その訳文
甲第20号証:特願平7-88976号に係る平成13年12月18日
付け意見書

3.被請求人の主張
一方、被請求人は、概略以下の(1)及び(2)の主張をすると共に、証拠方法として乙第1号証を提出している。
(1)本件出願当初明細書と図面の開示内容は原出願当初明細書の開示内容と実質的に同じであり、平成17年8月10日付け手続補正に係る本件発明1及び2は、原出願当初明細書又は図面に記載された発明であるか、原出願当初明細書及び図面の記載から自明の範囲内のものであるから、本件発明1及び2は適法な分割出願に係る発明である。
(2)甲第1号証記載の発明を出発点として、甲第3号証ないし甲第10号証記載の公知技術を適用することで、本件発明1及び2の構成に容易に想到できたとする請求人の主張は根拠がなく、失当である。

(証拠方法)
乙第1号証:山口勝也著「詳解 電気回路・過渡現象演習」、第98頁、
日本理工出版会、昭和55年7月10日発行

4.無効理由2について
そこでまず、無効理由2について検討する。

(1)甲号証
(1-1)甲第1号証
甲第1号証には、図面と共に次の事項が記載されている(なお、訳は甲第1号証中の「訳文」に基くものである。)。

a)「The wireless power distribution system・・・a constant voltage across its load.(訳:上記特許記載の非接触給電システムは更に開発が行われ、現在では、直列共振給電線を駆動する正確に制御された定電流源が含まれる。ピックアップコイルの相互インダクタンスが、給電線内で直列に現れるため、定電流源は、相互インダクタンスおよび負荷が一定である限りにおいてのみ、ピックアップコイル出力での電圧を一定に保持することができる。一方、相互インダクタンスは、給電線とピックアップコイル間の距離に反比例しており、その距離も大幅に変動する可能性がある。更に、娯楽・乗客サービスシステムにより各ピックアップコイルに加えられる電気負荷も、比較的広範囲に変動することもありえる。これら可変パラメータが存在することから、各ピックアップコイルの負荷を横断して電圧を一定に保持するため、該コイル用に調整器を設置する必要がある。)」(1欄50?66行)

b)「In a power supply system・・・a solid-state voltage regulator.(訳:ピックアップ回路に共振的かつ誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて、ピックアップ回路出力上の直流電圧を所定レベルに調整する装置が提供される。この装置には、次の手段が含まれる。ピックアップ回路出力に接続され、所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段。ピックアップ回路出力に接続され、直流電圧関数として変化し、直流電圧より低い比較電圧を生成するよう動作する分圧器手段。調整基準電圧と比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段。比較器手段からの信号を受信するよう接続され、ピックアップ回路を通って流れる電流が、その回路内で循環し、信号関数として変化する期間は出力されないよう電流を分路させる分路手段。
分圧器手段は、可変分圧器ネットワークを備え、また比較電圧を調整し、それによりピックアップ回路出力上の直流電圧レベルを判定する手段を含む。更に、ピックアップ回路には、ピックアップ回路結合の交流信号を整流し、それにより整流電流を生成する手段と整流電流の濾波を行い、直流電圧を生成する手段が含まれる。
分路手段は、比較器手段からの信号で判定される期間、整流電流のショートを行うよう接続される半導体スイッチを備えることが好ましい。交流信号は、ゼロ電圧レベルを通過し、ピーク正・負電圧レベル間で定期的に変化し、半導体スイッチで整流信号がショートする期間は、一般に、交流信号がゼロ電圧レベルにあるとき開始される。半導体スイッチにより、ほぼゼロ電圧レベルで状態が変化するため、そのスイッチングで、電磁干渉はほとんど起こらない。調整基準電圧の生成手段には、半導体電圧調整器が備えられる。)」(2欄15?56行)

c)「As noted above・・・above-referenced patent.(訳:上述のように、航空機座席内設置の負荷に対して、電力と通信信号を分配するシステムが、共通譲受米国特許第4428078号に詳細に開示されている。この特許に関して、ここで参照という形でその開示内容全体を具体的に記載する。本発明は、前記参照の配電システムを更に発展させたものである。好適実施例では、本発明は、複数の遠隔配置負荷、具体的には航空機キャビン内の乗客座席グループ内に設置の乗客娯楽・サービスシステムのそれぞれの貯蔵部分に加えられる電圧の調整提供を対象とする。乗客娯楽・サービスシステムが要する直流電力は、多重巻ピックアップコイルを通して提供される。このコイルは、前記参照特許で開示されるように、給電線に近接して、各座席グループの基部に配置される。)」(3欄9?25行)

d)「Supply loop 68・・・the supply loop.(訳:給電線68は、参照米国特許第4428078号に記載の図1?4に示す給電線26に関し、その構成と同様の構成で、航空機キャビンの床内に設置される。・・・(中略)・・・図1に示すように、通常のピックアップコイルは多数巻コイル70を備える。システム内の他のピックアップコイル(図示せず)も、それぞれ給電線に誘導結合される多数巻コイルを備える。)」(4欄64行?5欄17行)

e)「In FIG.2・・・that resistor to lead 110.(訳:図2において、配電システムで使用される調整器回路72が示されている。調整器回路72は複数の調整器回路よりなり、各回路は座席グループ内に配置され、グループ各座席内に設置の娯楽システム・乗客サービスシステムに供給される電圧を調整するよう動作する。ピックアップコイル70は、共振タンク回路内でリード74、76を通り、3個の並列コンデンサ78、80、82に接続される。コンデンサ78、80、82の代わりに、それらの静電容量合計と等しい静電容量を有する単一コンデンサも使用できる。だが、共振タンク回路の各コンデンサでの散逸電力が極めて大きくなるため、3個以上の並列コンデンサを使用することが好ましい。ピックアップコイル70と給電線68(図1参照)間の誘導結合のため、周波数38kHzで電流がタンク回路内を循環する。好適実施例では、循環電流は負荷なし条件下でおよそ8アンペアであり、その中のおよそ2アンペアが接続負荷への電力供給に利用可能である。
リード74も、ショットキー・ダイオード84の陽極に接続される。ショットキー・ダイオードの陰極は、リード86を介し、インダクタ(チョーク)88の一方側、およびツェナー・ダイオード90の陰極に接続される。リード86も、コンデンサ94と直列の抵抗器92に接続され、コンデンサの他方側はリード76に接続される。Nチャンネル電界効果トランジスタ(FET)96はそのドレインがリード86に接続され、そのソースがリード76に接続され、ツェナー・ダイオード90と並列に配置される。FETのドレインは、リード98を通り、ダイオード100の陰極に接続される。
インダクタ88の他方端はリード102を通り、PNPトランジスタ108のコレクタと直列の抵抗器104の一方側に接続される。トランジスタ108のコレクタはリード106を通り、NチャンネルFET96のゲートに接続され、該トランジスタのエミッタは、リード76に接続され、そのベースがリード110を通って、ダイオード100の陽極と、コンデンサ112の一方側に接続される。コンデンサ112の他方側は、リード76に接続される。リード110も、抵抗器114に接続され、抵抗器の他方側は、リード116を通りリード74に接続される。
フィルタ・コンデンサ118は、リード76と102との間に接続される。また、電圧分圧器ネットワークは、可変抵抗器124に直列接続される2個の固定抵抗器120、122を備え、リード76と102との間に伸びる。固定抵抗器122と可変抵抗器124間の共通接続は、可変抵抗器上のワイパアーム126に接続される。固定抵抗器120と122との間の共通接続は、リード132を通して、演算増幅器(オペアンプ)134の反転入力に接続される。リード102は十V出力端子128で終了し、リード76は接地出力端子130で終了する。
リード136は、電圧調整器とリード76間に接続されるリード140を通して接地するよう参照される電圧調整器138の入力に接続される。好適実施例では、電圧調整器138が5Vの直流調整出力を生成し、この出力は、リード142を通り、オペアンプ134の非反転入力に接続される。・・・(中略)・・・オペアンプ134の出力電位はリード148を通って、抵抗器156の一端に送られ、そしてこの抵抗器を通ってリード110に送られる。)」(5欄18行?6欄26行)

f)「Operation of regulator circuit 72・・・solid-state switching.(訳:調整器回路72の動作は、次の説明から容易に理解できる。つまり、ピックアップコイル70および並列コンデンサ78、80、82を備えるタンク回路は、給電線68からピックアップコイル70に誘導結合される電力周波数38kHzで共振する。タンク回路内の循環電流により、リード74、76を横切って正弦波交流電位が生じる。ショットキー・ダイオード84によって、リード74から正の電流がリード86に流れ、交流電位の負の半分がブロックされる。NチャンネルFET96内のツェナー・ダイオード90と内部ダイオード(別途参照せず)により、リード74、76上での交流電位の他半周期間に、リード76からリード86へ、正進行電流が送られる。これにより、電流は、インダクタ88を通って途切れることなく流れることが可能となる。NチャンネルFET96は、リード76からリード86内への正電流フローに関して、より低い順インピーダンスを有するため、この方向での電流フローの大部分は、ツェナー・ダイオード90ではなく、NチャンネルFET96を通って流れる。NチャンネルFET96がON操作されると、リード76からリード86に正電流が送られる。好適実施例では、ツェナー・ダイオード90により、リード86とリード76間の電圧差がおよそ40Vに制限され、それによりNチャンネルFET96が、その定格電圧限度を超えるドレイン?ソース電圧から保護されることになる。
抵抗器92およびコンデンサ94は、スナッバ・フィルタとして調整器回路内で使用される。このスナッバ・フィルタにより、NチャンネルFET96が導電状態と非導電状態間でスイッチングされる時に生成される無線周波数(RF)騒音が、ピックアップコイル70から給電線68内に伝播返却されることはない。実際には、抵抗器92およびコンデンサ94は任意に設置されるものであり、NチャンネルFET96が生成するEMIが潜在的問題と考えられない適用例では、回路から排除されることが好ましい。(注1:アンダーラインは当審で付した。)しかし、航空機での使用では、調整器回路内でのEMIを減少させるため、適切なあらゆる予防措置が通常取られる。これは、航空電子システム内で使用される通信機器および他の高感度電子装置の破壊を避けるためである。
インダクタ88では、リード86上の半波整流波形と、コンデンサ118による濾波の結果、出力端子128、130を横断して発生する直流電圧間に、インピーダンスが挿入される。(注2:アンダーラインは当審で付した。)好適実施例では、出力電圧は、前もって定められ、通常8V直流に設定される。非調整の場合の出力電圧は、給電線68とピックアップコイル70間での誘導結合の変化および負荷電流の変化が生ずるため、かなりの変動を受ける可能性がある。誘導結合変化は、乗客が機内持ち込み荷物をピックアップコイル上に置き、あるいは足で押すと、ピックアップコイルと給電線68間の物理的距離が減少し、その時に生ずる可能性がある。調整器回路72では、出力端子128、130を横断する電圧が調整される。この電圧調整は、リード74上での38kHz正弦波交流電位の各周期中の短期間、NチャンネルFET96を通る電流を分路することにより行われる。NチャンネルFETが電流分路を開始するのは、リード74上の電位がゼロ交差を通過し、波形の正側から負側に進む時のみである。NチャンネルFET96が電流を分略する期間は、出力を所望の公称レベルに維持するよう制御される。
図3は、NチャンネルFET96が、各周期毎に一度スイッチONされる時間に関し、リード86上における電位波形200を示す。・・・(中略)・・・どのような調整も行われない場合、波形200は波形セグメント202に代わって、破線波形セグメント204に従い、半波形整流信号特性の波形を備えるであろう。
調整器回路72(図2参照)は、16ワットの定格出力電力で、出力端子128、130から、リードに対して2アンペア超の出力電流を提供可能である。出力端子128、130に加えられる負荷により、負荷供給の電流がおよそ2-1/2アンペアを超える場合、ピックアップコイル70およびコンデンサ78、80、82を備える共振タンク回路が共振を停止し、それにより出力端子128、130を横切る電圧が急激に降下し、タンク回路内の共振電流フローがほぼ停止する。この理由から、出力端子128、130を通る短絡電流は、およそ25ミリアンペアに制限される。調整器回路72は、出力端子128、130に定格最大負荷が取り付けられても、NチャンネルFET96により、少なくとも各周期毎、短い間隔で電流が分路される。これにより、ピックアップコイル70と給電線68間の誘導結合が変化する時、出力電圧が調整される。
NチャンネルFET96が電流分路の役割を果たす時間は、電圧調整器138生成の電圧に対して制御される。好適実施例では、電圧調整器138の出力は5V直流であるため、固定抵抗器120、122および可変抵抗器124を備える電圧分圧器ネットワークの構成要素は、所望の公称8V直流(または、他の適当な)出力電圧が出力端子128、130を横断し現れる時、リード132上に公称5V直流を生成するよう選択および調整される。可変抵抗器124により、比較的広範な範囲内、例えば、6?12V直流で、出力端子128、130上での調整電圧の調整が可能となる。これは、調整電圧がリード132上の電圧分圧器ネットワーク出力電圧に対し、制御されるからである。
オペアンプ134は、リード132上で発生の電圧と、リード142上の電圧調整器138からの電圧出力との比較を行う。リード132接続のオペアンプ反転入力上の電位がリード142接続の非反転入力上の電圧より低い場合、オペアンプ134は、正の出力電圧を生成する。オペアンプ134のフィードバック・ネットワークは、比較的高い値のフィードバック抵抗器146(好適実施例では、1メガオーム)を備え、その入力インピーダンスがはるかに低いため、オペアンプ134のゲインが、比較的高くなる。その出力電圧は、オペアンプの反転入力電位が非反転入力電位よりわずかに低い時でも、十Vccに近くなる。オペアンプ134からの正出力電圧は、抵抗器156が電流を制限し、リード110を通ってトランジスタ108のベースに加えられる。トランジスタ108のベースは、リード76を通して接地されるエミッタより正側であるため、トランジスタ108は飽和する。トランジスタ108が飽和すると、トランジスタ108のエミッタおよびNチャンネルFET96のゲートに接続されるリード106上の電位が、約ゼロ、または接地まで降下する。NチャンネルFET96のゲートがトランジスタ108を通って接地されると、それは「OFF状態」に維持され、リード86からリード76への正電流の流れがブロックされる。
出力端子128上の電圧が所望の公称レベルを超えて上昇すると、出力端子128上の電圧から派生するリード132の電圧も、リード142上の電圧調整器138からの電圧出力を超えて上昇する。その結果、オペアンプ134がほぼゼロの出力電圧レベルを有することになる。リード74上の正弦波交流電位がゼロポイントを通り正から負に横切ると、トランジスタ108ベースの電位が接地に対して負となり、その結果トランジスタ108が「OFF操作」される。つまり、そのコレクタとエミッタ接合間での電流フローが停止する。リード106は抵抗器104を通してリード102上の十V電位に接続されるため、NチャンネルFET96が「ON操作」され、それによりリード86からリード76に正電流が分路され、出力端子128での直流電圧が減少する。出力端子128、130横断の電圧は所望のレベルに降下し、その結果、オペアンプ134反転入力に接続されるリード132上の電位が、電圧調整器138からの電位より低くなる。このような状態が起こると、オペアンプ134は、直ちに正電圧生成を開始する。この正電圧はトランジスタ108のベースに加えられ、やがて抵抗器114を通って提供される負電圧を超えることになる。抵抗器114の抵抗は、抵抗器156のおよそ5倍に設定される。よって、リード74上の正弦波交流電位がほとんど負の部分の期間でも、オペアンプ134からの正電流フローはトランジスタ108ベース上の電位を正に駆動することになる。
NチャンネルFET96がリード86からリード76に正電流を伝えるのは、リード74上の正弦波波形が負から正に進む時、つまり周期毎に一回のみであるのは明らかであろう。リード74上の正弦波波形の正半分側の期間では、遅延t3後トランジスタ108がON操作される。この操作は、抵抗器114を通しトランジスタベースに伝えられるリード74上の電位、または抵抗器156を通りベースに達するオペアンプ134からの出力のどちらかにより行われる。オペアンプ134が正出力を生成していない時、抵抗器114、156はリード74上に存在する正電位用に電圧分圧器回路として動作する。これにより、トランジスタ108ベースがエミッタに対して正となることが保証される。このような状態により、トランジスタ108は前述のように導電となり、それによりNチャンネルFET96がリード86からリード76への正電流フローを阻止することになる。
ダイオード100は・・・(中略)・・・遅延t5(図3参照)も与えられる。
オペアンプ134の・・・(中略)・・・電解コンデンサ150を保護する。
調整器回路72は、給電線68とピックアップコイル70間の誘導結合および出力端子128、130に接続されている負荷の両方に関して、比較的広範囲の調整を行う。NチャンネルFET96による分路作用は、負荷に加えられる出力電圧を調整するよう、各波形の一部期間のみ行われ、過度の電流分路による電力消費は起こらない。更に、調整器回路72は、前記のように、過度の負荷電流が引き込まれると短絡により出力電圧が降下するため、短絡保護される。NチャンネルFET96はリード74上の電位がゼロ交差点でのみ電流分路を行うようON操作されるため、生じるEMIは最小となる。半導体スイッチングにより生じるRF騒音のほとんどを濾過排除するため、抵抗器92およびコンデンサ94を任意に設けてもよい。)」(6欄27行?9欄46行)

g)「The embodiments of the invention・・・at a zero voltage level.(訳:独占権または特権を請求する本発明の実施例は、以下の通り定義される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 ピックアップ回路に共振的および誘導的に結合される交流信号を生成する電源を有する給電システムにおいて、前記ピックアップ回路出力上で直流電圧を所定レベルに調整する装置であり、
(a) 前記ピックアップ回路出力に接続され、前記所定レベルよりかなり低い調整基準電圧を生成する手段と;
(b) 前記ピックアップ回路出力に接続され、前記ピックアップ回路からの直流電圧出力関数として変化し、前記直流電圧より低い比較電圧を生成する分圧器手段と;
(c) 前記基準電圧と前記比較電圧間の差関数として変化する信号を生成する比較器手段と;
(d) 前記比較器手段からの信号を受信するよう接続され、前記信号の関数として交流信号の周波数程でしかない低い周波数で変化する期間、電流が前記ピックアップ回路内で循環し、出力されないように、前記ピックアップ回路を流れる電流を周期的に分路する手段とを備えることを特徴とする装置。
【請求項2】 前記分圧器手段が可変電圧分圧器ネットワークを備え、前記比較電圧を調整し、それにより前記ピックアップ回路出力上の前記直流電圧レベルを判定する手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】 前記ピックアップ回路が前記ピックアップ回路接続の交流信号を整流し、それにより整流電流を生成する手段と、前記整流電流を濾波し、それにより直流電圧を生成する手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項4】 前記分路手段が前記比較器手段からの信号で判定される期間、前記整流電流をショートさせるよう接続される半導体スイッチを備えることを特徴とする請求項3に記載の装置。
【請求項5】 前記半導体スイッチが前記整流電流をショートさせる期間は、前記整流電流がほぼゼロ電圧レベルにある時に開始することを特徴とする請求項4に記載の装置。)」(9欄55行?10欄32行)

h)また、FiG.2.には、ショットキー・ダイオード84の半波整流回路と該半波整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させるインダクタ88とからなる整流平滑回路が示されている。

これらの記載事項及び図示内容を総合すると、甲第1号証には次の2つの発明が記載されていると認められる。

「つぎの事項により特定される誘導的に結合される給電システム。
・給電線68と、交流信号を生成する電源と、複数の遠隔配置負荷を備え、各遠隔配置負荷に誘導電力を分配してこれら遠隔配置負荷を動作させる誘導的に結合される給電システムであること
・給電線68は、床内に設置されること
・交流信号を生成する電源は、給電線68に38kHzの交流電流を供給すること
・遠隔配置負荷は、共振タンク回路と、整流平滑回路と、出力電圧を所定レベルに調整する回路と、電気負荷とを備えること
・共振タンク回路は、多重巻のピックアップコイル70と、ピックアップコイル70に並列接続された並列コンデンサ78,80,82を含み、給電線68に誘導結合可能であること
・ピックアップコイル70のインダクタンスと並列コンデンサ78,80,82のキャパシタンスは、この並列回路が給電線68に供給される交流電流の38kHzに共振するように選定されること
・整流平滑回路は、ショットキー・ダイオード84の半波整流回路と、インダクタ88を含むこと
・半波整流回路は、ピックアップコイル70に発生する交流を半波整流すること
・インダクタ88は、半波整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させること
・出力電圧を所定レベルに調整する回路は、コンデンサ118と、分圧器手段と、調整基準電圧を生成する手段と、NチャンネルFET96と、NチャンネルFET96を制御する手段を含むこと
・コンデンサ118は、整流平滑回路の出力端間に接続され、整流平滑回路の出力によってコンデンサ118が充電可能であること
・電気負荷は、コンデンサ118の両端から電力供給を受けて動作すること
・分圧器手段は、コンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧を出力すること
・調整基準電圧を生成する手段は、調整基準電圧を発生すること
・NチャンネルFET96は、半波整流回路の出力端間に接続されること
・NチャンネルFET96を制御する手段は、分圧電圧と調整基準電圧とを比較するとともに、その比較結果に応じてNチャンネルFET96をON-OFF切替操作させ、分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整すること」(以下、「甲1発明A」という。)

「つぎの事項により特定される遠隔配置負荷。
・共振タンク回路と、整流平滑回路と、出力電圧を所定レベルに調整する回路と、電気負荷とを備えること
・共振タンク回路は、多重巻のピックアップコイル70と、ピックアップコイル70に並列接続された並列コンデンサ78,80,82を含み、給電線68に誘導結合可能であること
・ピックアップコイル70のインダクタンスと並列コンデンサ78,80,82のキャパシタンスは、この並列回路が給電線68に供給される交流電流の38kHzに共振するように選定されること
・整流平滑回路は、ショットキー・ダイオード84の半波整流回路と、インダクタ88を含むこと
・半波整流回路は、ピックアップコイル70に発生する交流を半波整流すること
・インダクタ88は、半波整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させること
・出力電圧を所定レベルに調整する回路は、コンデンサ118と、分圧器手段と、調整基準電圧を生成する手段と、NチャンネルFET96と、NチャンネルFET96を制御する手段を含むこと
・コンデンサ118は、整流平滑回路の出力端間に接続され、整流平滑回路の出力によってコンデンサ118が充電可能であること
・電気負荷は、コンデンサ118の両端から電力供給を受けて動作すること
・分圧器手段は、コンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧を出力すること
・調整基準電圧を生成する手段は、調整基準電圧を発生すること
・NチャンネルFET96は、半波整流回路の出力端間に接続されること
・NチャンネルFET96を制御する手段は、分圧電圧と調整基準電圧とを比較するとともに、その比較結果に応じてNチャンネルFET96をON-OFF切替操作させ、分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整すること」(以下、「甲1発明B」という。)

(1-2)甲第3号証ないし甲第7号証
甲第3号証(特に第1図参照)、甲第4号証(特に第5図参照)、甲第5号証(特に図5・2(a)参照)、甲第6号証(特に図1参照)及び甲第7号証(特にFIG.1参照)には、スイッチがオンした時に出力コンデンサの放電を防止させるダイオードを備えた電源回路が開示されている。

(1-3)甲第8号証ないし甲第10号証
甲第8号証(特にBild 1参照)、甲第9号証(特にFIG_1参照)及び甲第10号証(特にFigure 1.及びFigure 4.参照)には、非接触給電システムを、軌道に沿ってモータで走行させる電動車両へ適用した技術が開示されている。

(2)本件発明1について
(2-1)対比
本件発明1と甲1発明Aとを比較すると、その機能・作用からみて、後者における「誘導的に結合される給電システム」が前者における「誘導電力分配システム」に相当し、以下同様に、「給電線68」が「一次導電路」に、「交流信号を生成する電源」が「電源装置」に、「38kHz」が「所定周波数」に、「共振タンク回路」が「ピックアップ」に、「出力電圧を所定レベルに調整する回路」が「定電圧回路」に、「電気負荷」が「負荷」に、「並列コンデンサ78,80,82」が「同調コンデンサ」に、「給電線68に誘導結合可能」が「一次導電路から発生する交番磁界に結合可能」に、「給電線68に供給される交流電流の38kHz」が「一次導電路から発生する交番磁界の周波数」に、「コンデンサ118」が「出力コンデンサ」に、「分圧器手段」が「電圧検出回路」に、「調整基準電圧を生成する手段」が「信号発生回路」に、「NチャンネルFET96」が「スイッチ」に、「NチャンネルFET96を制御する手段」が「スイッチ制御回路」に、「コンデンサ118の電圧を分圧した分圧電圧」が「出力コンデンサの電圧に対応した監視電圧信号」に、「調整基準電圧」が「基準電圧信号」に、「ON-OFF切替操作」が「オンオフ切替動作」に、それぞれ相当している。
そして、後者の「多重巻のピックアップコイル70」は、ピックアップコイルがコアに多重に巻かれているのが普通であるから、前者の「コアに巻かれたピックアップコイル」に相当するといえる。
さらに、前者の「負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化する」とは、本件特許明細書(甲第15号証参照)の段落【0032】の「出力負荷(14116)による消費電力が小さいと、出力コンデンサ(14115)から出力負荷(14116)に流れる出力電流が小さいので(ゼロも含む)、出力コンデンサ(14115)の電圧が基準値より大きくなる傾向を示し、これに対応してスイッチ制御回路(14117)(14123)はスイッチ(14113)のオン割合を大きくする。すると、ピックアップコイル(14111)に生じる交流電圧が低下し、よって整流平滑回路の直流出力電圧が低下し、出力コンデンサ(14115)の充電電流が減少する(ゼロも含む)。つまり、出力負荷(14116)に流れる小さな出力電流に見合うように充電電流を減少させる自動制御が働き、出力コンデンサ(14115)の電圧が定電圧化する。」なる記載からみて、負荷の消費電力が小さいことに対応して出力コンデンサの電圧が基準値より大きい場合にスイッチのオン割合を大きくして出力コンデンサの電圧を定電圧化することを意味するものと解されるから、後者の「分圧電圧が調整基準電圧より大きい場合にNチャンネルFET96をON操作して半波整流回路の出力電流を分路することによりコンデンサ118の電圧を所定レベルに調整する」態様は、前者の「負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化する」態様に相当する。
また、後者における「遠隔配置負荷」と前者における「電動車両」は、「被電力供給体」なる概念で共通し、後者の「遠隔配置負荷を動作させる」態様と前者の「車両を共通の軌道に沿って個別に走行させる」態様とは、「被電力供給体を駆動させる」との概念で共通し、後者の「給電線68は、床内に設置される」態様と前者の「一次導電路は、軌道に沿って敷設される」態様とは、「一次導電路は、所定箇所に敷設される」との概念で共通し、後者の「半波整流回路」と前者の「全波整流回路」とは、「整流回路」との概念で共通し、後者の「NチャンネルFET96は、半波整流回路の出力端間に接続される」態様と前者の「スイッチは、整流平滑回路の出力端間に接続される」態様とは、「スイッチは、整流回路で整流された後の出力端間に接続される」との概念で共通している。

したがって、両者は、
「つぎの事項により特定される誘導電力分配システム。
一次導電路と、電源装置と、複数の被電力供給体を備え、各被電力供給体に誘導電力を分配してこれら被電力供給体を駆動させる誘導電力分配システムであること
一次導電路は、所定箇所に敷設されること
電源装置は、一次導電路に所定周波数の交流電流を供給すること
被電力供給体は、ピックアップと、整流平滑回路と、定電圧回路と、負荷とを備えること
ピックアップは、コアに巻かれたピックアップコイルと、ピックアップコイルに並列接続された同調コンデンサを含み、一次導電路から発生する交番磁界に結合可能であること
ピックアップコイルのインダクタンスと同調コンデンサのキャパシタンスは、この並列回路が一次導電路から発生する交番磁界の周波数に共振するように選定されること
整流平滑回路は、整流回路と、インダクタを含むこと
整流回路は、ピックアップコイルに発生する交流を整流すること
インダクタは、整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させること
定電圧回路は、出力コンデンサと、電圧検出回路と、信号発生回路と、スイッチと、スイッチ制御回路を含むこと
出力コンデンサは、整流平滑回路の出力端間に接続され、整流平滑回路の出力によって出力コンデンサが充電可能であること
負荷は、出力コンデンサの両端から電力供給を受けて動作すること
電圧検出回路は、出力コンデンサの電圧に対応した監視電圧信号を出力すること
信号発生回路は、基準電圧信号を発生すること
スイッチは、整流回路で整流された後の出力端間に接続されること
スイッチ制御回路は、監視電圧信号と基準電圧信号とを比較するとともに、その比較結果に応じてスイッチをオンオフ切替動作させ、負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化すること」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
被電力供給体に関し、本件発明1が、「軌道」を備え、「車両を共通の軌道に沿って個別に走行させる」ものであり、一次導電路が「軌道に沿って」敷設され、かつ、「モータを含む」負荷を備えた「電動車両」であると共に、「モータは、当該電動車両を軌道に沿って走行させること」としているのに対し、甲1発明Aは、かかる特定がなされていない点。
[相違点2]
整流回路に関し、本件発明1が、「全波整流回路」であり、ピックアップコイルに発生する交流を「全波整流」するものであるのに対し、甲1発明Aは、「半波整流回路」であり、同交流を「半波整流」するものである点。
[相違点3]
本件発明1が、定電圧回路に「ダイオード」を含むものであり、「ダイオード」と出力コンデンサは、整流平滑回路の出力端に「直列」接続されるとしているのに対し、甲1発明Aは、かかるダイオードを備えていない点。
[相違点4]
整流回路で整流された後の出力端間に接続されるスイッチに関し、本件発明1が、「整流平滑回路」の出力端間、即ち、「インダクタ」を介した後で出力コンデンサの直前の出力端間に接続されるものであるのに対し、甲1発明Aは、「整流回路」の出力端間、即ち、「インダクタ」を介する前の出力端間に接続されるものである点。

(2-2)判断
上記相違点について以下検討する。

・相違点1について
甲第8号証ないし甲第10号証に開示されているように、非接触給電システムを、軌道に沿ってモータで走行させる電動車両に適用することは周知技術である。
そして、甲第1号証の摘記事項「a)」を参酌すれば、甲1発明Aの本質的な課題は、非接触給電システムにおける負荷が比較的広範囲に変動してもピックアップコイル出力での電圧を一定に保持する調整器の設置にあることが窺われるところであり、上記周知技術においても、甲1発明Aと同様の課題が生ずることは明らかである。
また、甲1発明Aにおいて、被電力供給体は誘導電力分配が可能な範囲内で当業者が適宜選定し得るものといえる。
そうすると、非接触給電システムの技術分野に属する甲1発明Aにおいて、上記周知技術を踏まえれば、被電力供給体として上記の電動車両を選定することにより相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、かかる選定に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点2について
整流回路を全波整流回路とするか半波整流回路とするかは、当業者が必要に応じて適宜選択し得る設計的事項であるから、甲1発明Aにおいて、半波整流回路を全波整流回路に改変することにより相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、かかる改変に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上、当業者にとって容易であり、また、それにより格別な効果が奏されるともいえない。

・相違点3及び4について
本件発明1においては、スイッチが「インダクタ」を介した後で出力コンデンサの直前の出力端間に接続されているため、スイッチがオンした時に出力コンデンサの放電を防止させる「ダイオード」の存在が必要となっているものと解される。
一方、甲1発明Aにおいては、スイッチ(NチャンネルFET96)が「インダクタ」を介する前の出力端間に接続されているものであり、「インダクタ」が、整流回路の出力電流を平滑する機能のみならず、出力コンデンサ(コンデンサ118)からの放電を防止し得る機能(甲第1号証の摘記事項「f)」の中のアンダーラインを付した箇所(注2の部分)の記載参照)をも有するものであるといえる。
そして、甲1発明Aにおいて、スイッチを、「インダクタ」を介する前の出力端間に接続するか、「インダクタ」を介した後の出力端間に接続するかは、当業者が必要に応じて適宜選定し得る設計的事項であり、後者の接続を選定した場合には、スイッチが出力コンデンサの直前の出力端間に接続されることから、出力コンデンサからの放電を防止するための回路素子が別途必要となることも容易に理解されるところである。
また、甲第3号証ないし甲第7号証に開示されているように、電源回路の分野において、スイッチがオンした時に出力コンデンサの放電を防止させるダイオードを使用すること自体は周知技術である。
そうすると、甲1発明Aにおいて、スイッチを「インダクタ」を介した後の出力端間、即ち、出力コンデンサの直前の出力端間に接続する際に、上記周知技術を加味することにより、相違点3及び4に係る本件発明1の構成とすることは、かかる構成とする上での格別な技術的困難性が何等認められない以上、当業者が容易に想到し得えたものというべきであり、また、それにより格別な効果が奏されるともいえない。

そして、本件発明1の全体構成により奏される効果も、甲1発明A及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。

なお、被請求人は答弁書において、本件発明1では一次導電路に帰還するインピーダンスが負荷の消費電力が小さい場合に小さくなるので、消費電力の小さい負荷が原因で一次導電路に電流を流しにくくなるという現象の発生を回避できるとの効果を奏する旨主張している。
ところで、本件特許明細書(甲第15号証参照)の段落【0033】には、「出力負荷(14116)による消費電力が小さい場合、スイッチ(14113)のオン割合が大きくなることによって、ピックアップコイル(14111)に生じる交流電圧・電流が減少する。ピックアップコイル(14111)に流れる交流電流が減少すると、この交流電流の誘導作用により一次導電路に帰還するインピーダンスが小さくなる。」と記載されている。
本件特許明細書の上記記載を踏まえれば、負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化する甲1発明Aにおいても、スイッチのオン割合が大きくなることによって、ピックアップコイルに生じる交流電流が減少することになり、この交流電流の誘導作用により一次導電路に帰還するインピーダンスが小さくなるといわざるをえないから、被請求人の主張する上記と同様の効果を奏するものと解される。

さらに、被請求人は答弁書において、甲1発明Aにおいて本件発明1のスイッチ制御回路に置換することが周知技術に基づいて容易想到であると仮定したとしても、そのように置換したのでは「生じるEMIは最小となる」という重要な技術要件に適合しなくなってしまうため、かかる置換には明白な阻害要因が存在する旨主張している。
ところで、甲第1号証については以下の点が明らかである。
第一に、甲第1号証の摘記事項「a)」を参酌すれば、甲1発明Aの本質的な課題は、非接触給電システムにおける負荷が比較的広範囲に変動してもピックアップコイル出力での電圧を一定に保持する調整器の設置にあることが窺えること。
第二に、甲第1号証の摘記事項「f)」の中のアンダーラインを付した箇所(注1の部分)の記載によれば、甲1発明Aの適用例としては、EMIを考慮しなくてよいものが含まれていると解されること。
第三に、甲第1号証の摘記事項「g)」を参酌すれば、EMIを最小とするための構成は請求項5に記載されてはいるものの、請求項1?4に係る発明の必須の構成要件としては含まれていないこと。
以上の点を踏まえれば、EMIを最小にするための構成は甲1発明Aの必須の構成要件として認定する必要のないものであると共に、EMIを最小にすることが甲1発明Aの解決課題であるともいえないから、甲1発明Aにおいて本件発明1のスイッチ制御回路に置換する際に格別の阻害要因が存在するとはいえず、被請求人の上記主張は到底採用できない。

以上のとおりであるので、本件発明1は、甲1発明A及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものというべきである。

(3)本件発明2について
(3-1)対比
本件発明2と甲1発明Bとを比較すると、上記「(2-1)」での検討内容を踏まえれば、両者は、
「つぎの事項により特定される被電力供給体。
ピックアップと、整流平滑回路と、定電圧回路と、負荷とを備えること
ピックアップは、コアに巻かれたピックアップコイルと、ピックアップコイルに並列接続された同調コンデンサを含み、一次導電路から発生する交番磁界に結合可能であること
ピックアップコイルのインダクタンスと同調コンデンサのキャパシタンスは、この並列回路が一次導電路から発生する交番磁界の周波数に共振するように選定されること
整流平滑回路は、整流回路と、インダクタを含むこと
整流回路は、ピックアップコイルに発生する交流を整流すること
インダクタは、整流回路の出力電流路に介在して平滑した直流を出力させること
定電圧回路は、出力コンデンサと、電圧検出回路と、信号発生回路と、スイッチと、スイッチ制御回路を含むこと
出力コンデンサは、整流平滑回路の出力端間に接続され、整流平滑回路の出力によって出力コンデンサが充電可能であること
負荷は、出力コンデンサの両端から電力供給を受けて動作すること
電圧検出回路は、出力コンデンサの電圧に対応した監視電圧信号を出力すること
信号発生回路は、基準電圧信号を発生すること
スイッチは、整流回路で整流された後の出力端間に接続されること
スイッチ制御回路は、監視電圧信号と基準電圧信号とを比較するとともに、その比較結果に応じてスイッチをオンオフ切替動作させ、負荷の消費電力が小さいほどスイッチのオン割合を大きくさせて出力コンデンサの電圧を定電圧化すること」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点a]
被電力供給体に関し、本件発明2が、「電動車両」であり、「モータを含む」負荷を備え、「一次導電路付きの軌道に沿って走行する」ものであり、かつ、「モータは、当該電動車両を軌道に沿って走行させること」としているのに対し、甲1発明Bは、かかる特定がなされていない点。
[相違点b]
整流回路に関し、本件発明2が、「全波整流回路」であり、ピックアップコイルに発生する交流を「全波整流」するものであるのに対し、甲1発明Bは、「半波整流回路」であり、同交流を「半波整流」するものである点。
[相違点c]
本件発明2が、定電圧回路に「ダイオード」を含むものであり、「ダイオード」と出力コンデンサは、整流平滑回路の出力端に「直列」接続されるとしているのに対し、甲1発明Bは、かかるダイオードを備えていない点。
[相違点d]
整流回路で整流された後の出力端間に接続されるスイッチに関し、本件発明2が、「整流平滑回路」の出力端間、即ち、「インダクタ」を介した後で出力コンデンサの直前の出力端間に接続されるものであるのに対し、甲1発明Bは、「整流回路」の出力端間、即ち、「インダクタ」を介する前の出力端間に接続されるものである点。

(3-2)判断
上記の相違点について検討する。

・相違点aについて
上記「(2-2)」の「相違点1について」での検討内容を踏まえれば、甲1発明Bにおける被電力供給体として、軌道に沿ってモータで走行させる電動車両を選定することにより、相違点aに係る本件発明2の構成とすることは、かかる選定に際し格別な技術的困難性が何等認められない以上、当業者が容易に想到し得たものというべきである。

・相違点bないしdについて
相違点bないしdは、上記「(2-1)」の相違点2ないし4と実質的に同じである。
そうすると、上記「(2-2)」の「相違点2について」及び「相違点3及び4について」での検討内容を踏まえれば、甲1発明Bにおいて、相違点bないしdに係る本件発明2の構成とすることは、かかる構成とする上での格別な技術的困難性が何等認められない以上、当業者が容易に想到し得えたものというべきであり、また、それにより格別な効果が奏されるともいえない。

そして、本件発明2の全体構成により奏される効果も、甲1発明B及び上記周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。
以上のとおりであるので、本件発明2は、甲1発明B及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものというべきである。

(4)まとめ
以上のとおりであるので、本件発明1及び2は、いずれも甲第1号証記載の発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、無効理由2には、理由があるというべきである。

5.むすび
したがって、無効理由1について検討するまでもなく、本件発明1及び2の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2008-01-16 
出願番号 特願2002-71125(P2002-71125)
審決分類 P 1 113・ 121- Z (B60L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 杉田 恵一西山 昇  
特許庁審判長 田中 秀夫
特許庁審判官 米山 毅
仁木 浩
登録日 2005-10-14 
登録番号 特許第3729787号(P3729787)
発明の名称 複数の電動車両に誘導電力を分配してこれら車両を共通の軌道に沿って個別に走行させる誘導電力分配システム、電動車両  
代理人 森本 義弘  
代理人 一色国際特許業務法人  
代理人 梶 良之  
代理人 井上 愛朗  
代理人 梶 良之  
代理人 笹原 敏司  
代理人 福田 親男  
代理人 板垣 孝夫  
代理人 福田 親男  
代理人 渡邊 肇  
代理人 飯塚 卓也  

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